なんのかの言って家
九州の人間は上京よりも来阪する可能性が高い。
親世代または祖父母世代が、集団就職で大阪を中心とする関西圏に出ていた事が多く、人脈や土地勘をある程度備えているからだ。
私と同世代の親戚も、気が付けば私を含めて半数ほどが関西圏に移住している。
そんな九州出身者の中でも私は異色だったようだが、大阪の、少なくとも河内地域において、変わり者である事はなんらマイナスではなく、誉め言葉と捉えても良いくらいであったので、私には大変に水が合った。
まぁ確かに職場のおっちゃん連中から喫煙所で、
「なんやお前、箱入り娘か」
などとイジられて、
「はい。箱は箱でも段ボール箱ですが」
と即返し、煙混じりの息を数人分吹き出させた奴は、私くらいのものだっただろう。
「お前この辺りでその発言はシャレになれへんで」
「シャレじゃないですから。本気で、紛れもない実感を述べていますから」
やがて面白がってくれたおっちゃんのうちの一人が、
「おかやん見てるとなんか俺のツレ思い出すねん。いっぺん会わせてみたいねんけど」
と深夜のファミレスで引き合わせてくれたのが、今現在の配偶者だ。
十歳近く年上であったから当初は付き合う事など想定していなかったが、十歳近く年上であるが故に、付き合い出したなら死別以外の理由で別れる事を想定しなくなった。
付き合い出して二、三ヶ月程度で、実家の墓の話をされ、ゆくゆくは墓を継ぐ立場になった事を打ち明けられた。
こちらもプロポーズすらされていない段階で、ペアの結婚指輪を買ったり目に付いた結婚式場を見学に行ったりした。
「ところで私の故郷は九州の、相当な田舎なんですが」
「いいじゃない田舎。僕の家があるここだって田舎だし」
「お言葉ですがタケシさん(仮名)、ここは都会です」
「都会? ここが?」
「都道府県庁所在地まで、電車一本で一時間以内にたどり着けるのなら私にとっては都会です」
「ああ。その基準で言うならね。でも、実家のお墓がある場所はすごいよ。あそこほどの田舎は僕知らない」
「それでは行って見てみますか」
「行きたい。九州楽しみ」
地味な張り合いだったけれども私の方が圧倒的に勝利した。
言わずもがなだがこの場合の「勝利」とは田舎度合いが強い側だ。
「すすす、すごいねぇ。日本にいまだにこんな所があるんだねぇ」
「慄いただろう。しかし安心してほしい。『村長への挨拶はいらない』と言われている」
「なんのはなしですか」
その声はわずかばかり震えていた。
「むらおさ? そんちょう、ではなく?」
「そう。行政機関の長ではなく、この地域の、おかの一族の中でも本家筋で最も歳を重ねた者、つまり長老だな」
「そそそ、その方は、ゆきこさんにとっての親戚なんですね?」
「親戚、というか遠縁だな。母方の祖父の従兄弟にあたる」
「遠っ。でもそれなら、村の人たちやゆきこさんは、長くお世話になってきた方なんですね?」
「いいや?」
ぎゃふん、となった人の顔を私はそこでリアルに見た。
「普段全く接していないんだが、村に家族が暮らしている以上冠婚葬祭などの大事には、必ず挨拶しなくてはならない人、だ。姉は長女なのでもちろん義兄と挨拶に伺ったが、幸い私は『大阪の人間になるのだからいらない』と言われているんだ。私たちにはむしろ都合が良かったよな」
「おおお恐ろしい話だった気がするけど、結果的に最高です。どうぞどうぞ大阪の人間になって下さい」
「おうともさ。全力で脱出してやる。その機会をくれて有難うよ」
「こんな言い方が正解かどうかは分からないけど、面白いです。きっと貴方のような人には二度と出会えないでしょう」
それがプロポーズだったと思えば思える。
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