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「相談するほどではない」と思うとき|臨床心理士が伝える相談の目安

日常の中で経験する様々な『心のぐるぐる』…それに対して、あなたもすでに様々な対処法を行ってきているかもしれません。

怒られた後の出来事を、紙に書き出してみた。

実際に言われたことと、自分が受け取った意味を分けてみた。どんな場面で緊張しやすいのかも、考えてみた。

それでも、苦しさが続いている。

そんなとき、「これは、誰かに相談したほうがいいのかな」という思いが出てくることもあると思います。

相談したほうがいい気もする。けれど、相談するほど大きなことではない気もする。

「もっと大変な人がいるし…。」
「私はまだ仕事には行けているから…。」
「自分でもう少し頑張れば、なんとかなるかもしれない…。」

そんなふうに考えて、また一人で抱え込んでしまう。

この記事では、そういった「相談すべきかどうか」を決める前に、もう少し手前のところを見てみたいと思います。

つまり、いまあなたが何を根拠に「相談するほどではない」と判断しているのか、というところです。



「相談するほどではない」という判断には、予測が混ざっています

最初に、この記事の結論を書きます。

『誰かに相談することは、自分で何もできなくなってから使うべき最後の手段』ではないということです。

もちろん、つらいことがあったからといって、必ず誰かに相談しなければならないわけではありません。一人で考えて整理できることもありますし、少し時間を置くことで見え方が変わることもあるでしょう。

ただ、そうした対処の選択肢の一つに、誰かに相談するということも入れておいて欲しいのです。

ここでもう一つ、お伝えしたいことがあります。

「相談するほどではない」という判断には、いまの自分の状態についての評価だけでなく、「相談したら、どうなるだろう」という、まだ起きていないことへの予測も混ざっています。

私たちは相談する前に、相手にどう思われるか、話したことで何が起きるか、相談して本当に役に立つのかといったことを、頭の中で想像します。そして、その予測や見積もりも材料にしながら、相談するかしないかを決めています。

もちろん、その予測が現実に合っていることもあります。

ただ、苦しさが続いているときには、相談することで生じる不利益を大きく見積もったり、相談しないことで続く負担を小さく見積もったりすることがあります。

実際にいろいろな場面でお話を聴かせていただいていると、これはもうちょっとじっくりとお話しを聴いたほうが良さそうだな…と思っても「私は大丈夫です、まだ仕事に来れてますので。」といった反応をされたことがたびたびあります。

どうするかを決めるのはご本人なので無理強いはできませんが、それでもそういったときは、一人の専門職として相談したほうがいいと思う旨、提案はさせていただいています。

相談する・しないを決める「4つの見積もり」

では、その予測や見積もりの中身を、もう少し詳しく見てみましょう。

相談するかどうかを迷っているとき、私たちが頭の中で考えているのは、だいたい次の四つです。

一つ目は、相談して得られそうなもの
話を聞いてもらえることで、安心感が得られる、アドバイスがもらえる、あるいは何かしら状況が動くといったことですね。
相談することで得られるであろうメリットについて考えます。

二つ目は、相談して失いそうなもの
ここには色々なものが入ります。相手の負担になるかもしれない。大げさだと思われるかもしれない。話しても何も変わらないかもしれない。職場の人に伝わるかもしれない。うまく説明できないかもしれない。
そんな、相談することで生じる可能性のあるデメリットについて考えます。

三つ目は、相談しないことで得られそうなもの
自分で何とかできたという感覚、誰にも知られずに済むこと、いまの関係を波立たせずにいられること。
これらは相談しないことで生じるであろうメリットです。

そして四つ目が、相談しないことで失いそうなものです。
相談しないことで、余計に時間が過ぎたり、あなた自身のエネルギーが消耗したりするかもしれません。必要な情報や支援につながる機会を逃す可能性もあります。
つまりは相談しないことで生まれる可能性のあるデメリットですね。

このように、「相談する」という一言の背景には『相談する or 相談しない』×『メリット or デメリット』という4つの側面があります。

さて、ここで少し考えてみてください。

「もっと大変な人がいる」「自分でもう少し整理すれば」と思っているとき、あなたの頭の中では、どれが一番はっきり見えているでしょうか。

おそらく、二つ目か三つ目ではないでしょうか。相談したときに起きる面倒なことと、自分で何とかしたほうがいいという感覚。この二つは、とてもはっきりと見えているのではないでしょうか。

一方で、四つ目はどうでしょう。相談しないまま、この状態が続いたらどうなるか。ここは、ぼんやりしていることが多いのです。

このように、様々なことを理性的に捉えて冷静に判断しているというよりも、ある面、ある部分だけに注目してしまって偏った判断をしてしまうことが起こりがちなものです。

ストレスが強いと、「相談しない理由」が大きく見えやすい

そしてここが、この記事で一番お伝えしたいところです。
苦しさが続いているときほど、この見積もりは、相談しない方向へ傾きやすくなります。

疲れているとき、眠れていないとき、自分を責め続けているとき。そういうときには、「話しても分かってもらえないだろう」「余計に迷惑をかけるだろう」という相談することで生じる可能性のあるデメリットに関する想像のほうが、リアルに感じられるようになります。

これは言い換えれば、不安や心配、劣等感といった、感情面を優先してしまっている状態と言えます。

というのも、心理学的には人は誰しもストレスが強くかかっている状態では理性的な判断がうまく機能せず、より感情的な判断を優先してしまうと言われています。

痛みや不調が続いているなら病院などの専門機関に相談に行く。平時であればなにも問題なく行われるこうした判断が、ストレスが続いている状況だと「相談に行かない(行きたくない)」「自分はまだ大丈夫(だと思いたい)」という判断に偏ってしまうのです。

さらに、悪い意味での『外側からの後押し』もあります。

残念ながらいまの世の中では、精神的なことや心理的な悩みや不調に関しては、『相談をする=弱い人』と思われてしまう偏見も根強くありますからね。ますます相談したくなくなってしまうわけです。

これは、あなただけが特別、こうした判断をしてしまうという話ではありません。誰でもそのようになってしまう可能性がある、ということなのです。

だからこそ、ぜひ覚えておいてください。
「相談するほどではない」と強く感じることは、相談が必要でないことの証拠には、なりません。

その感覚が強いこと自体は、いまの状態を通した見え方かもしれない。だとしたら、その感覚だけを根拠に決めてしまうのは、少し危険かもしれないと私は思うのです。

もちろん、四つの見積もりを一度見直したうえで、「いまは相談しない」と決めるのも、立派な一つの判断です。相談することが正解で、しないことが不正解、という話ではありません。

ただ、見直さないまま決めているのだとしたら、そこには一度、立ち止まる価値があります。

相談の目安は、頭の中の予測だけでなく「実際の変化」から見る

見積もりは、頭の中の想像です。ですので、それだけで決めようとすると、どうしても堂々巡りになりがちであったり、偏った結論になりがちです。

そこで、自分の外側にあって、比較的確かめやすい材料、つまりは実際に起きている変化も一緒に見てみましょう。

1つ目:生活や仕事への影響が続いていないか

例えば、こんなことはあるでしょうか。

布団に入っても職場の場面が浮かんで眠れない。食欲が変わった。集中できず、いつもならしないミスが増えた。出勤前に動悸や吐き気が強くなる。休日も仕事から離れられず、休んだ感じがしない。家事や身支度が、これまでより難しくなった。

これらは一つあったからといって、それがすぐに深刻な状態を意味するわけではありません。ただ、眠れない、食欲がない、疲れが取れない、集中しにくいといった変化が数週間にわたって続いているのなら、それは相談や受診を考える材料になります。

2つ目:苦しさが長引く・強まる・繰り返す

「何日続いたら相談すべき」という決まった数字があるわけではありません。ただ、期間も大事な要素の一つです。そしてそれと同時に、その変化についても見てみてください。

少しずつ落ち着いてきているのか。同じ強さのまま続いているのか。それとも、眠れない日や食欲のない日、怖くなる場面が、少しずつ増えてきているのか。

波があること自体は、おかしなことではありません。ただ、その波の底が以前より深くなっていたり、落ち着いている日が減ってきているようなら、それは見ておきたい変化です。

また、いったん落ち着いたとしても、同じ相手や同じ状況になるたびに、また強い反応が出る。そういう繰り返しが起きることもあります。

3つ目:避けることが増え、選べる行動が狭くなっていないか

例えば、質問したいのに聞けない。報告が遅れそうでも声をかけられない。会議で発言するのを避ける。相手と廊下で会わないよう、時間をずらす。

これは、意志が弱いから起きるわけではありません。怖いことを避けることで、その場の緊張を下げようとしている。そういう働きでもあります。

ただ、避ける場面が増えて、仕事の進め方や生活にまで影響が広がっているなら、それも相談を行う必要性を考える材料の一つです。


誤解しないでほしいのですが、ここまでお伝えしてきた3つの側面について、三つのうち二つで相談、一つなら我慢、という話ではありません。

人によって困っていることも、使える支えも異なります。なので大切なのはその個数ではなく、あくまでもあなたにとって、以前と比べていまの状態がどちらへ向かっているのか、ということです。

もし仮に、考えれば考えるほど自責や混乱が強くなってしまうのなら、それはもう、冷静に判断する材料が足りていないというサインかもしれません。

身体症状や安全に関わることは、相談の目安より先に確かめる

さて、ここまでの話に加えてもう一つ、先に確認しておいて欲しいことがあります。
それは、動悸、胸の痛み、息苦しさ、めまい、強い頭痛などの強い身体症状です。

もしこれらがあるときには、心理的な反応だと自分だけで決めず、医療機関でぜひ、身体面を確認してください。心の問題だと思っていたものが、そうではない場合もあります。

また、気分の波が、月経の周期と重なっているように感じることはないでしょうか。

月経前の時期に落ち込みやイライラが強くなる、あるいは更年期にさしかかって気分が不安定になるということは、決して珍しいことではありません。この場合、婦人科で相談することで、お薬の力を借りながら早く落ち着くこともあります。

「性格の問題」「気の持ちよう」と片づけられがちなところですが、体の側から整えられる部分もあるのです。

さらには、自分を傷つけたい気持ちが強かったり、そうした考えが頭から離れない場合。あるいは、暴力やハラスメントを継続的に受けていて、安全を保てない場合。こうしたときには、この記事に書いた一般的な目安よりも、安全の確保を優先してください。ぜひ、早めに公的な相談窓口など、すぐに使える支援につながる必要があります。

相談先は、「正解」より「いちばん怖くない入口」で選ぶ

「そこまで緊急性が高くないけど、やっぱり相談したほうがいいかもしれない」などと思っても、次に困るのが、誰に、あるいはどこに相談すればいいのか分からない、ということです。

ここで実は、さきほどの見積もりの話が使えます。

相談先は、いま自分が一番高く見積もっているコストが、なるべく低い入口はどこか、という選び方をしてかまいません。

職場に伝わるのが怖いなら、社外の窓口から

たとえば、「職場に伝わるのが怖い」のであれば、社外の窓口から入るという方法があります。

厚生労働省の「こころの耳」では、働く人やその家族に向けて、電話、SNS、メールの相談窓口が案内されています。匿名で、無料で使えます。入口を選べるというのは、それ自体が一つの助けです。

相手の負担になるのが怖いなら、相談を役割にしている人へ

「相手の負担になるのが怖い」のであれば、聞くことがその人の役割に含まれている相手を選ぶ、という考え方があります。職場に産業医や保健師などの産業保健スタッフがいるなら、心身の健康と仕事の関係について相談できるでしょう。

産業医は、労働者の健康を守るために必要があると判断したとき、会社に対して助言や勧告を行う立場でもあります。ただし、利用できる体制は会社の規模によって違いますので、そこは確認が必要です。

話しても変わらないのが怖いなら、状況を動かせる立場へ

「話しても何も変わらない気がする」のであれば、実際に状況を動かせる立場の人が候補になります。業務量、役割分担、指示の受け方といったことは、あなたの心の中だけでは解決しにくい部分です。

直属の上司以外の管理職、人事・労務担当者、社内の相談窓口などが、それを扱える可能性があります。

ただ、社内の窓口については、記録の扱いや情報の共有範囲が窓口ごとに違います。「相談内容はどこまで共有されるのか」「同意なく誰かに伝えられることはあるのか」は、相談する前にぜひ、確認しておきましょう。

大げさだと思われるのが怖いなら、判断を目的にしない場へ

「大げさだと思われるのが怖い」のであれば、判断を目的としない場を選ぶ、という手もあります。心理職との相談では、どの言葉が強く残っているのか、そのとき体に何が起きたのか、どこから自分を責め始めたのか、といったことを一緒に整理していきます。

心理職は診断や投薬を行う立場ではなく、必要な場合には医療機関などと連携します。

心身の不調が続くなら、医療機関へ

そして、眠れない、食欲がない、落ち込みが強い、身体症状が続くといった場合には、医療機関が相談先になります。

身体症状が中心ならかかりつけ医や内科から、こころの不調が中心なら精神科や心療内科が候補です。まずは行きやすいところから受診して、そこで判断を仰ぐというやり方もあります。

私は実際の相談場面などでは、まずは体の不調を切り口にして、相談を促すことが多いです。胃の痛みや頭痛、あるいは食欲不振といった体の面が楽になるだけでも、気分的にも楽になりやすいですからね。

いずれにしても、最初に相談した先が、最終的な相談先である必要はありません。話してみた結果、「これは職場の人と話したほうがよさそうだ」「身体のほうを先に診てもらおう」と、次が見えてくることもあります。

「一人では難しい」と認めることにも、強さがいります

ここまで読んで、こう思われた方もいるかもしれません。

相談したら、自分でなんとかできない、弱い人だと思われてしまうのではないか。
自分で決められない人になってしまうのではないか。

私は、そうは思っていません。

相談をするというのは、ある意味で『自分はできない』ということを受け入れることです。そして自分はできないということを認め、受け入れるということには、強さが必要です。

つまり、『自分はできない』ということを受け入れる強さがあるからこそ、誰かに相談ができるのです。

先にも書きましたが、特にこの、いわゆる『メンタルの問題』というのは、まだまだ偏見や誤解も根強くあります。そんな中で、例えばカウンセリングに来られた方は、ある種の強い覚悟を持たれていることが少なくありません。

そこに来られるまで様々な試行錯誤をした結果、やはり一人ではどうにもならないと思い、来られることが多いように感じています。

少なくとも、私が日頃行っているカウンセリングに来られる方というのは、それだけご自身の生き方に向き合い、『なんとかしたい』という気持ちを強く持たれていると感じています。そしてそれは、ある種の強さだと、私は考えています。

もちろん、『相談ができない=弱い』ということではありません。様々な葛藤があったり、本人なりに考えた結果、ご自身でがんばるという判断をする場合もあるでしょう。それはそれで、その方がお持ちの強さが、違う形で出ているものだと思います。

相談は、自分で考えることを手放すことではありません

では、もう一つの心配についてはどうでしょうか。相談したら、自分で決められない人になってしまうのではないか、というところです。

支援する人が「あなたはこうすべきです」「この仕事は辞めたほうがいい」と、本人の代わりに結論を出すことが、相談の中心ではありません。

もちろん、安全や健康に関わる場面では、専門家がはっきり助言する必要があります。それでも、最終的に大切なのは、その方本人がご自身の経験を少しずつ理解して、ご自分の感覚や言葉、価値観を取り戻し、使える選択肢を増やしていけることです。

相談によって、自分の中になかった正解を、そのまま受け取るのではありません。

自分だけでは見えなかったものに気づく。ご自身で引き受けることと背負わなくていいことを分ける。いま動くのか、待つのか、休むのか、誰かに伝えるのかを考える。

そうした判断をしやすくするために、人の力を借りることができる。
相談とはそういうものだと私は考えています。

すぐに動けないときは、「見積もり」を一つだけ確かめる

ただ、相談したほうがいいかもしれない、と思っても、それでもなかなかすぐには動けないことがあります。

誰に連絡すればいいか決められない。予約を取るのが怖い。うまく説明できる自信がない。相談した後、職場でどうなるのかも心配になる。

そういうときは、今日すべてを決めなくてかまいません。

代わりに、さきほどの四つの見積もりのうち、どれか一つだけを、事実で確かめてみるという方法を試してみてください。

たとえば、
「職場に伝わるのが怖い」のであれば、窓口に情報の扱いを問い合わせてみる。これは相談ではなく、確認です。

「うまく説明できない」のであれば、最近変わったことを、箇条書きで三つだけメモしてみる。

「迷惑になりそう」なら、信頼できる人に「少しつらい状態が続いている」とだけ伝えてみる。

どれも、相談そのものではありません。頭の中の見積もりを、一つだけ現実と照らし合わせる作業です。

順序立てて、きれいに説明できなくてもかまいません。何から話せばいいか分からない、ということ自体を、相談の最初に伝えることもできるのです。

相談は、一人では見えにくいものを一緒に見直す選択です

相談するかどうかを迷っているとき、私たちはつい、「まだ耐えられるか」「もっと大変な人はいないか」という基準でも考えてしまいます。

けれど、相談の目安は、限界まで耐えられたかどうかではありません。

生活や仕事への影響が続いている。同じ場面で反応が繰り返されている。考えるほど自分を責める方向へ進んでしまう。身体面や安全面について、一人では判断しにくい。

そして何より、「相談するほどではない」という感覚そのものが、いまかかっているストレスの強さを映したものかもしれないということ。

そのときには、人や制度の力を借りていいと私は思います。

相談は、誰かに寄りかかることではありません。一人では見えにくくなってしまったものを、誰かの力を借りながら一緒に見直す。そのための選択肢です。


相談したほうがよいかもしれないと思っても、「話したらどこまで共有されるのか」「その後どうなるのか」が怖くて動けないことがあります。相談する前に確認してよいことを、こちらの記事にまとめています。

▶︎ 相談した後に何が起きるのか怖いとき|話す前に確認してよいこと




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