怒られると涙が出る、固まる、頭が真っ白になる――そのとき心と体に起きていること
怒られた瞬間、泣きたくないのに涙がこみ上げてくる。
何か言わなければと思うのに、体が固まって動けない。
頭の中が真っ白になり、「はい」「すみません」と返事をするだけで精いっぱいになる。
その場を離れてから、
「あのとき、もっときちんと説明できればよかった」
「どうして何も言えなかったんだろう」
「この歳になって、怒られただけで泣きそうになるなんて情けない」
と、自分を責めてしまうこともあるかもしれません。
けれど、怒られたときに涙が出ることも、体が固まることも、頭が真っ白になることも、意志の弱さだけで説明できるものではありません。
強い口調や威圧的な態度、「否定された」「評価が下がった」と感じる場面では、考えるより先に、心と体が反応することがあるのです。
もちろん、指摘された内容の中には、見直した方がよいことが含まれている場合もあるでしょう。
ただ、
仕事上の指摘を振り返ることと、
強く反応した自分を「弱い」「情けない」と評価することは、少し分けて考えてもよいのではないでしょうか。
涙は「悲しい」だけで出るものではありません
怒られたとき、涙が出そうになる。
泣きたくないと思うほど、余計に涙がこみ上げてくる。
そんなとき、
「泣けば許してもらえると思っているみたい」
「社会人なのに、感情を抑えられない」
「まわりから弱い人だと思われる」
と考えて、涙そのものよりも、「泣きそうになった自分」のことが情けなく、苦しくなる場合があります。
けれど、涙は、悲しいときだけに出るものではありません。
怖さ、悔しさ、恥ずかしさ、驚き、怒り。
言い返したいのに言葉にできない苦しさや、張りつめていた緊張が重なったときにも、涙が出ることがあります。
情動によって涙が出る仕組みには、実はまだ十分に分かっていない部分もあるのです。
少なくとも、「涙が出た」という事実だけで、その人の心の強さや仕事への適性を判断することはできません。
泣きたくて泣いているわけではない。
頭で止めようとしても、体の反応が先に起きてしまう。
そういうこともあるのです。
体が固まるとき、何もしていないわけではありません
強い口調で責められたとき。
上司が不機嫌そうな表情で近づいてきたとき。
まわりに人がいる場面で、突然厳しく指摘されたとき。
何か答えなければと思っているのに、体に力が入り、言葉が出なくなることがあります。
あとから振り返ると、
「どうして黙っていたんだろう」
「もっと説明すればよかった」
「言い返せない自分が嫌になる」
などと思うかもしれません。
けれど、体はその瞬間、何もしていなかったわけではないのです。
人は脅威を感じたとき、すぐに動くのではなく、いったん動きを抑え、周囲の状況に注意を向けるような反応を示すことがあります。
こうした反応は、脅威に直面したときに起こる防御反応の一つと考えられています。
そのため、体が固まったことを、すぐに「何もできなかった」「勇気がなかった」と評価する必要はありません。
もちろん、職場で固まる理由を、すべて一つの仕組みで説明することは難しいこともあるでしょう。
ただ少なくとも、
「言葉が出なかった」イコール「勇気がなかった」と、すぐに決めつけないでほしいなと思います。
威圧的な人を前にしたとき、固まるまでにどんなことが起きているのかについては、こちらの記事で一つの場面に絞って扱っています。
頭が真っ白になると、考えるための余裕が少なくなる
怒られている最中、
「相手の話をきちんと聞かなければ」
「何か答えなければ」
「これ以上怒らせないようにしなければ」
と思っている。
それなのに、相手が何を言っているのか、途中から頭に入らなくなる。
質問されても、答えが浮かばない。
あとになれば説明したいことがいくつも出てくるのに、その場では何も言えない。
こうした「頭が真っ白になる」という感覚にも、ストレスの影響が関わっている可能性があります。
私たちは会話をするとき、相手の言葉を一時的に頭に置きながら、自分の考えをまとめ、次に何を話すかを選んでいます。
しかし、強い緊張やストレスの中では、情報を一時的に保ちながら考える働きや、状況に応じて考え方を切り替える働きが、普段どおりに使いにくくなることがあります。
だから、その場を離れて少し落ち着いてから、
「あのことを説明すればよかった」
「こう言えばよかった」
と思いつくことは、十分、起こりうることなのです。
あとから言葉が出てきたからといって、
「その場で言えなかった自分はダメだ」
と決めつけないでください。
怒られている最中と、緊張が少し下がった後では、考えたり、言葉をまとめたりするための余裕が違っていたのかもしれません。
涙、固まり、頭が真っ白になる反応は、重なって起きることがあります
ここまで見てきた3つの反応。これらは、いつも別々に起きるわけではありません。
たとえば、上司から強い口調で指摘されたとします。
その瞬間、胸が苦しくなり、体に力が入る。
↓↓↓
何か答えようとしても、頭が働かない。
↓↓↓
言葉が出ないまま、「はい、すみません」とだけ返す。
↓↓↓
そして、涙が出そうになる。
↓↓↓
さらにその後、
「何も説明できなかった」
「泣きそうになって恥ずかしい」
「私は社会人として弱い」
と、自分を責め始める。
このように見ると、苦しさは「涙が出たこと」だけではありません。
強い言葉に触れたこと。
体が緊張したこと。
柔軟に考えにくくなったこと。
うまく言葉が出なかったこと。
そして、その反応をした自分に厳しい評価を向けたこと。
このように、いくつものことが短い時間の中で重なっています。
それらがひとまとまりになると、
「私は仕事ができない」
「私は弱い」
という一つの結論に見えてしまうことがあります。
だからこそ、自分を責める前に、少し分けて見ることが大切になります。
その場では「きちんと立て直す」ことを目標にしなくてもよい
先にお伝えしておきたいのは、その場ですぐに気持ちを立て直せなくてもよい、ということです。
怒られて心と体が強く反応しているときに、
「落ち着かなければ」
「冷静に話さなければ」
「泣いてはいけない」
と、自分にさらに課題を増やすと、かえって苦しくなる場合があります。
その場ですべてを整理する必要はありません。
なので、そんなときは次の三つのうち、できそうなものを一つ試してください。
1. 「またダメになった」ではなく、「いま、体も反応している」と見てみる
涙、動悸、体のこわばり、頭が真っ白になる感覚があれば、「弱い証拠」と評価するのではなく、いま緊張が強くなっているのかもしれない、と見てみます。
いきなり気持ちを切り替えようとしなくてかまいません。まずは、自分の中で反応が起きていることに気づく。それだけで十分です。
2. 足の裏と、ひと呼吸に、少しだけ意識を戻す
涙や動悸が強いときほど、頭の中は「どう返せばいいのか」「何と答えればいいのか」でいっぱいになりやすいものです。
そんなときは、考えを整理しようとする前に、ほんの少しだけ、体の感覚に意識を戻してみます。
たとえば、足の裏が床についている感覚に、数秒だけ注意を向けてみる。
息を、いつもより少しだけ長く、ふーっと吐いてみる。
これは、無理に落ち着かせようと頑張るためではありません。頭が真っ白なまま何とかしようとするより先に、「いま、ここ」に意識を戻すための、小さな手がかりです。
(ただし、もしかえって落ち着かない感じがしたり、しっくりこなければ、無理に続けなくてかまいません。合う方法は、人によって違います。)
3. いま確認することを、一つに絞る
すべてを理解し、すぐに正しい返事をしようとしなくてもかまいません。
言える状況であれば、
「確認のため、要点をメモさせてください」
「一度整理して、改めて確認してもよいでしょうか」
などと、考えるための余地を作る方法もあります。
その場で全部に答えようとせず、いま確認することを一つに絞るだけでも、いま何をすればよいのかが、少し見えやすくなるでしょう。
あとからは、「反応」と「自分への評価」を分けてみる
その場を離れても苦しさが残っているときは、頭の中だけで何度も考え続けるより、紙に書き出しながら、具体的に分けて見てみてもよいかもしれません。
まず、大切にしたいことが一つあります。
「ミスをしたかもしれない」ということと、「私は仕事ができない人間だ」ということは、同じではありません。
何を見直す必要があるのかは、少し落ち着いてから考えても遅くありません。その場で、自分の価値まで決めてしまわなくてよいのです。
そのうえで、たとえば、
上司に「前にも言ったよね」と強い口調で言われた。
という場面があったとします。そのとき、
胸が苦しくなった。
体が固まった。
頭が真っ白になった。
涙が出そうになった。
といった反応が生じました。そしてその後、
こんなこともできない自分はダメだ。
怒られただけで固まるなんて情けない。
という考えが、浮かんできていたのです。
ここまで分けると、
「上司に言われたこと」
「そのとき体に起きたこと」
「反応した自分に向けた評価」
は、同じものではないと見えてきますよね。
これは、自分には何も問題がなかったと思い込むためではありません。
必要な反省を避けるためでもありません。
仕事上、確認した方がよいことは確認する。
その一方で、涙が出たことや、頭が真っ白になったことを根拠に、自分全体を否定してしまわない。
その二つを分けて考えるためです。
反応が続くときは、一人で整理し続けなくてもよい
まず、明確なハラスメントや危険な職場環境がある場合は、自分の受け止め方だけの問題にしないことが大切です。
また、怒られた後の反応が何度も続き、眠れない、食欲が大きく落ちる、仕事に行くことが難しくなる、休日にもほとんど回復できないといった状態がある場合は、一人で向き合うことがしんどくなってくるでしょう。
そんなときは、ぜひ誰かの助けを求めてください。
ひとまず、信頼できる友人や家族などに話を聞いてもらうことも、一つの選択肢です。
言葉にして伝えることだけでも、一人で抱え続ける負担が少し軽くなることもあります。
あるいは、産業医、職場の相談窓口や医療機関などの専門の窓口につながることも、大切な選択肢です。
誰かに相談することは、「自分では何もできない」と認めることではありません。
いま起きていることを、どうか一人で抱え込まないでください。
反応した自分を責める前に
繰り返しになりますが、
怒られると涙が出る。
体が固まる。
頭が真っ白になり、言葉が出なくなる。
そのときは、あなたの心や体が、あなたを守ろうととっさに反応していたのかもしれません。
だから、そうした反応だけを根拠に「自分は弱い」と決めつける必要はありません。
そうした一場面だけで、あなたという人全体や、仕事の能力が決まるわけではありませんからね。
まずは、
「どうして私はこんなに弱いんだろう」
と考える前に、
「私の中で、何が起きていたのだろう」
と、少しだけ問いを変えてみてください。
涙が出たこと。
固まったこと。
頭が真っ白になったこと。
そして、その自分を責めたこと。
ひとまとめにせず、分けて眺めてみてください。
そうしてからなら、必要な振り返りも、これからに向けての小さな一歩も、少し考えやすくなるかもしれません。
あとから「反応したこと」と「その自分への評価」を実際に紙へ分けてみたいときは、こちらの記事で書き出し方を紹介しています。
▶︎ ひとり反省会が止まらない夜に、紙に書き出したい3つのこと
このnote全体で大切にしている「自分を責める前に、整理して見直す」という考え方は、固定記事「上司の一言が、家でも頭から離れないあなたへ」にまとめていますので、よかったら参考にしてみてくださいね。
