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雑談が苦手な僕は、なぜ結論を探してしまうのか――会話を“量子の世界”として読み直した

【この記事の概要】
① 困りごと: 雑談が苦手。何を話せばいいか以前に、結論も目的もない会話が、なぜ会話として成立しているのかが分からない。
② 困りごとの本質: 雑談は、情報を交換する場とは限らない。多くは「同じ場所にいる」ことを確かめ合う時間で、結論がないのではなく、目的のほうが別にある。
③ この先で渡すもの: 無料部分では、会話を「いま決める会話」と「まだ並べる会話」に分ける見方まで渡す。有料部分では、結論のない会話で固まらないための返し方と、観測地点メモを下ろす。

僕は昔から、雑談が苦手だった。世間話も同じだ。

正確に言うと、何を話せばいいか分からないというより、雑談の目的が分からなかった。結論も相談もない会話が、なぜ成立しているのか理解できなかった。

その違いが一枚の絵になったのは、ランチの店すら決まっていないのに「歩きながら決めよう」と言われた日だった。

***

「今日のランチ、パスタと定食どっちがいい?」

何気ないその一言で、僕の脳内では世界が軋んだ。

パスタ屋の混雑は。
定食の栄養バランスは。
午後の集中力は。
相手の好みは。
予算は。

候補が増えるたび、決め手が減っていく。

僕がまだ答えを出せずにいると、先輩はあっけらかんと言った。

「まあ、いっか。歩きながら決めようよ」

僕は笑って頷きながら、内側ではかなり混乱していた。

答えが出ていないのに、なんで歩き出せるんだ。

この違和感を、僕は長いあいだ「自分が融通の利かない人間だからだ」と思っていた。
でも今は、少し違う見え方をしている。

問題は人格ではなく、前提にしている物理法則が違う ことだったのかもしれない。


雑談が苦手な人は、会話に「正解」を探してしまう

雑談や世間話が苦手だと言うと、たいてい「話題がないだけでしょ」と返される。

でも、僕の内側で起きているのは少し違う。

会話が始まった瞬間、僕は何の話なのかを確定させようとする

これは事実の確認なのか。
相談なのか。
何かを決める場なのか。
それとも、ただの共感なのか。

確定しないと、どう返すのが正解か分からない。だから止まる。

「今日のランチどっち?」も同じだった。僕は好みを聞かれたのではなく、最適解を求められたのだと受け取っていた。だから条件を集め始めて、集めるほど動けなくなった。

そのたびに、自責が始まる。

「なんでこんなことも軽く受け流せないんだろう」
「なんでみんなみたいにノリで動けないんだろう」

でも、たぶん聞くべき問いはそこではない。

僕はいま、何を確定させないと動けないのか。
まず見るべきなのは、その条件のほうだ。

雑談に結論がないのは、情報より「接続」を交換しているからだ

長いあいだ分からなかったのは、そもそも雑談が何を交換しているのかだった。

たとえば、こういう会話。

「最近寒いよね」
「朝つらいよね」

僕はこれを、情報のやり取りだと思って受け取っていた。だから律儀に答えていた。

「今朝の最低気温は平年並みだったよ」
「睡眠時間が足りてないのでは」

内容は間違っていない。でも、言った瞬間に場が少し冷える。

長く理由が分からなかったけれど、今はこう考えている。

あの会話で交換されていたのは、情報ではなく接続だった。

「寒いよね」は、気温データを求める質問とは限らない。同じ場所にいて、同じものを感じている、という確認に近い。返ってくるべきは正確な数字ではなく、「ね」という一音だったのだと思う。

そう考えると、話がつながる。

雑談に結論がないのは、雑談が不完全だからではない。最初から結論を出すために始まっていないからだ。

目的がないのではなく、目的が別にある。

ここが見えないと、僕らは毎回「正しいことを言ったのに、なぜか場が壊れた」という敗北感を持ち帰ることになる。

僕は、未確定のものを未確定のまま運ぶのが苦手だった

では、なぜ僕だけがそこで止まるのか。

僕の場合、条件が固まらないと動きにくい。決めるための材料が足りないまま進むと、足元が抜ける感じがする。

これは会話能力の不足というより、未確定のものを未確定のまま持ち歩くのが苦手という処理の癖だと思う。

僕にはASDの傾向があって、この癖はそこと無関係ではないと感じている。ただ、ASDだから必ずこうなるとは思わない。診断の有無に関わらず、確定を急ぐ人もいれば、曖昧なまま平気な人もいる。

大事なのは診断名の強さではなく、曖昧なやりとりのたびに、自分だけ強く消耗するかどうかだ。

会話のあとに毎回、

  • なんで自分だけ止まるのか

  • なんで場を壊した感じが残るのか

  • なんで普通の雑談がこんなにしんどいのか

と削れているなら、それは十分に扱う理由がある。性格や努力の問題として処理する前に、確定する順番の違いとして見たほうがいい。

定型発達者の世界は、僕には“量子の世界”に見えた

この違いを、僕がいちばん腑に落ちる形で理解できたのが、量子力学の比喩だった。

先に断っておくと、これは科学の解説ではない。脳の中で本当に量子的な何かが起きている、という話でもない。僕が自分の体験を理解するために、勝手に借りてきた絵だ。

それでも、この絵を持ってから、説明がずいぶん楽になった。

僕は、ニュートン力学の住人に近い。条件が決まって、因果が見えて、ようやく動ける。

一方で、雑談が得意な人たちは、もっと手前の状態に強い。決める前の候補を、候補のまま持ったまま進める。

つまり、こういうことだ。

彼らは、波のまま運べる。僕は、観測して粒にしないと持てない。

「今日のランチどっち?」は、彼らにとってはまだ波だった。パスタも定食も、どちらでもある状態のまま、店の前まで持っていける。

僕はそれを、聞いた瞬間に観測してしまう。粒にしてから運ぼうとするから、確定するまで一歩も動けない。

雑談で早すぎる正解を入れてしまうのも、同じだった。相手はまだ波のままでいたかったのに、こちらが観測して粒にしてしまう。

どちらが優れているかではない。観測のタイミングが違うだけだ。

これが分かってから、僕は「相手が雑」か「僕が壊れている」かの二択から降りられた。

「いま決める会話」と「まだ並べる会話」を分ける

ここまでが理解の話だ。ここからは、実際に使える形にする。

僕にいちばん効いたのは、会話が始まった瞬間に、心の中で二つのうちどちらかの札を貼ることだった。

  • いま決める会話

  • まだ並べる会話

これだけでかなり違う。

「今日のランチどうする?」で条件が全然固まっていないなら、たぶん後者だ。「最近寒いよね」も、多くは後者だと思う。

逆に、「何時に集合する?」「どっちに申請する?」のように、確定しないと先へ進めない場面なら前者になる。

後者だと分かったら、最初の仕事は結論を出すことではなくなる。候補を潰さないことに変わる。

・・・

無料部分で渡したいのは、この一文だ。

曖昧な会話にぶつかった時、心の中で一回だけこう言い換える。

「これは結論の会話ではなく、接続を確認する会話かもしれない」

これだけでいい。

返事を完璧に変えなくていい。その場で量子的な人間にならなくていい。ただ、いきなり「答えを出さなきゃ」から入らない。この一拍があるだけで、かなり違う。

よくある疑問に、先に答えておく

Q. 雑談の目的が分からないのは、ASDだから?

そう単純には言えないと思う。

僕にはASDの傾向があるし、この記事の見方は自分の経験から出ている。ただ、雑談で消耗する人の全員が同じ理由で止まっているとは限らない。診断名を先に決めるより、自分が何を確定したくて止まるのかを見るほうが先だ。

気になる状態が続くなら、記事より先に専門家へ相談してほしい。ここで扱えるのは、あくまで僕に起きたことの範囲になる。

Q. 結論のない話が苦手なのは、性格の問題?

性格というより、確定するタイミングの癖だと思っている。

性格の問題にすると、直しようがなくて苦しい。でも「観測が早い」という癖なら、いつ観測するかを調整する余地が出る。

Q. 結局、相手に全部合わせるしかないの?

それも違う。

必要なのは迎合ではなく、相手の運び方を読んだうえで、自分が消耗しない運用を作ることだ。次からは、そのために僕が実際に使っているものを置いていく。


ここから先は有料部分です。

この先では、「曖昧な人たちの世界はそういうものらしい」で終わらせない。

会話のたびに自分が悪い気がして固まる人が、次の一手を見失わないための道具として書く。

目指すのは、量子力学の住人になることではない。相手の運び方を無理なく読んで、自分が消耗せずに済むことだ。

悪い日でも開けるように、できるだけ軽い形にしてある。

この記事は、有料マガジン空気が読めない人のための「空気を構造で読む」ハンドブックにも収録しています。

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