【ADHD】疲れているのに眠れない――脳が“店じまい”できない夜について
僕は子どものころから、寝つきが悪かった。
布団に入れば自然と眠くなる、という感覚がよく分からなかった。
むしろ、布団に入ってからが本番だった。
懐中電灯を持ち込んで、推理小説を読んでいた。
あるいは、AMラジオを朝まで聞いていた。
チューニングが少しズレると、ザーッとノイズが入る。
あの音を聞きながら、僕は暗い布団の中で目だけを起こしていた。
眠るために聞いていたのか。
眠らないために聞いていたのか。
自分でもよく分からない。
ただ一つだけ、確かなことがある。
僕にとって夜は、自然に終わるものではなかった。
一日が終わったからといって、脳が勝手に店じまいしてくれるわけではなかった。
疲れているほど、眠れない夜がある
大人になってからも、寝つきの悪さは続いた。
ただ、本当に困ったのは、単なる夜更かしではなかった。
仕事でへとへとになって帰ってきた夜だ。
体は明らかに疲れている。
もう何もしたくない。
明日のことを考えれば、早く寝たほうがいい。
それなのに、布団に入ると眠れない。
体は限界なのに、頭だけが回り続ける。
僕は長いあいだ、疲れていれば眠れるものだと思っていた。
だから、眠れない自分を責めていた。
こんなに疲れているのに眠れないのは、自己管理ができていないからだ。
生活リズムを整えられないからだ。
また夜の使い方を失敗したからだ。
でも、体感はそれを裏切っていた。
本当にへとへとな夜ほど、頭が止まらないことがあった。
疲れすぎて、眠れない。
ある線を越えて疲れると、体は沈んでいるのに、頭だけが妙に冴える。
この矛盾が、ずっと気持ち悪かった。
表は閉店、奥は営業中の脳
あとから分かってきたのは、体が「もう動けない」と言うことと、脳が「もう閉めていい」と判断することは、どうやら別の話らしい、ということだった。
僕の眠れない夜を店にたとえると、かなり分かりやすい。
閉店時刻になった。
入口の札は裏返した。
表の照明も落とした。
客はもう帰った。
ところが、奥の事務所では、まだ誰かが伝票を数えている。
バックヤードの電気だけが、煌々とついている。
表向きは閉店している。
でも、奥の作業が終わっていない。
それが、僕の眠れない夜だった。

布団に入って、目を閉じる。
入口は閉店した。
でも奥では、今日の会議で言われたこと、あのメールの返事、明日の段取りを、誰かがまだ照合している。
あの発言、まずかっただろうか。
あの作業、本当に終えたか。
明日の朝、何から手をつけるんだっけ。
体はもうシャッターを下ろしたい。
でも奥の店員だけが、まだレジ締めをしている。
しかも、そのレジ締めが終わらない。
夜更かしと、寝つけない夜は違う
ここで分けておきたいことがある。
夜更かしと、寝つけない夜は違う。
夜更かしは、まだ起きていたい状態だ。
寝たほうがいいのは分かっている。
でも、今をもう少し延長したい。
これはこれで、僕にもよくある。
でも、本当に困っていたのはそれではなかった。
寝たいのに、眠れない。
もう起きていたくないのに、脳が閉じてくれない。
これは夜更かしではない。
店を閉めようとしているのに、閉め方を知らないという話だ。
なぜ、奥の作業が終わらないのか。
たぶん、昼間にやり残した処理があるからだ。
昼間は、仕事、会話、メール、判断でいっぱいになる。
目の前のことを処理するだけで精一杯になる。
その裏で、未処理の用件が、奥に積まれていく。
そして夜、刺激が減って静かになった瞬間に、それが一斉に浮かび上がってくる。
布団の中が、休息の場所ではなくなる。
未処理の伝票を片付けるバックヤードになる。
眠れないのは、怠けているからではない。
奥のレジ締めが、まだ終わっていないのだ。
まず見るのは、眠る努力ではない
眠れない夜、僕はよく眠る努力をしていた。
考えないようにする。
目を閉じる。
羊を数える。
呼吸に集中する。
でも、僕の場合はうまくいかないことが多かった。
特に羊はひどかった。
羊を数えているうちに、羊の設定が気になってくる。
なぜ羊なのか。
この羊はどこの牧場にいるのか。
何匹くらいの群れなのか。
この牧場の経営は大丈夫なのか。
気づけば、睡眠導入どころか、思考の入口が増えている。
ここで分かった。
僕にとって、「何かを考えないために、別のことを考える」は危険だった。
別のことが、そのまま新しい入口になる。
必要なのは、脳を根性で止めることではなかった。
見るべきなのは、今日の奥の事務所に何が残っていたかだった。
メールか。
明日の段取りか。
人との会話か。
やり残した作業か。
身体に残った刺激か。
そこが見えると、反省の向きが少し変わる。
「なぜ眠れないんだ」ではなく、
「何がまだ営業中だった?」
と見られるようになる。
ここから先で書くのは、その閉店作業を生活に入れる話だ。
寝る直前に自分を説得するのではない。
夜のもっと手前から、店が自然に閉まっていく流れを作る。
布団の中で残業しないための、かなり地味な閉店準備だ。
ここまでで言葉にしたのは、眠れない夜が「寝る努力の不足」だけではなかった、ということだ。
表は閉店していても、奥の作業が残っている夜がある。
この先では、その奥の作業を布団へ持ち込まないための手順を作る。
悪い夜でも、脳が「そろそろ閉めていい」と分かるように、閉店の合図を生活の中へ置いていく。
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