戦争に勝つ国より、戦争に巻き込まれにくい国へ
1.「強い国」の定義を、軍事力だけで考えないために
戦争は、どのような理由であっても反対です。
そして、日本が軍備を拡大していけば安全になる、という考えにも強い違和感があります。
なぜなら日本は、食料も燃料も、多くを海外に依存している国だからです。
いくら最新の兵器を持っても、食料が止まり、エネルギーが止まり、物流が止まれば、国民生活はあっという間に揺らぎます。
本当に国を守るとは、武器を増やすことなのでしょうか。
私は、そうではないと思っています。
2.「反米」ではなく、自動追随をやめる
私は、アメリカを敵視したいわけではありません。
ただ、日本が何でもアメリカに追随する形を続けることには疑問があります。
外交上のパートナーであることと、自国の判断を持たないことは違います。
日本は、日本自身の地理、資源、人口構造、産業、国民生活を前提に、安全保障を考えるべきです。
私が考える方向性は、次のようなものです。
「反米」ではなく、自動追随をやめる。
「非武装」ではなく、戦争を起こさない国力に振り替える。
「軍拡」ではなく、食料・エネルギー・外交・民間防衛・災害対応・少子化対策・貧困対策を含めた、総合安全保障に予算を移す。
この考え方の方が、非暴力主義とも矛盾しません。
むしろ、より現実的な国家戦略ではないかと思います。
3.いまの日本の防衛費は、世界でどの位置にあるのか
まず、現在の日本の防衛費の規模を確認しておきます。
令和8年度、つまり2026年度の日本の防衛関係予算は、約9兆353億円です。防衛力整備計画の対象経費は、そのうち約8兆8,093億円とされています。(財務省)
また、スウェーデンの国際平和研究所SIPRIによる2025年の軍事費比較では、日本の軍事費は622億ドルで世界10位です。上位には、アメリカ、中国、ロシア、ドイツ、インド、イギリス、ウクライナ、サウジアラビア、フランスが並び、日本はその次に位置しています。
順位国軍事費の目安

ここで重要なのは、日本はすでに世界10位規模の軍事費を持っているということです。
決して「まったくお金を使っていない国」ではありません。
4.米軍関連費を自衛隊に回したら、どれくらい増えるのか
在日米軍に関連する日本側の負担には、いくつかの見方があります。
防衛省の令和8年度資料では、いわゆる在日米軍駐留経費負担、つまり「思いやり予算」に近いものとして、同盟強靱化予算が約2,191億円とされています。さらに、在日米軍の駐留に関連する防衛省関係予算全体では、約4,660億円です。
また、SACO関係経費が約115億円、米軍再編関係経費が約2,145億円あります。防衛省外の関連経費としては、基地交付金等が約411億円、提供普通財産の借上げ相当額が約1,646億円と示されています。
整理すると、次のようになります。

仮にこの約8,977億円を、すべて自衛隊の軍備強化に上乗せしたとします。
1ドル150円程度で単純計算すると、約60億ドルです。
現在の日本の軍事費がSIPRI基準で622億ドルなので、仮に全額を軍事費として上乗せしても、680億ドル前後になります。これはフランスの680億ドルとほぼ同水準です。
つまり、日本の軍事費ランキングは、かなり広く見積もっても世界9位から10位あたりです。
世界3位や4位に跳ね上がるような話ではありません。
さらに言えば、防衛省予算の中にすでに含まれている米軍関連費を、自衛隊の別用途に振り替えるだけなら、日本全体の防衛費総額は大きく変わりません。
変わるのは、「米軍関連に使っていたお金を、自衛隊や別の安全保障にどう使うか」という中身です。
5.SACO関係経費とは何か
ここで出てくる「SACO関係経費」とは、沖縄の基地負担を軽減するための経費です。
SACOとは、Special Action Committee on Okinawaの略で、日本語では「沖縄に関する特別行動委員会」と訳されます。
1995年の沖縄での事件をきっかけに、沖縄県民の基地負担を軽減するため、日米間で協議された枠組みです。
防衛省資料でも、SACO関係経費は「沖縄県民の負担を軽減するためにSACO最終報告の内容を実施するための経費」と説明されています。
つまり、SACO関係経費は、単純な「米軍への支払い」ではありません。
基地の返還、移設、訓練の移転、施設整備など、沖縄の負担軽減に関係する費用です。
そのため、この費用を考えるときには注意が必要です。
「米軍関連費だから全部なくせばよい」という単純な話ではなく、沖縄の基地負担をどう減らすか、跡地をどう活用するか、地域経済をどう支えるかという問題と一体で考える必要があります。
6.ここでいう「再配分」とは何か
ここで私が言う「再配分」とは、社会保障でよく使われる所得再分配の意味ではありません。
本稿でいう再配分とは、在日米軍の駐留や基地関連に日本側が負担してきた費用を、単に自衛隊の装備増強へ回すのではなく、戦争に巻き込まれにくい社会基盤を強くする予算へ組み替える、という政策上の仮定です。
具体的には、次のような分野です。
食料安全保障。
エネルギー安全保障。
外交。
民間防衛・災害対応。
少子化対策。
貧困対策。
もちろん、これらのお金を明日から機械的に移せるわけではありません。
実際には、日米交渉、基地の整理、土地利用、沖縄をはじめとする地域経済、雇用、自治体財政、国際情勢など、多くの課題があります。
それでも、仮に米軍関連費を「軍事依存を下げるための総合安全保障予算」として再配分するなら、見えてくる景色があります。
7.約8,977億円を総合安全保障に配分すると
ここでは、既存の政策分野の予算規模を参考にして、約8,977億円を配分する試算をします。
参考にしたのは、農林水産関係予算、エネルギー対策関係予算、外務省予算、国土強靱化関係予算、こども家庭庁予算です。農林水産関係予算は令和8年度で約2兆2,956億円、外務省予算は約8,170億円、国土強靱化関係予算は約5兆3,510億円、こども家庭庁予算は一般会計と特別会計を合わせて約7兆4,956億円規模です。(財務省)
この比率に応じて、広義の米軍関連費約8,977億円を配分すると、概算では次のようになります。

この配分を見ると、最大の配分先は少子化・貧困対策です。
次に、民間防衛・災害対応、エネルギー、食料、外交と続きます。
私は、この方向こそ「国を強くする」ことだと思います。
8.生活が苦しい国は、強い国とは言えない
安全保障というと、多くの人は軍事を思い浮かべます。
しかし、私は少子化対策や貧困対策も、安全保障の中核だと思っています。
厚生労働省の2025年「国民生活基礎調査」では、生活が「苦しい」と答えた世帯は55.4%でした。子どもがいる世帯では61.5%、母子世帯では82.1%が「苦しい」と答えています。
さらに、前年と比べて「貯蓄が減った」と答えた世帯は36.9%でした。世帯主が65歳以上の世帯では4割を超えており、その理由として最も多いのは日常の生活費への支出でした。
これは、単なる生活実感の問題ではありません。
国の土台が弱っているということです。
子どもがいる世帯が苦しい。
母子世帯の8割以上が苦しい。
高齢世帯が貯蓄を取り崩して生活している。
この状態で、国が強くなるとは思えません。
また、介護をめぐる状況も厳しくなっています。
同じ調査では、自宅で介護している世帯のうち、介護する人もされる人も65歳以上の「老老介護」は61.9%でした。75歳以上同士の介護も37.1%で、過去最高水準です。
つまり、若い世代も苦しい。
子育て世帯も苦しい。
ひとり親世帯も苦しい。
高齢者も苦しい。
介護の現場も苦しい。
この社会のまま、軍備だけを増やしても、本当に国は強くなるのでしょうか。
私は、そうは思いません。
9.少子化対策と貧困対策は、安全保障そのもの
子どもが減り、若い世代が将来に希望を持てず、地方の担い手が減り、農業・医療・物流・介護・防災の現場が維持できなくなれば、国の基盤そのものが弱くなります。
国を支えるのは、兵器ではなく人です。
地域で暮らす人。
食べ物を作る人。
エネルギーを管理する人。
災害時に助け合う人。
子どもを育てる人。
介護を担う人。
外交で関係をつなぐ人。
そう考えると、少子化対策や貧困対策は、単なる福祉政策ではありません。
国の未来を守るための、最も根本的な安全保障です。
食料を国内で一定程度確保できること。
エネルギーを多元化し、地域単位でも支えられること。
災害時にも生活を守れるインフラがあること。
医薬品や燃料の備蓄があること。
外交チャンネルを一国に依存しないこと。
子どもを育てたいと思える社会であること。
生活が苦しい世帯を減らすこと。
これらは、すべて安全保障です。
10.戦争に勝つ国ではなく、戦争に巻き込まれにくい国へ
私は、日本が目指すべきなのは「戦争に勝てる国」ではなく、「戦争に巻き込まれにくい国」だと思います。
もちろん、現実の国際情勢は厳しいです。
理想だけでは国は守れない、という意見もあると思います。
しかし、だからこそ問いたいのです。
本当に、軍備を増やすことが最優先なのでしょうか。
本当に、アメリカに追随し続けることが、日本にとって最も安全なのでしょうか。
本当に、戦争への備えだけが安全保障なのでしょうか。
私は、そうは思いません。
「強い国」とは、軍事力が大きい国のことではありません。
食料がある国。
エネルギーがある国。
災害に耐えられる国。
外交の選択肢がある国。
子どもが生まれ、育ち、次の世代につながっていく国。
生活が苦しい人を放置しない国。
そして、国民が戦争に怯えず、日々の生活を続けられる国。
日本が進むべき道は、軍拡ではなく、総合安全保障への転換です。
戦争に勝つための国ではなく、戦争を起こさず、巻き込まれず、災害にも経済危機にも折れず、次の世代が生きていける国を作ること。
それが、私の考える「強い国」です。
そして、政治家の仕事は、戦争をするための外交ではなく、
戦争をしないため、国民を幸せにすることが、仕事です。
参考資料・出典
本稿で使用した数値・定義は、主に以下の公的資料および国際機関の資料を参照しました。
防衛費・在日米軍関係経費
財務省「令和8年度 防衛関係予算について」
令和8年度の防衛関係予算が9兆353億円、防衛力整備計画対象経費が8兆8,093億円であることの確認に使用。(財務省)防衛省「在日米軍関係経費(令和8年度予算)」
在日米軍の駐留に関連する防衛省関係予算4,660億円、同盟強靱化予算、いわゆる在日米軍駐留経費負担2,191億円、SACO関係経費115億円、米軍再編関係経費2,145億円などの確認に使用。防衛省「在日米軍関係経費(令和8年度予算)」内の注記
SACO関係経費を「沖縄県民の負担を軽減するためにSACO最終報告の内容を実施するための経費」と説明している箇所を参照。
世界の軍事費ランキング
SIPRI “Trends in World Military Expenditure, 2025”
2025年の世界軍事費ランキング、アメリカ9540億ドル、中国3360億ドル、ロシア1900億ドル、フランス680億ドル、日本622億ドルなどの確認に使用。(SIPRI)SIPRI “Military Expenditure Database”
SIPRIの軍事費データが1949年から2025年までの時系列データを含み、毎年更新されていることの確認に使用。(SIPRI)
食料・エネルギー安全保障
農林水産省「令和6年度食料自給率を公表します」
日本の令和6年度食料自給率が、カロリーベースで38%であることの確認に使用。(農林水産省)資源エネルギー庁「日本のエネルギー 2025年度版『エネルギーの今を知る10の質問』2.安定供給」
2024年度の日本のエネルギー自給率が16.4%であること、日本が化石燃料の多くを海外輸入に依存していることの確認に使用。(エネルギー庁)
国民生活・貧困・少子化・介護
厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」
2025年調査の全体資料。所得、貯蓄、生活意識、介護の状況などの確認に使用。(厚生労働省)厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況 Ⅱ 各種世帯の所得等の状況」
生活が「苦しい」と答えた世帯が55.4%、児童のいる世帯が61.5%、母子世帯が82.1%であることの確認に使用。厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況 Ⅱ 各種世帯の所得等の状況」
前年と比べて「貯蓄が減った」と答えた世帯が36.9%であり、65歳以上では4割を超えること、減額理由として「日常の生活費への支出」が多いことの確認に使用。厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況 Ⅳ 介護の状況」
65歳以上同士のいわゆる「老老介護」が61.9%、75歳以上同士が37.1%であることの確認に使用。
報道記事
朝日新聞デジタル「生活が『苦しい』と感じる世帯は55.4%にのぼることが、厚生労働省の国民生活基礎調査でわかった」とする記事
生活苦、子育て世帯、母子世帯、貯蓄減少、老老介護に関する問題意識の整理に使用。なお、本文中の数値確認は、上記の厚生労働省「国民生活基礎調査」の原資料を優先して参照しました。
試算についての注記
本稿の再配分試算は、実際の予算移管を示すものではなく、在日米軍関連経費を「軍事依存を下げるための総合安全保障予算」として仮に組み替えた場合の概算です。
広義の米軍関連費約8,977億円は、防衛省資料にある在日米軍関連の防衛省関係予算、防衛省外の基地交付金等、提供普通財産借上試算などをもとにした試算です。なお、これらの費用には、沖縄の基地負担軽減や地元負担軽減に関わる経費も含まれるため、すべてを単純に削減・転用できるという意味ではありません。
また、世界軍事費ランキングに関する試算は、SIPRIの2025年軍事費データと、1ドル150円程度の単純換算を前提にした概算です。為替レート、SIPRIの集計基準、各国の会計年度の違いによって、実際の順位や金額は変動します。

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