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ショートショート 急性カーテンコール中毒

 俊朗さんはハンサムだ。院内を散歩していると入院患者たちの視線が集まる。70代とは思えない凛とした姿勢と、人形のように長い手足。ふとした仕草に漂う色気に男性患者ですらため息をつく。
「浜田一郎さんですか? 私、和子です。覚えてますか?」
 病棟で老婦人が俊朗さんに声をかけた。俊朗さんがハッとなる。昔、舞台俳優だった頃の名前だ。
「さあ、年寄りなもので」俊朗さんはとぼけて見せた。本当は分かっていた。『花田和子』。俳優時代の恋人の名だ。震える手を婦人に差し出した。「ただのアル中ですよ」
「おばあちゃん!」
 幼い女の子が走ってきて婦人に抱きついた。一瞬、俊朗さんの顔に動揺が走った。婦人が思い立ったように言う。
「息子のお見舞いに来たの。私、夫に先立たれて」
「早く行こ」
 女の子が婦人を引っ張る。
「また!」
 婦人が俊朗さんに手を振った。軽い目眩に俊朗さんが座りこむ。胸が高鳴っていた。遠い昔、カーテンコールで呼ばれたときのように。


ショートショートNo.771

 たらはかに(田原にか)さんの毎週ショートショートnoteに参加しています。今週のお題は「急性カーテンコール中毒」です。



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