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ショートショート ときどき東照宮

 朝靄のたつ山の上の神社の境内にぽんぽんと柏手の音が響いた。
「権現さん権現さん、おはようごぜえます」
 小さな老婆が、これまた小さなお社に手を合わせている。なむなむと何か唱えて、ゆっくり向きを変えて、ぽてぽてと石畳を降りていった。
「ご苦労さん」
 茂みの中から狸が顔出して言った。すると、どろんどろん。お社が狸に姿を変えた。
「まあ、ときどきだけだし」
 お社に化けていた狸が言った。二匹は去年の夏を思い起こした。夏祭りの提灯にイタズラをして、お社を焼いたのだ。明け方、オロオロしている狸たちの前にさっきの老婆が現れて、慌てて一匹がお社に化けた。老婆が少しも疑わず手を合わせるので、狸達は次の日もお社のふりをした。そして次の日も、毎日、かわるがわる。
「明日はお前」
 仲良く二匹は山の中に消えていった。
「毎朝、精が出るなあ」
 山の麓で村の人が老婆に話しかける。老婆が笑って答えた。
「ああ。権現さんにな。毎日違う顔でな、可愛いんだ」


No.776

田原にかさんの毎週ショートショートnoteに参加しています。
今週のお題は「ときめきトゥーシューズ」、裏お題は「ときどき東照宮」です。


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