ショートショート おせち風呂
「ごめんなさい」
脱衣所で伊達巻きは謝るのがやっとだった。右手には昆布巻きから着ていた昆布が垂れている。
「いいの」昆布巻きがうつむいた。いや、まとっていた昆布を失った今彼女はただのごぼうだった。「せめて鮭フレークだったら良かったんだけど」
おおい、まだ? 露天風呂の方で呼ぶ声がする。黒豆に田作りたちだ。正月疲れをねぎらいにおせち仲間で温泉旅行に来たのだった。
「た、たたきごぼうってことで」
伊達巻きが提案する。嫌がる昆布巻きを旅行に誘い、着物だと思って昆布をはいだのは伊達巻だ。責任を感じていた。
「ばれるわ。味漬けが違うもの」伊達巻が肩を落として浴場に向かう。「笑っちゃうよ。これでよろこんぶなんて」と悲しげに言った。
「待って!」
伊達巻きが叫ぶ。急いで昆布巻きの後を追った。昆布巻きの裸体を隠そうと抱きつくと、黒豆たちがどよめいた。
「アレンジレシピだね!」
拍手が巻き起こった。昆布巻きたちがが恥ずかしそうに笑った。
ショートショート No.781
田原にかさんの毎週ショートショートnoteに参加しています。
今週のお題は「おせち風呂」です。
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