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ショートショート 紫陽花男子

 病院のベッドからはみ出す巨体を横たえて、男が眠っていた。「おじゃまします」という声と共に病室のドアが開いた。
「村松くん」
 『村松くん』と呼ばれた青年が男に駆け寄る。男のギプスをはめて吊された右足を悔しそうに見た。
「大丈夫ですか」
 男は昨日の試合を思い出す。観客が口々に贔屓のレスラーの名前を叫ぶ。しかし「黒薔薇伯爵」という男のリングネームを呼ぶ声はない。覆面の悪役レスラーだった。相手チームが二人がかりで向かってくる。観客は彼らの味方だ。歓声。投げられて関節技を決められた。嫌な音がした。
「情けないな」
 男は苦笑いした。村松くんの目に涙が滲んでいる。大学の後輩だ。男の素顔を知る数少ない人物だった。手に花束を握っている。
「ひまわり?」
 男が言うと村松くんが頷く。
「僕にとって先輩は黒薔薇じゃなくて、いつも上を向くひまわりなんです」
 村松君の顔が赤くなる。
 紫陽花みたいだ。男は思った。病室に梅雨の優しい雨の音が響いた。


ショートショートNo.757

たらはかに(田原にか)さんの「毎週ショートショートnote」に参加しています。
今週のお題は「紫陽花男子」です。


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