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ショートショート 読書手術

 小野寺先生は最近元気がない。夜眠れないし食欲も振るわない。
「診ましょうか?」
 心療内科の大野先生が話しかけてくる。大学の同期だ。小野寺先生が首を振り、大野先生が苦笑いする。小野寺先生は手術以外の治療は三流だと思っている節がある。心なんて信じていない。
 「よかったら」大野先生が白衣のポケットから文庫本を取り出して小野寺先生におしつけた。「うちの手術なんで」
 小野寺先生はため息をついた。仕方なく家で読む。医学書でもない本を読むのは久しぶりだ。中身は軽いエッセイだった。見返しに何か書いてある。『昔みたいにたまには腹を割って話しましょう』胸が軽くなった。その夜はぐっすり眠れた。

「おはよ、小野寺先生」
 次の日廊下で大野先生とすれ違う。小野寺先生はポケットから昨日の本を取り出して「ありがとう、たまには腹でも割って」といいかけてやめた。気恥ずかしい。本をひっくり返してぶっきらぼうに言い直す。「どうも。読みすぎて背が割れた」


ショートショート No.765

 たらはかに(田原にか)さんの毎週ショートショートnoteに参加しています。今週のお題は「読書手術」です。


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