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【小学校4年間が、人生を変えた話 第3話】

体育が4時間の日


今なら、たぶん全部アウトな一日

その日は、
朝から空気が違っていた。

阿部先生が教室に入ってくるなり、
黒板に大きくこう書いた。

「今日は全部、体を動かす」

ざわっとする教室。

時間割を見ると、
たしかに体育が多い。
でも「全部」ってなんだ。

誰かが恐る恐る聞いた。

「え、算数は?」
「国語は?」

先生はあっさり言った。

「やらん」

一瞬、
頭が追いつかなかった。

「代わりにな、
今日は疲れるをやる」


意味は分からない。
でも、ちょっとワクワクした。


最初は校庭だった。

走る。
ただ走る。
理由はない。

「止まるなー」
「抜かれても気にするなー」

勝ち負けも、タイムもない。

息が上がって、
足が重くなって、
それでも走る。

しばらくすると、
誰もしゃべらなくなった。

文句も、ふざけ声も消えて、
ただ「今」に集中していた。


次は体育館。

バスケでも、ドッジでもない。

「自分で考えて、遊べ」

そう言われて、
ボールだけ渡された。

最初は戸惑った。

でもそのうち、
自然と役割が生まれる。

投げるやつ。
拾うやつ。
ルールを作るやつ。

先生は端っこで、
腕を組んで見ているだけ。

口出しは、しない。


昼前、
教室に戻った頃には、
全員、ぐったりしていた。

汗だくで、
机に突っ伏す。

そこで先生が言った。

「今、頭の中どうなってる?」

誰かが答えた。

「何も考えてない」
「ボーッとしてる」

先生は、満足そうにうなずいた。

「それでいい」


午後も、体育だった。

今度は山。
校外だった。

今なら確実に問題になるやつだ。

登る。
滑る。
転ぶ。

手も服も泥だらけ。

誰かが泣きそうになって、
でも誰かが笑って、
気づいたら全員で笑っていた。

先生は言った。

「疲れると、
人は正直になる」



その言葉の意味は、
当時はよく分からなかった。


家に帰ったとき、
体はクタクタだった。

でも不思議と、
心は軽かった。

テレビも見ず、
宿題もそこそこに、
そのまま寝落ちした。


次の日。

誰も、
「昨日の授業おかしくない?」
とは言わなかった。

むしろ、
ちょっと誇らしげだった。

「あれ、楽しかったよな」
その一言だけで、通じた。


あとになって分かった。

あの日やっていたのは、
体育じゃなかった。

「自分の感覚を取り戻す」
授業だったんだ。

考えすぎる前に、
体を動かす。

正解を探す前に、
感じてみる。

その順番を、
初めて教えられた日だった。



次回予告(第4話)

先生は、テストをほとんどしなかった。
それなのに、
なぜか「学んでいる感じ」だけは残っていた。

「評価されない時間が、人を育てる」
そう気づくまでの話。

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