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お灸を据えられにいく

図書館から帰る途中、商店街の交差点で信号待ちをした。

何となく、ショーウィンドウに目をやると、一枚のポスターが目に留まった。

上下は赤と緑のグラデーション、和の雰囲気のポスターで、
真ん中に「一ツ灸」と書かれていた。

ひとつやいと……

テレビで見たことがある。
お寺でお灸を一つ据えるやつだ。

興味がある。
毎年、何となく気になっていた。

家に帰ってから検索した。
富山から伝わったらしい。

へ~。
で、いつだろう?

明日だった。

ちょうど近くに用事がある。
流れで寄れそうな気がする。

だいぶ熱いのかな?
一つだけなら耐えられるかな?
考えたところでわからない。

とりあえず、明日はお寺の近くまで行って偵察しよう。
あとは成り行きに任せればいいか。

翌日、用事のあと。古いナビに、高源院を入力して出発した。

古ナビは、現在地から一旦坂を下れと言った。
坂を下ったら、今度は車が走れない細い道を行けと言ってきた。

無理です~

拒んだら、知らない細道をグルグルさせられた。挙句の果てに、私有地かと思うような、狭くて急な坂道に連れていかれた。

それにしても、よく通る道の近くに、こんな道があるなんて。知らなかった。
古ナビの粋な計らいに感謝。

遠回りだったが、無事お寺に着いた。
「馬坂」という車の通れない坂のそばにあった。

お寺の入り口付近には、ポスターと同じ配色の「一ツ灸」の幟と、お地蔵さんがあった。

恐る恐るお寺に近づいたら、お寺の中に人影が見えた。
おじけづいて、後ずさり。

一旦落ち着こうと思ったが、見つかってしまった。
もう、腹を括るしかない。

下足棚に靴を入れ、聞かれもしないのに「初めて来ました」と言って入った。

ご住職と、檀家さんらしい方、そして鍼灸師さんが迎えてくださった。
みなさん気さくに話しかけてくださるので、緊張しなくて済みそう。

窓際の椅子に案内され、右膝を出した。
この時のために、裾の広いズボンを履いてきた。

顔をあげると、向かいの鴨居に、「おんころころ せんだり まどうぎ そわか」と墨書きされた紙が貼ってあった。
熱くなってきたら唱えればよい、とのことだった。

やっぱり、熱いのか…

膝に黒いぬり薬のようなものを丸く塗られ、その上にモグサが乗せられた。

それを見て、その場のみなさんがクスクス笑っていた。
私のモグサは、鍼灸師さんの配慮で、ずいぶん小さかったらしい。

いよいよ点火。

小さいモグサは、すぐに火がまわる。

熱いわ、こりゃ!
今こそ唱えてやり過ごすのだ。

おんころころ せんだり まどうぎ そわか
おんころころ せんだり まどうぎ そわか
おんころころ せんだり まどうぎ そわか

4回目を唱えようとした時、急に楽になった。

終了。

おー、まだいけたかもしれない。

やりきった!
……極小モグサだったけど。

鍼灸師さんが、
「3年連続で来るとご利益があるそうですよ」とにっこり。
日が合えば、来年もやってみたいかも。

あ、その時は、普通サイズのモグサなのか…。

お灸が終わったら、お賽銭をして仏様に手を合わせ、お守りをいただいてお寺を出た。

帰りに、歩いて馬坂を下ってみた。
生活の気配を感じる、観光客のいない坂道だった。

向かいから、高齢の男性が登ってこられた。
それを見送ってから、私も坂を引き返した。

駐車場まで歩きながら、あることが頭に浮かんだ。

たしか、県内に火渡りをやってたお寺が…

いやいや。
極小モグサのくせに、調子に乗りすぎだ。

高源院と馬坂