こどもNISAは少子化対策ではない。格差の助長だ。
こどもNISAは本当に子育て支援なのか。親NISA3,600万円を考えると、見え方が変わる
最近、こどもNISAの話を見ていて、最初は「金持ち優遇なのかな?」くらいの違和感だった。
制度の思想そのものは悪くないと思う。
子どもの将来の教育費や自立資金を、長期で育てられるようにする。
ただ現金を配るだけではなく、家庭が将来に向けて資産形成できる仕組みを用意する。
そういう意味では、かなり前向きな制度だと思う。
魚を配るだけではなく、釣り竿を渡す。
もっと言えば、釣り場にアクセスできるようにする。
そういう考え方自体は、僕はかなり大事だと思っている。
ただ、考えれば考えるほど、僕の違和感は「金持ち優遇かどうか」よりも、もう少し深いところにある気がしてきた。
それは、親の新NISA枠がすでに存在しているということ。
今の新NISAは、成人1人あたり非課税保有限度額が1,800万円ある。
両親2人の家庭で考えると、合計で3,600万円。
しかも年間投資枠は1人360万円なので、夫婦2人なら年間720万円まで投資できる。
ここを考えると、こどもNISAの見え方はかなり変わる。
普通に家計全体で合理的に考えるなら、まず使うべきなのは親のNISAだと思う。
なぜなら、親名義のNISAのほうが圧倒的に使いやすいから。
親のNISAなら、そのお金は親のお金のまま。
教育費に使ってもいいし、住宅費に使ってもいいし、老後資金に戻してもいい。
使途の制限もない。
子どもの同意もいらない。
贈与の論点も出にくい。
管理する口座も少なくて済む。
一方で、こどもNISAは子ども名義の資産になる。
もちろん制度としては親権者が管理するのだろうけど、家計の自由度という意味では親NISAよりも扱いにくい。
子どものためのお金として分けることには意味があるが、家計全体で最適化するなら、まず親NISAを使うほうが自然だと思う。
つまり、こどもNISAは「投資できる余裕がある家庭向け」というだけではなく、もっと正確には「親2人のNISA3,600万円を使い切れる、または使い切る見込みがある家庭向けの追加枠」なのではないか。
ここが大きい。
子育て世帯向けの制度に見えるけど、実際には多くの家庭にとって、こどもNISAは第一選択ではない。
まず親NISAがある。
夫婦で3,600万円の非課税枠がある。
そこを埋められない家庭にとっては、こどもNISAを使う経済合理性はかなり薄い。
もちろん、子ども名義でお金を分けておきたいとか、祖父母から孫への資産移転に使いたいとか、そういう目的なら意味はある。
でも、純粋に「教育費を効率よく準備したい」というだけなら、親NISAで運用して、必要なタイミングで親が教育費として払えばいい。
この方がシンプルだし、自由度も高い。
そう考えると、こどもNISAは少子化対策や一般的な子育て支援というより、かなり上澄みの家庭向けの制度に見えてくる。
さらに、満額で使える子どもも限られる。
こどもNISAは、年間60万円、非課税保有限度額600万円という設計だとされている。
満額の600万円まで入れるには、単純に年60万円を10年続ける必要がある。
でも、制度が2027年から始まるとすると、その時点で年齢が高い子はそもそも満額まで投資できない。
たとえば2027年時点で8歳くらいまでなら、17歳までに10年分入れられる可能性がある。
でも9歳なら9年分、10歳なら8年分、11歳なら7年分くらいしかない。
細かい年齢判定は制度の詳細によって多少変わるかもしれないけど、大きな構造は変わらない。
つまり、制度上の対象は0〜17歳と広く見えるけど、600万円を満額で使える子どもはその中の一部に限られる。
そして本当に大きいのは年齢条件よりも、家計の余力のほうだと思う。
夫婦2人の親NISAを満額で使うだけで、年間720万円。
子ども1人のこどもNISAを満額で使うと、そこに年間60万円が追加されて、年間780万円。
子ども2人なら、年間840万円。
これは普通の子育て世帯の投資額としては、かなり現実離れしている。
児童のいる世帯の平均可処分所得は621.5万円。
つまり、夫婦NISA満額プラス子ども1人のこどもNISA満額という年間780万円は、平均的な子育て世帯の可処分所得そのものを超えている。
もちろん、高所得世帯や資産がある家庭なら可能だと思う。
でも、それはかなり限られた層の話になる。
児童のいる世帯のうち、所得1,000万円以上の世帯は25.5%ある。
ただ、所得1,000万円以上だからといって、年間780万円や840万円を投資に回せるわけではない。
住宅ローン、家賃、車、保育料、教育費、食費、旅行、保険、老後資金。
子育て世帯には、支出がたくさんある。
しかも、児童のいる世帯の生活意識を見ると、「苦しい」と答えている世帯は64.3%ある。
この現実を考えると、こどもNISAを満額で使える家庭は相当少ないはずだ。
僕のラフな感覚では、親NISAを先に使うという合理性まで含めると、こどもNISAを本当に経済合理的に使える家庭は、子育て世帯の1〜3%くらいではないかと思う。
さらに、子ども1人あたり600万円を満額で使い切る家庭となると、0.5〜1.5%くらいまで落ちるのではないか。
これは公式統計から直接出せる数字ではなく、あくまで家計合理性を踏まえた推計だ。
でも、感覚としては大きく外れていないと思う。
対象者は多く見える。
でも、満額で使える人はかなり少ない。
さらに、経済合理的に考えると、親NISAを使い切れる家庭でないと優先順位は上がりにくい。
ここがこの制度の一番の違和感だ。
こどもNISAの思想は悪くない。
むしろ長期的には良い制度だと思う。
子どもの将来資金を親が長期で育てる。
金融教育にもつながる。
祖父母から孫への資産移転の受け皿にもなる。
親NISAを使い切った家庭にとっては、追加の非課税枠としてかなりありがたい。
でも、それを「子育て支援」や「少子化対策」として語ると、ちょっと違うのではないかと思う。
少子化対策として本当に必要なのは、まず子どもを持っても家計が壊れない状態を作ることだと思う。
出産費用。
保育料。
教育費。
住宅費。
食費。
車。
共働きの負担。
育休中の収入減。
キャリアへの不安。
こういう現実的な負担がある中で、非課税枠を増やされても、多くの家庭は「そこに入れるお金がない」と感じるのではないか。
釣り竿を渡すことは大事だ。
でも、今日のご飯が不安な人に釣り竿だけ渡しても、問題は解決しない。
本来の順番は、まず生活基盤を安定させること。
子どもを持っても家計と時間とキャリアが壊れない状態にすること。
そのうえで余剰資金が生まれ、その受け皿としてNISAがある。
こどもNISAは、その最後の部分の制度だと思う。
だから、制度自体を否定したいわけではない。
金融庁ができることとしては、かなり自然だとも思う。
金融庁は児童手当を増やす省庁ではないし、保育料を直接下げる省庁でもない。
金融庁ができることは、NISAや金融教育や資産形成の制度設計に近い。
そう考えると、これは「できる人が、できる範囲で、できることをやった結果」なのだと思う。
ただ、国全体の子育て支援として見ると、やはり順番が逆に見える。
こどもNISAは、すでに余裕がある家庭には役に立つ。
親NISA3,600万円を使い切れる家庭には、さらに役に立つ。
祖父母から孫への資産移転を考える家庭にも役に立つ。
でも、普通の子育て世帯にとっては、まず親NISAすら十分に埋められない。
そこに子ども名義の追加枠を出されても、使える家庭はかなり限られる。
だから僕の結論はこうだ。
こどもNISAは悪い制度ではない。
ただし、子育て支援の本丸ではない。
教育資金形成支援としては良い。
資産形成の選択肢としても良い。
でも、少子化対策としてはかなり遠い。
そして、親NISA3,600万円の存在を考えると、こどもNISAは「普通の子育て世帯のための制度」というより、「親NISAだけでは足りない家庭の追加非課税枠」という性格が強い。
ここを見落とすと、制度の評価を間違える気がする。
もし本当に子育て支援としてやるなら、たとえば国が子ども1人ごとに初期拠出を入れるとか、所得に応じてマッチング拠出を厚くするとか、児童手当を増やしたうえで任意でNISAに回せるようにするとか、そういう形のほうが届きやすいと思う。
つまり、器だけ作るのではなく、器に入れる水も用意する必要がある。
こどもNISAは、将来を考える制度としては良い。
でも、今の少子化や子育て世帯の負担感に対しては、まだ上澄みの支援に見える。
「制度の思想は悪くない。むしろ長期的には良い。
でも、親NISA3,600万円を考えると、本当に使える人はかなり限られる。」
これが、僕の一番の違和感だ。
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