見出し画像

迷子ドライブ


最近、今住んでいる街にもかなり慣れたなーと思う。



昔から、ディズニーのトイレの中で迷って出口を見失うほどの方向音痴なので、引っ越してきた当初は、夫に「あまり一人で出歩かないように」と釘をさされていた。



方向音痴が一番やってはいけないのが、土地勘のない場所での車の運転だ。あさっての方向に走り出したかと思ったら、あっという間に知らない住宅街に紛れ込んでしまう。








まだ免許取り立てで、ナビのないお下がりの車に乗っていた頃のこと。当時住んでいた街にニトリの大型店舗があり、無謀にも引越し直後にひとりで行こうとしたことがある。



店は交通量の多い片側 2 車線の広い道路沿いに建っており、自宅から行くと右折で入らなければならなかった。



この道路を右折して入るのは🔰マークにはハードルが高すぎると判断し、ぐるっと回って左折で入ろうと、土地勘がないくせに当てずっぽうでニトリの裏側の道に入って行った。ここをこう行ってああ行けば大通りに出て、そしたら左折でニトリに入れるという算段だった。いかにも初心者が思いつきそうな愚案である。



ところが、行けども行けども大通りに戻れる道がない。



そのときは気がつかなかったが、おそらく道全体がゆるやかに右にカーブしていたのだと思う。進めば進むほどニトリから遠ざかって行く。さっきまで市街地の大きめの道を走っていたのに、なぜか今は細い一本道を走っている。



陽が傾き始めて辺りは少しずつ暗くなり、それと同時に街灯の数も少なくなっていく。私は対向車のヘッドライトに顔をしかめながら、必死で辺りの様子をうかがった。



暗くてよく見えないが、道の両脇はどうやら田んぼか畑のようだ。歩道もない狭い道を、こっち側もあっち側もたくさんの車が連なっている。たぶん市街地からの抜け道だったのだろう。みなさんまあまあのスピードを出していて、途中にはコンビニどころか路肩すらなく、ただひたすら前の車について行くしかなかった。



どうしよう、迷子になってしまった。



半泣きになりながらどうにか知らない街の大きめの通りに出て、コンビニから友達に電話した。母も夫もまだ仕事をしている時間だったので、その時間につかまる知り合いがその子しか思いつかなかったのだ。



久しぶりに旧友から電話が来たと思ったら、自分とは全然関係ないところで道に迷ったと泣きつかれ、電話に出た友達も面食らっていた。友達は呆れながら、コンビニの店員さんに道を訊けとごく当たり前のアドバイスをしてくれた。



私は半ばパニックになっていたため、コンビニに入るなり何も買わずにレジに直行し、高校生っぽいバイトの女の子に道を尋ねた。



まさかこんな場所で道を尋ねられるとは思っていなかったのだろう。女の子は「えっ」という顔をし、べつの大人の店員さんを呼んでくれ、私はその店員さんから丁寧な説明を受けることができた。



その後私はどうにか元来た道を戻ることができ、どこでどう曲がったのがまったく覚えていないのだが、なんと最初の思惑通り、ニトリに左折で入れる道に出ることができたのである。



もうニトリなんて心底どうでも良かったが、せっかく左折で入れるところまで来たので、買い物をした。時刻は18時を過ぎていたと思う。ニトリに行こう!と家を出たのが16時前だったので、2時間近くドライブしていたことになる。








べつの日。
夫の運転でニトリ近くの市街地を走っていたら、ふとあの日の迷子ドライブのことを思い出した。たしかここを入ったんだよな…と思い、夫にちょっとこっちの道行ってみてと頼んだ。まだ昼間だったので、明るいうちに景色を見て「ああ、ここに入り込んじゃったのかぁ」と確認しておきたかったのだ。



ところが、曲がった先にはまっすぐでやや広めの道路が続いていた。左右には住宅が建ち並び、一時停止の看板やスクールゾーンの看板もある。道は規則正しく前後左右に延びており、ちゃんと四角く走って大通りに出ることができるようになっていた。



あのときはこんな風に左に曲がる道はなかった。いくら私でもこんな普通の道だったら迷子になんかならないし、一時停止の看板なんて見た記憶がない。



迷子ドライブのことは夫にも話していたので、夫も不思議がり、もう一周してみようと言って、今度はさっきの道から1本奥の道を入ってみた。



しかし、その道もまた前後左右に住宅が建ち並ぶ、普通の生活道路だった。左折ポイントは何か所もあり、そのどれもが大通りに戻ることができるように見えた。



結局その日は、あの田んぼ道へ続く道を見つけることができずに帰宅した。 



それからしばらくして、私はニトリ近くのレストランでパートを始めた。親しくなったパート仲間の人に「この辺には慣れた〜?」と訊かれ、ふたたびあの迷子ドライブのことを思い出したのでその話をしてみた。



するとその人は、「そんな裏道、ニトリの裏にあったっけ?」と怪訝な表情になった。



彼女が言うには、ニトリの裏はわりと新しめの住宅地で、宅地開発される前は山だったとのこと。「あの辺には田んぼも畑も空き地もないと思う。どこに入り込んじゃったんだろうね?」と、その人も不思議がっていた。



そ、そんな…怖いんですけど…!



あの時、私は確かに両側がまっくらの道を走った。路肩なんて無いに等しく、ところどころに白い杭のようなものが道路の境目に差し込んであった。踏み外さないように気をつけながら必死で運転したのだ。あれが市街地の道路だとは思えない。



その後も何度かニトリの裏を探索したのだが、あの道は見つけられなかった。狐につままれた気分である。トトロとか千と千尋とかそういう話が作れそうだ。「あの日、私が迷い込んだあの町は、地図上には存在しない場所でした」みたいな。



結局、迷子ドライブの謎は解けないまま、次の転勤になった。人生に七不思議があるとすれば、間違いなくそのひとつに入るであろう出来事だった。




いいなと思ったら応援しよう!