ひきこもりオパール
私は昔からあんまりジュエリーには興味がないのだが、ひとつだけ長い間どうしても欲しかったものがある。それがオパールのネックレスだった。
「一粒の、とろりとした乳白色のオパールのネックレス」を、好きな小説に出てくるピアノの先生がつけており、その描写がとても印象的だった。
ネックレスに触るゴツゴツとした皺だらけの指先に、描かれてはいないが、わずかにシミのあるデコルテ、見事な白髪、狭い額、鋭くも優しいまなざしに、薄い唇。私の頭の中では勝手に熟練のピアノ教師像ができあがり、とても憧れた。
オパールのネックレスと検索するといろいろ出てくるのだが、どれも華美な装飾が施されていたり、石の色が違ったりして「これだ!」というものがなかなか見当たらなかった。休みの日にジュエリーショップを回ったりもしてみたが結果は同じで、そもそも一粒オパール自体を取り扱っていないお店もたくさんあった。
探し始めて何年たった頃だろうか。ある日、夫と郊外の大きなイオンで買い物をし、食料品の入った袋を両手にぶら下げてぶらぶら歩いていると、唐突に「ジュエリーツツミ」の看板が目に飛び込んできた。
そこにツツミがあることは以前から知っていた。しかしそれまでジュエリーに興味がなかったため、入ったことは一度もなかった。私の欲しいオパールも、都会のジュエリーショップにないものがイオンの中にあるわけがないと決めつけていた。
しかしその時は不思議なほどツツミが気になり、ふらふらと店の中に入ってしまった。そして見つけたのだ。私の思い描いていた通りのネックレスを…!
もちろん買っ(てもらっ)た。
ツツミの店員さんは、両手にスーパーの袋を下げた場違いな夫婦が、入店して1分やそこらで「これください!」となったので非常に驚いていた。私が「ずっと探していた理想の形なんです」と言うと、さらにびっくりしたように「このネックレス、今日入ってきたばかりなんですよ!」と教えてくれた。
これを運命と言わずしてなんという。宝石というのは、波長の合う人のところに行くとその輝きが増すと言われているように、人との相性とか見えない繋がりが存在する物なのだ。とても不思議なことに思えるが、店員さんによるとそういう出会いの場面にはごくたまに遭遇するらしく、それがジュエリーショップの店員をやっていて一番良かったと思う瞬間なのだそう。
店員さんはさらに、
「オパールは、見た目を良くするために二つの石を貼り合わせて加工したものもたくさんあって、それはそれで人気があるんですが、これは一粒の完全なルース(石)です。ルースのオパールには邪の氣を吸ってくれる性質があるので、持ち主をいつもおだやかで幸せな気持ちにしてくれるんですよ。大切にしてくださいね」
と言ってくださった。その表情と口調から、ああこの人はこのお仕事がすごく好きなんだろうなぁ…と思い、そういう人から買えたことがとても嬉しかった。
何年か越しの想いとともに、自宅に連れ帰ってきた私のオパールちゃん。オパールは石の色によってお値段にものすごく差があり、もっともお高いのはオーストラリア産のブラックオパールで、私の持っているこのエチオピア産のホワイトオパールは、そこまで高価なものではない。
しかし、日本人の肌色に合うということで国内では人気があるらしい。鉱物の奇跡としてエチオピアで生まれたこの石が、遠く離れた日本人の肌に似合う。それだけでもすごく運命を感じるし、その中でも私のことを選んで待っていてくれたのだと思うと愛しさが溢れて止まらない。
オパールは水分の出入りが激しく、その特有の遊色効果を守るために、雨の日や逆に炎天下の中を長時間つけて歩くことは推奨されていない。おまけに、汗や日焼け止めなどのクリーム類が付くと変色することがあるという、とても繊細な宝石なのだ。
石自体が繊細な上に、すごく華奢なチェーンのネックレスで、ネックレスしていることを忘れて雑に着替えたりしてプチ!とかなったらと思うと、怖くてなかなか普段使いはできない。雨でもなく炎天下でもないとっておきのお出かけのときにつけよう♡と思っているものの、とっておきのお出かけって、何よ?と思う。そんなん一年に1回あるかどうかって感じである。
ダイヤが人気がある理由がちょっとわかった。キレイなだけじゃなくて、雑な扱いにも負けない強さのある宝石だから、高価なものでも普段使いしやすいのだろう。私のオパールちゃんがひきこもりがちの病弱な美少女なら、ダイヤモンドはアクティブで健康な美少女みたいなもんだ。オパールちゃんは一緒に連れ歩くというよりも、眺めて愛でるのが一番安心かもしれない。
そんなわけで、繊細すぎる私のオパールちゃんは、なかなか連れ出す機会がないため、今も店頭にあったときと同じ美しい輝きを保ったまま箱の中に鎮座している。
私も自宅でピアノの先生をやってれば毎日つけられたのになぁ。ピアノ、真面目に習っとけばよかったな…
(そんな理由で後悔するな!笑)
