【創作大賞2026応募作】【動画付短編小説】【JACK】─断章 変わる夜(第三十話)(32)
——あの頃の、木南三四郎。
まだ、神宮寺じゃなかった夜。
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雨は、降っていなかった。
交差点の信号が、無意味に赤と青を繰り返している。
木南三四郎は、電話を見つめていた。
着信履歴。
発信しなかった履歴。
順子。
親指が、画面の上で止まる。
行けばよかった。
それだけの夜だった。
大げさな喧嘩でもない。
別れ話でもない。
ただ、
「今日はやめとこう」と思っただけだ。
その「だけ」が、
夜を決めた。
――遠くで、ブレーキの音が裂けた。
光が傾く。
名前を呼ぶ声。
途中で、飲み込まれた。
振り向いたときには、すべてが遅かった。
──
病院の廊下は、冷えすぎていた。
医師の声は短かった。
「即死に近い状態でした」
木南は、うなずかなかった。
泣かなかった。
怒らなかった。
ただ、左手首のユンハンス・マックス・ビルだけが、正確に秒を刻み続けていた。
シンプルなダイヤル。
細い針。
迷いなく進む時間。
その規則正しさが、ひどく残酷だった。
──
夜明け前。
交差点は、もう何事もなかったように動いている。
街は、もう動いていた。
誰も立ち止まらない。
誰も覚えていない。
木南三四郎は、そこに立っていた。
立ったまま、何もできない自分を見ていた。
「……会ってたら」
言葉が、宙に浮いたまま落ちない。
その瞬間、
彼は理解した。
赦されない。
誰にも。
自分にも。
──
数日後。
役所の窓口で、一枚の紙に署名をした。
「お名前を」
木南は、一瞬だけ止まった。
左手首のマックス・ビルが、その一瞬を正確に刻む。
それから。
新しい名を告げた。
「……神宮寺です」
その瞬間、木南三四郎は終わった。
死んだのは、順子だけではない。
交差点の片隅で、
もう一人、
静かに灰になった。
──
時間は、止まらなかった。
迎合しない。
それが、彼に与えられた、唯一の罰だった。
——断章

それだけで、世界は満ち足りていた。

迎合もしない。
残酷なくらいに。
──映像
遠い追憶の中で、
— 隼人 (@hayato_watches) February 20, 2026
楽しそうにはしゃぐ木南と順子。
音楽は、悲しく美しいピアノ。
【変わる夜】 pic.twitter.com/k7W2PbJd3V
──変わる夜
交差点の赤い光の下、
少年は大切なものを失う。
触れなかった後悔が、
古い名を灰に変える。
新しい名を告げた瞬間、
彼は無表情のまま、
自分を葬った。
(JACK・断章 変わる夜)
