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【動画付短編小説】【JACK】─外典 途中の世界/第三夜 エルフの祭祀

翌朝だった。

オーク帝国への街道。赤い大地が、遥か彼方まで続いている。乾いた突風の音が、少し東にある死の峡谷にこだましていた。

オークの少年は嬉しそうに先を歩いている。
「もうすぐ、エルフの集落です!」

五島は静かにコーヒーを飲む。
「遠いな」

南雲は少年から受け取った地図を見ていた。
「そろそろ着く」

飛鳥は汗を拭う。
「本当に異世界なんですね……」

神宮寺は小さく笑った。
「今さらか」

五島はブラックを一口飲む。
「私は人間だ」

全員
「……」

――

大樹の国、エルフィリア。数千年の歴史を持つ、大聖樹神殿。

白い石柱。透き通る風。巨大な樹木が空を覆っている。その中心で、巨大な水晶が静かに脈動していた。

祭祀たちは旅人たちを見るなり、驚いた表情を浮かべる。
「珍しい……」
「人間と、オークの子……」

飛鳥
「オーク?」

祭祀
「……耳以外、ほぼ人間ですね」

少年
「やっぱり?」

五島
「だから、検査を受けるんだろう」

飛鳥
「珍しく、まともなこと言いましたね」

五島
「違う」

――

祭祀が静かに頭を下げた。
「旅人の皆様。種族検査を受けていただきます」

飛鳥
「本当にやるんですね」

少年は誇らしげに胸を張る。
「人を知るものは智なり、自らを知るものは明なり」

飛鳥、吹き出す。
「今度は老子」

神宮寺
「どこで覚えたんだ」

南雲
「謎が多い少年だ」

五島
「……検査を受けるまでもない」

全員
「……」

――

巨大な水晶。淡い光。

最初に、神宮寺。水晶が柔らかく輝き、ゆっくりと琥珀色へ変わる。

種族:人間
職業適性:酒場のマスター(SS)
聞く力:計測不能
対人調停:EX

飛鳥
「そんな職業、あるんですね……」

祭祀
「あります」

神宮寺
「……ただのバーテンダーだ」

祭祀
「はい。酒場のマスターは、道具屋の商人と同じくらい、どこの街にもいる職業です」
少し間を置いて、
「ただし、SS適性は珍しい。人が自然と集まり、争いが収まり、帰る場所になります」

飛鳥
「すごい……」

神宮寺
「……大袈裟だな」

五島
「違う」

祭祀
「もちろん、本人の自覚はありません」

神宮寺
「……そうか」

――

次に、飛鳥。水晶が淡い蒼色に輝く。

種族:人間
職業適性:夜の語り部(SS)
補助魔法適性:A
共感魔法:S
記憶投影:A
沈黙結界:A

祭祀
「語り部は剣を持たぬ。だが、言葉で心を支える。古代には、小さな魔法を使う者もいた」

飛鳥
「えっ、魔法!?」

神宮寺
「便利そうだな」

飛鳥
「神宮寺さんは?」

祭祀
「精神安定系の補正はあります。ですが、魔法というより、職業特性です」

神宮寺
「……なるほど」

五島
「面白いな」

長老
「お嬢さんは、夜の語り部か」

飛鳥
「何ですか、それ?」

「珍しい職業ではない。酒場にも、旅籠にも、王都にもいる。ただ、SS適性は稀だ。人の孤独を受け止め、言葉で灯をともす者」

神宮寺、静かに頷く。
「……らしい」

飛鳥
「褒められてる気はします」

五島
「浮かれるな」

飛鳥
「何でですか!」

――

続いて、南雲。水晶が禍々しい赤になる。祭祀たちがざわつく。

若い神官
「……おかしい」

飛鳥
「え?」

水晶に文字が浮かぶ。

種族:人間
職業適性:狂戦士(S)
統率:A
生存本能:EX
恐怖耐性:計測不能
感情表現:著しく低い

飛鳥
「狂戦士!?」

神宮寺
「……意外ではないな」

少年
「すごい!」

南雲
「何だ、それは」

祭祀が困惑した表情で答える。
「通常、狂戦士適性を持つ者は怒りによって力を増幅させます。しかし、この方には怒りの波動がありません」
「怒りではなく、沈黙によって精神を統御しています。極めて稀な、静寂型狂戦士です」

長老
「この男は、怒りで戦うのではない。覚悟で戦う。死を受け入れた者だけが持つ、静かな狂気だ」

南雲
「意味が分からん」

神宮寺
「まあ、そういうことだ」

飛鳥、腹筋崩壊。
「何ですか、その厨二病みたいな職業!」

神宮寺
「似合っている」

南雲
「俺は普通の人間だ」

五島
「違う」

南雲
「……何だと?」

五島
「普通ではない」

神宮寺
「否定はしない」

飛鳥
「そこは否定してくださいよ!」

少年
「狂戦士様!」

南雲
「やめろ」

――

長老が巨大な水晶へ手を置く。
「この世界では、肉体は器に過ぎぬ。真に計測されるのは魂の密度だ。何を守り、何を捨て、何を抱えて歩いてきたか。それが力となって現れる」

飛鳥
「じゃあ、五島さんが最初から強いのって……」

長老
「当然だ。これほど重い魂を、私は見たことがない」

五島
「違う」

――

次に、少年。水晶が淡い金色に輝く。

種族:オーク族(希少亜種)

少年
「やった!」

飛鳥
「ほぼ人間じゃん!」

五島
「違う」

――

そして、最後に五島が前へ出る。

その瞬間、水晶が低い唸り声のような音を立て始めた。祭祀たちの顔色が変わる。

長老がゆっくりと立ち上がった。
「……止めろ」

若い神官
「しかし、規則です」

長老は静かに首を振る。
「分かっておらぬ。この水晶が恐れを示すのを見たのは、三百年ぶりだ」

五島
「……?」

神宮寺
「また面倒なことになりそうだな」

南雲
「最初から分かっていた」

飛鳥
「絶対、何か出ますよね?」

五島
「……気にする必要はない」

全員
「……」

――

やがて、祭祀たちが重い沈黙に包まれた。若い神官が震える声で報告する。
「……結果が出ました」

長老
「言いなさい」

神官
「大変、申し上げづらいのですが……」

五島は神殿の中でもブラックコーヒーを飲んでいる。神宮寺は少し困った顔をしていた。

祭祀が恐る恐る口を開く。
「あなたの種族は……」
長い沈黙。
「人間ではありません」

静寂。

飛鳥が吹き出しそうになる。五島は特に驚かない。
「……そうか」

祭祀はさらに声を小さくした。
「正確には、アンデッドに分類されています」

神殿がざわつく。若いエルフたちが一斉に後退する。

飛鳥
「えっ!?」

神宮寺
「……またか」

南雲
「予想通りだ」

五島
「違う」

祭祀
「ただ……普通のアンデッドとは明らかに異なります」
「通常のアンデッドには死への執着があります。怨念、憎悪、未練、渇望。しかし……この方にはそれが存在しません」

水晶に文字が浮かび上がる。

種族:不明
分類:アンデッド
危険度:計測不能
支配欲:ゼロ
名誉欲:ゼロ
王位継承意志:ゼロ
執着:ブラックコーヒー

飛鳥、笑い転げる。神宮寺、深いため息。南雲、完全無反応。

五島
「……何だ、それは」

祭祀
「さらに異常なのは精神状態です。死を恐れていない。永遠を望んでいない。救済を求めていない。にもかかわらず、存在を継続している」

長老
「王は、王になろうとする。魔王は、世界を欲する。賢者は、真理を求める。騎士は、完成を願う。だが――」
「この男は、何も求めていない。故に、最も理解できぬ。そして、最も恐ろしい」

飛鳥
「恐ろしいんですか?」

長老
「完成した者は、歩かない。だが、途中の者は、どこまでも歩いてゆく」

五島
「……大袈裟だ」

長老
「いや。お前は、初めて見る種類の旅人だ」
「通常、不死者は永遠を望む。だが、この男は違う。永遠すら、途中の風景として受け入れている」

祭祀は古文書を開いた。
「古代文献に、ただ一つだけ、近い記述があります」
「――途中の者」

完全な沈黙。

五島が静かにコーヒーを置く。
「……それなら、合っている」

祭祀
「え?」

五島
「私は、途中の人間だ」

祭祀
「人間ではないのですが……」

五島
「違う」

その瞬間、神殿の奥で、オークの少年が涙を流しながら叫んだ。
「やっぱり、哲人王様だった……!」

五島は深いため息をつく。
「違う」

南雲が少年の頭を軽く撫でた。
「……帰るぞ」

少年は涙を拭った。
「はい」

五島は静かに立ち上がる。
「途中だからな」

ただ、大聖樹だけが、風に揺れていた。

――【JACK】─外典 途中の世界/第三夜 エルフの祭祀 完

何者であるかより、
何を抱えて歩くか。
完成した者は、歩かない。
途中の者だけが、
風景を変えながら、
どこまでも歩いてゆく。
人は、剣だけで旅をしない。
帰る場所を作る者。
語り継ぐ者。
戦い続ける者。
そして、途中を歩く者。
――旅は、まだ始まったばかりだった。


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