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「例外処理を利益に変える:DHL Express、米国国内便撤退から国際TDI集中へ」(DX決断録 82/100)

『DX 決断録 100』意思決定の瞬間を切り取る。DXとは、長期的な変革の意思決定をした瞬間を追い、どのような判断が行われたのかを読むシリーズである。

DHLは、荷物を速く運ぶ会社として始まったのではない。

1969年、Adrian Dalsey、Larry Hillblom、Robert Lynnが始めた最初の商売は、San FranciscoからHonoluluへ船積書類を先に飛ばすことだった。貨物そのものが港に着く前に、通関処理を始められるようにする。顧客が買っていたのは、飛行機でも、配送網でも、黄色い車両でもなかった。

荷物より先に、情報が動くことだった。

ここを見落とすと、DHL ExpressのDXはつまらない話になる。MyDHL+を統合した。AIを入れた。センサーを付けた。航空機を更新した。巨大ハブを拡張した。そう並べれば、よくある物流DXの施策集に見える。

しかし、この会社の本当の決断は、もっと手前にある。

DHL Expressは、勝てない市場をDXしなかった。

2008年、DHL U.S. Expressは国内専用のair/ground serviceを終了し、米国発着の国際Expressへ集中する方針を示した。UPSとFedExが強い米国国内配送の土俵で、同じ総合宅配網を張り続けることをやめた。国内配送の総合プレイヤーになる夢を切り、米国発着の国際サービスへ集中する。その敗北が、後のDXの前提になった。

DXの前に、境界を決める。

この順番が、DHL Expressのケースの芯である。

Abstract

DHL Expressの中心決断は、物流を再発明することではなかった。米国国内総合宅配でUPS/FedExと戦い続ける夢を捨て、国際Time Definite Internationalという勝てる領域へ境界を切ったうえで、MyDHL+、AQCC、SmartSensor / LifeTrack、Leipzig/Halleハブ、B777F、capacity managementを束ねた。Strategy 2025では約20億ユーロのデジタル化投資と年15億ユーロ以上の便益目標を掲げ、2026年Q1にはExpress revenue EUR 6,011m、EBIT EUR 799m、EBIT margin 13.3%を示した。これは「配送を速くした」話ではない。通関、遅延、温度逸脱、航空容量、顧客入力の例外を、荷物より先に動かす会社へ近づいた話である。



1. プロローグ:物流会社の原点は、荷物ではなく書類だった

物流のDXは、すぐ「追跡できる」「早く届く」「倉庫が自動化される」という話になる。

もちろん、それは間違いではない。荷物の場所が見えないより、見えた方がいい。遅いより、速い方がいい。人が紙で処理するより、システムで処理した方がいい。だが、DHL Expressのケースでは、その理解だけでは浅い。

DHLの創業モデルは、貨物を動かす前に書類を動かすことだった。

船が港に着いてから通関書類を処理すると、貨物は待つ。港で待つ。顧客も待つ。倉庫も待つ。販売も待つ。その待ち時間は、単なる遅延ではない。資金回収の遅れであり、在庫の拘束であり、顧客の不安であり、次の取引の遅れである。

創業者たちは、その待ち時間の原因を、船や港だけに見なかった。貨物そのものはまだ海の上にある。だが、書類だけなら先に飛ばせる。書類が先に着けば、通関は先に始められる。貨物が着いた瞬間に、次の動きへ移れる。

つまり、DHLは最初から「物理の前に情報を動かす」会社だった。

この原点は、後のMyDHL+やAQCC、SmartSensor、LifeTrackまでつながる。顧客が入力を迷う前に入口を整える。荷物が止まる前に例外を見つける。温度が逸脱する前に介入する。需要が崩れたときに航空容量を調整する。

荷物を速く運ぶというより、荷物が遅くなる理由を先に動かす。

ここがDHL ExpressのDXを読む入口である。

ただし、情報を先に動かすには、もう一つの条件がある。どの市場の情報を動かすのかを決めなければならない。すべての荷物、すべての国、すべての配送種類、すべての顧客を同じように磨くことはできない。

DHLは、その痛い線引きを2008年に迫られた。

2. 当時の常識:米国国内市場を捨てた敗北が、DXの起点になった

2008年のDHLは、勝っている会社の顔をしていなかった。

米国国内エクスプレス市場では、UPSとFedExが強すぎた。車両、拠点、集配密度、ブランド認知、企業顧客との関係、個人の習慣。どれも一朝一夕では崩せない。DHLは米国で存在感を作ろうとしたが、国内配送の土俵で二強と正面衝突するには、あまりにも重い投資が必要だった。

この局面で、DXを魔法のように使うこともできたはずだ。

追跡を磨く。オンライン出荷を便利にする。営業支援を強化する。ルート最適化を入れる。データで稼働率を上げる。広告を打つ。黄色いブランドをもっと覚えてもらう。そうした打ち手は、どれも一見合理的に見える。

だが、勝てない市場を速くしても、赤字が速くなるだけかもしれない。

DHLは米国国内の国内専用エクスプレス事業を大きく縮小し、米国発着の国際サービスに集中した。DHL Group公式Sustainability Report 2009は、2008年11月10日に米国国内Expressからの撤退を発表し、国際製品・サービスへ集中すると説明している。同時期のFedExとUSPSの公式声明、CNNMoneyやReuters等の報道も、米国国内の航空・地上サービス終了と国際サービス継続を補強する。駅や拠点、人員も大きく減らす。これは美しい成功談ではない。撤退であり、敗北であり、痛みを伴う境界設定だった。

しかし、この撤退がなければ、後のDHL ExpressのDXは散った可能性が高い。

米国国内でUPS/FedExと同じ総合宅配を目指すのか。国際Time Definite International、つまり国境を越え、時間指定性と信頼性が問われるプレミアム領域に集中するのか。この二択は、技術選択より前にある。

DHLは後者を選んだ。

この選択は、技術部門だけで完結しない。営業は国内顧客の期待を失い、現場は拠点縮小を受け入れ、投資家には成長市場を捨てる理由を説明しなければならない。だからこそ、ここで問われたのは配送システムではなく、経営の境界線だった。

ここで捨てたものは、巨大市場の夢だった。米国内のあらゆる荷物を扱う総合宅配ブランドになる夢。アプリやAIで国内配送の弱さを一気に覆す夢。規模で勝つ夢。

残したものは、国際ネットワークだった。通関、航空、ハブ、パートナー運航、顧客の越境業務、ライフサイエンスの温度管理、緊急性の高い書類や小口貨物。DHLがもともと強かった場所である。

この判断の教訓は厳しい。

DXは、弱い事業をなんでも救う道具ではない。まず、どの市場を磨かないかを決める。そのうえで、勝てる領域の摩擦を徹底的に削る。

DHL Expressは、ここから自分のDXを始めた。

3. 選択肢と制約:Strategy 2025は、再発明ではなく増幅だった

2019年、DHL GroupはStrategy 2025を発表した。

表題だけを見ると、典型的なデジタル変革の発表に見える。Digitalization、Sustainability、E-Commerce。約20億ユーロを2021年から2025年にかけてデジタル化へ投じ、2025年までに年15億ユーロ以上のランレート便益を見込む。数字も大きい。

だが、Frank Appelの言葉は派手ではなかった。

彼は「We will digitalize ourselves」と述べた。DHLを再発明するのではない。デジタル化する。別の箇所では、デジタル化を「the biggest opportunity since globalization」とも呼んだ。焦点はprofitable core、つまり収益性あるコアを、より有効に、より効率的にし、成長機会を作ることだった。

この言い方は、DXの流行語としては地味である。

しかし、DHLにはこの地味さが合っていた。物流会社が「すべてをプラットフォーム化する」「物理資産を捨てる」「ソフトウェア企業になる」と叫ぶと、聞こえはいい。だが国際エクスプレスの価値は、物理資産を消すことではない。むしろ、物理資産があるから顧客は買う。航空機、ハブ、通関知識、現地運営、例外時の介入、危険物や温度管理の知見。ここを捨てれば、DHLらしさは消える。

Strategy 2025の賢さは、破壊的な自己否定ではなく、強いものを強くする投資としてデジタル化を置いたことにある。

一つ目は、IT backboneの近代化だった。古いアプリケーションや部門ごとの仕組みを、柔軟なアプリケーション構造へ移す。地味だが、物流会社ではここが効く。国、部門、顧客、サービスごとにプロセスが違えば、例外処理は遅くなる。

二つ目は、Centers of Excellenceである。BlockchainやIoTのような技術を、各部門がバラバラに試すのではなく、横断的に展開する。これも派手ではない。だが、220超の国・地域、3,200施設、年間約5億個の貨物を扱う会社では、標準化なしの実験はすぐ負債になる。

ここでDHLは、技術の目的語を間違えなかった。

AIを導入するためのAIではない。IoTを貼るためのIoTではない。顧客の入力、通関、遅延、温度、航空容量、ハブ処理、例外対応を、少し早く、少し正確に、少し壊れにくくする。その積み上げが、年15億ユーロ以上の便益目標として説明された。

DXの投資家向け説明としても、これは強い。新規事業の夢ではなく、本業の採算式を改善する投資だからである。

ただし、戦略を発表しただけでは何も変わらない。顧客が最初に触れる場所で、摩擦を減らさなければならない。

その入口が、MyDHL+だった。

4. 決断:MyDHL+は、便利な画面ではなく入口を減らす装置だった

顧客が国際便を出すとき、面倒なのは配送だけではない。

見積もりを取る。送り状を作る。集荷を依頼する。関税や必要書類を確認する。追跡する。問い合わせる。複数の国、通貨、住所形式、商品分類、規制、顧客システムが絡む。荷物を出す前から、すでに例外は始まっている。

MyDHL+は、この入口の摩擦を減らすための装置だった。

DHL Expressは2021年、DHL.com/Express上のオンラインコンテンツをMyDHL+へ移し、13種類のアプリ機能を一つのプラットフォームへ統合すると発表した。MyDHL+は2018年にローンチされており、2021年の統合で顧客が複数のポータルを行き来する負担を減らした。日本法人社長のTony Khanは、その効用を「less sites to navigate」という小さな不満の削減として語っている。

ここで大事なのは、UIがきれいになったことではない。

入口が減ったことで、例外が減る可能性がある。

国際物流では、顧客の入力ミスがそのまま遅延になる。住所、関税分類、書類、集荷時間、追跡番号、請求先、返品条件。どれかが曖昧なら、荷物はどこかで止まる。顧客は「DHLが遅い」と感じるが、実際には荷物が動く前の情報が遅れていたり、ずれていたりする。

MyDHL+の意味は、顧客が迷う場所を減らし、情報を最初から通る形に寄せることにある。これは、1969年の書類先行搬送と同じ線上にある。荷物が動く前に、情報を整える。

大口顧客には、MyDHL APIも効く。見積、ルーティング、出荷、集荷、追跡、関税見積を、顧客側の受注、倉庫、業務システムへ埋め込める。つまりDHLは、顧客がDHLの画面に来るのを待つだけでなく、顧客の業務システムの中に入る。

これも、顧客接点の取り合いである。

物流会社が顧客の業務システムに入れば、出荷の選択は早くなる。比較も、見積もりも、ラベル発行も、追跡も、日常業務の中に組み込まれる。顧客はDHLを「あとで選ぶ配送会社」としてではなく、「出荷業務の一部」として使う。

ただし、入口を整えても、荷物は途中で止まる。

国際物流の本番は、出荷後に起きる例外である。天候、通関、航空便、積み替え、住所不備、温度逸脱、紛争、規制変更。顧客の画面が便利でも、現場の例外が遅れれば価値は失われる。

DHLのDXが本当に面白くなるのは、この先だ。

5. 実行:AQCCは、遅延をゼロにせず、遅延を早く見つける装置だった

物流会社は、遅延をゼロにはできない。

天候は変えられない。税関の判断も変えられない。空港の混雑も、戦争も、燃料供給も、感染症も、突然の需要急増も、DHLだけでは消せない。国際物流で大切なのは、例外が起きないふりをすることではない。例外が起きた瞬間に、どれだけ早く見つけ、代替し、顧客に説明できるかである。

Advanced Quality Control Center、AQCCは、そのための仕組みとして読める。

DHLの公式記事では、AQCCが shipment movements を監視し、問題をリアルタイムに検知し、止まった荷物の場所や予定ルートを特定し、担当者が是正措置を取る様子が説明されている。Ken Leeは、技術を入れる基準を「relevant and sensible」と表現した。AIという言葉に目を奪われると見落とすが、主役はAIではない。

主役は、例外を先に捕まえる順番である。

荷物が顧客に届かなくなってから探すのでは遅い。遅延が確定してから謝るのでも遅い。国際TDIで顧客が買っているのは、単なる移動ではなく、時間の確実性である。確実性を売る会社は、不確実性が起きた瞬間に動けなければならない。

AQCCは、DHLが「速く届ける」だけでなく「壊れる前に止める」会社になろうとした証拠である。

Global ForwardingのLife Sciences文脈で語られるSmartSensorやLifeTrackにも、同じ構造がある。ライフサイエンスやヘルスケアの輸送では、荷物が届けばよいわけではない。温度が外れた医薬品は、届いても価値を失う。DHL Global ForwardingのCEIV Pharma認証更新の文脈では、LifeTrackがクラウドベースのITプラットフォームとして、温度管理輸送の透明性、24/7の監視、事前定義されたポイントでの介入を支えると説明されている。

これは、物流を保険からサービス品質へ変える。

従来なら、温度逸脱や遅延は、あとで補償や謝罪の対象になった。だが、センサーと監視があれば、異常を早く見つけ、介入できる可能性が生まれる。問題が起きたあとに損失を処理するのではなく、問題が顧客価値を壊す前に動く。

ここで、DHLのDXは「見える化」を超える。

見えるだけでは足りない。見えたあと、誰が何を変えられるのか。ルートを変えるのか。顧客へ連絡するのか。温度管理を介入するのか。別便へ載せるのか。現場の判断順序が変わって初めて、データは価値になる。

物流DXの敵は、配送速度の遅さだけではない。

例外処理の遅さである。

では、その例外処理を本当に機能させるには何が必要か。画面でもAIでもない。物理ネットワークそのものを、長期で制御できる状態にしておく必要がある。

6. 構造変化:LeipzigとB777Fは、アプリより重いDX基盤だった

DXという言葉は、物理資産を軽く見せる。

アプリ、クラウド、AI、API、データ基盤。どれも画面の中にあり、軽く、速く、変えやすいように見える。だから物流会社のDXも、つい画面の話だけに寄ってしまう。

しかし、DHL Expressにとって、Leipzig/Halleハブはアプリより重いDX基盤だった。

同ハブは2008年に開業し、2024年にはMitteldeutsche Flughafen AGとの枠組み契約を2053年まで延長した。Tobias Meyerは、契約延長が「planning security」を与え、追加投資を可能にすると説明した。ここで見ている時間軸は、四半期でも、アプリのリリースサイクルでもない。2053年までの物流網である。

Leipzig/Halleは、DHL Expressの三大グローバルハブの中で最大とされる。毎晩2,000トン、35万個の貨物を扱い、平日平均75機が50超の目的地へ飛ぶ。累計投資は約7.8億ユーロ、雇用は7,000人超。数字だけでも重い。

この数字の意味は、単なる規模ではない。

例外を先に動かすためには、代替できる物理網が必要だ。荷物が止まったとき、別のルートへ回せるか。夜間に処理できるか。次の便へ載せられるか。国際TDIの約束を守るには、データだけでなく、データが介入できる物理の余地がいる。

B777Fへの投資も同じだ。

DHL Expressは2018年の14機、2021年の8機追加など、2018年から2022年にかけてBoeing 777Fを計28機購入した。2025年の残機納入完了は年次報告側で確認されている。これを設備投資としてだけ読むと、DXの話から外れてしまう。だが、航空容量は国際エクスプレスの制御点である。燃費、航続距離、積載能力、信頼性、運航パートナーとの組み合わせ。これらが、需要変動時の組み替え能力を決める。

DHLは完全自前主義でも、完全アセットライトでもない。

航空機を持つ。ハブへ長期投資する。一方で、運航にはパートナーも使う。自前の重さと外部の柔軟性を組み合わせる。ソフトウェア企業のように軽くなるのではなく、重い資産を壊れにくく、組み替えやすくする。

この見方をすると、LeipzigもB777Fも、MyDHL+やAQCCと同じ線に並ぶ。

入口を整える。例外を見つける。センサーで品質を守る。ハブで処理する。航空容量を調整する。これらは別々の施策ではない。国際TDIの約束を守るための一つの制御系である。

重い資産を軽くするのではない。

重い資産を、情報で壊れにくくする。

7. 反対側:量が弱くても利益率を守る、その限界まで書く

2026年Q1の数字は、DHL Expressの現在地を読む材料になる。ただし、単独でDX成果を証明する数字ではない。

DHL Group全体では、地政学的な混乱と貿易摩擦がある中で、operating profitはEUR 1.5bnとなり、前年同期比で8.3%増加した。EBIT marginは7.3%だった。Express部門を見ると、RevenueはEUR 6,011mで前年同期比1.9%減。一方、EBITはEUR 799mで20.6%増、EBIT marginは13.3%まで上がった。

これは、量で勝った数字ではない。

同じQ1 2026のExpressでは、TDI daily weightが2.1%減った。それでも、strict cost disciplineとeffective yield management、柔軟なネットワーク対応が利益率を支えた。つまり、荷物が増えれば勝つという単純な話ではない。どの貨物を取り、どの価格で取り、どの容量で運び、どの例外を早く処理するか。そこが収益を決める。

この数字は、DHLのDXを「便利なデジタル接点」ではなく「容量と歩留まりの制御」として読む根拠になる。

ただし、成功談にして終えてはいけない。

DHLの国際TDIは、外部環境に強く依存する。関税、de minimisルール、米中摩擦、中東の紛争、航空燃料、欧州景気。どれもDHLが単独で変えられるものではない。Tobias Meyerは、地政学的環境そのものは変えられないが、それにどう対応するかは変えられるという趣旨の説明をしている。これは、DHLの強さであると同時に限界でもある。

もう一つの限界が、Saloodo!である。

Saloodo!はDHL系のデジタル貨物プラットフォームとして始まり、2020年にはグローバル展開を打ち出した。2023年にも関連する公式発表が存在する。一方で、現行サイトでは「discontinued our services in Europe」と明記され、MEA地域のデジタル freight forwarding specialist としての案内が前面に出ている。

ここから分かるのは、DHLがすべてのデジタル隣接市場で勝ったわけではないということだ。

物流をマーケットプレイス化する。荷主と運送事業者をデジタルに結び、アセットライトな成長物語を作る。これは魅力的に見える。だが、DHL Express本体の強みは、国際TDIの品質、ハブ、航空、通関、顧客接点、例外処理にある。デジタル市場化が、その強みと常に噛み合うとは限らない。

だから、Saloodo!は本文で成功談として扱わない。

むしろ、DHLの判断の輪郭を強くするための反対側として置く。DHLはソフト企業になるのではなく、国際物流の重い約束を磨く会社だった。市場化の誘惑はあった。だが、主戦場はそこではなかった。

DXの強さは、やったことだけでは決まらない。

やらなかったことにも出る。

8. 教訓と未来への示唆:DHL Expressから何を持ち帰るか

DHL Expressのケースから残る問いは、単純ではない。

「物流会社もAIを使うべきだ」では浅い。

「顧客ポータルを統合すべきだ」でも足りない。

「センサーで見える化すべきだ」も、まだ表面である。

本当に持ち帰るべき問いは、DXの前にどの境界を決めたかである。

DHLは、米国国内の総合宅配でUPS/FedExと戦い続ける道を捨てた。これは痛い判断だった。巨大市場を諦める。拠点を減らす。雇用も減る。ブランドの敗北を認める。それでも、勝てない市場を磨かないと決めたから、国際TDIに投資を集中できた。

その後のDXは、一貫している。

MyDHL+は、顧客が迷う入口を減らす。AQCCは、例外を早く見つける。SmartSensor / LifeTrackは、温度や品質の逸脱を監視する。Leipzig/Halleは、夜間の巨大な処理能力を支える。B777Fは、制御できる航空容量を増やす。Q1 2026の利益率改善は、量が弱い環境でもyieldとコスト、容量管理が効くことを示す。

全部、同じ線でつながっている。

荷物より先に、例外を動かす。

これは物流以外にも転用できる。小売なら、商品より先に在庫の例外を動かす。銀行なら、契約より先に顧客の迷いを動かす。製造なら、故障より先に兆候を動かす。医療なら、症状より先にリスクを動かす。メディアなら、離脱より先に不満を動かす。

DXとは、目に見える画面を作ることではない。

顧客価値が壊れる前に、どの例外を先に動かせるかを決めることだ。

そのためには、まず自社の重い資産を見直す必要がある。店舗、工場、倉庫、支店、営業所、車両、データ、専門人材、顧客接点。どれが本当に重荷で、どれが磨くべき基盤なのか。どの市場は磨かず、どの市場は深く磨くのか。

DHL Expressは、重い資産を捨てて軽くなった会社ではない。

重い資産の使い道を決めた会社である。

だから、このケースの最後に残る問いは一つだけだ。

あなたの会社は、DXする前に、どの市場を磨かないと決めているか。

時系列ファクト

1969年、DHLはSan Franciscoで創業し、Honoluluへ船積書類を先行搬送するモデルを始めた。貨物到着前に通関処理を始め、港での待ち時間を削ることが価値だった。

2002年、DHLはDeutsche Postの完全子会社になった。公式歴史ではこの年が完全子会社化として扱われているため、1998年買収という断定は本文では採用しない。

2008年、Leipzig/Halleハブが稼働した。同年、DHLは米国国内エクスプレス事業を大きく縮小し、米国発着の国際サービスへ集中した。

2012年から2015年にかけて、MyDHLポータルは年次報告書上で確認できる。ただし、2014年にMyDHLがフル統合され、生産性が15%上がったという主張は、今回の一次情報確認では裏取り不足のため採用しない。

2018年、MyDHL+がローンチされた。2018年から2022年にかけて、DHL ExpressはB777Fを計28機発注し、2025年に残る6機が納入された。

2019年、Strategy 2025が発表された。約20億ユーロのデジタル化投資、2025年までの年15億ユーロ以上の便益目標が示された。

2021年、DHL ExpressはDHL.com/Express上のコンテンツをMyDHL+へ集約し、13種類のアプリ機能を単一プラットフォームへ統合すると発表した。同年、公式記事でAQCC、AGV、チャットボット、センサーなどのデジタル化施策が説明された。

2024年、DHL GroupはMitteldeutsche Flughafen AGとのLeipzig/Halleに関する枠組み契約を2053年まで延長した。

2026年4月30日、DHL GroupはQ1 2026決算を発表した。Group operating profitはEUR 1.5bn、Express revenueはEUR 6,011m、Express EBITはEUR 799m、Express EBIT marginは13.3%だった。

参考文献

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  2. DHL Group, "The History of DHL Group", https://group.dhl.com/en/about-us/the-group/history.html

  3. DHL Group, "Board of Management: Tobias Meyer", https://group.dhl.com/en/about-us/corporate-governance/board-of-management/tobias-meyer.html

  4. DHL Group, "Board of Management: John Pearson", https://group.dhl.com/en/about-us/corporate-governance/board-of-management/john-pearson.html

  5. DHL Group, "Deutsche Post DHL Group begins transition at the top", 2021-12-08, https://group.dhl.com/en/media-relations/press-releases/2021/deutsche-post-dhl-group-begins-transition-at-the-top.html

  6. DHL Group, "Deutsche Post DHL Group focuses P&P division...", 2018-09-17, https://group.dhl.com/en/media-relations/press-releases/2018/deutsche-post-dhl-group-focuses-pep-division-german-post-parcel-business-creates-dhl-ecommerce-solutions-division.html

  7. DHL Group, "Strategy 2025: Deutsche Post DHL Group accelerates growth...", 2019-10-01, https://group.dhl.com/en/media-relations/press-releases/2019/strategy-2025-deutsche-post-dhl-group-accelerates-growth-in-core-businesses-and-invests-eur-2-billion-in-digital-transformation.html

  8. DHL Group, "Interview with Frank Appel on Strategy 2025", 2019, https://group.dhl.com/en/media-relations/events/interviews/2019/interview-frank-appel-strategy-2025.html

  9. DHL Group, "DHL Group financial figures Q1 2026", 2026-04-30, https://group.dhl.com/en/media-relations/press-releases/2026/dhl-group-financial-figures-q1-2026.html

  10. DHL Group Reporting Hub, "Business Performance Q1 2026", https://reporting-hub.group.dhl.com/2026-q1/en/business-performance/

  11. DHL Group, "Annual Earnings 2025", 2026-03-05, https://group.dhl.com/en/media-relations/press-releases/2026/dhl-group-annual-earnings-2025.html

  12. DHL Group, "Interview with Tobias Meyer Annual Earnings 2025", 2026, https://group.dhl.com/en/media-relations/events/interviews/2026/interview-with-tobias-meyer-annual-earnings-2025.html

  13. DHL Group Reporting Hub, "Annual Report 2025: Express division", https://reporting-hub.group.dhl.com/2025-fy/en/combined-management-report/report-on-economic-position/express-division-1/

  14. DHL Group, "2025 Business Profile", https://group.dhl.com/content/dam/deutschepostdhl/de/media-center/investors/documents/business-profiles/DHL-Group-2025-Business-Profile.pdf

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  18. DHL Group, "DPDHL 2014 Annual Report PDF", https://group.dhl.com/content/dam/deutschepostdhl/en/media-center/investors/documents/annual-reports/DPDHL_2014_Annual_Report.pdf

  19. DHL Group, "DPDHL 2015 Annual Report PDF", https://group.dhl.com/content/dam/deutschepostdhl/en/media-center/investors/documents/annual-reports/DPDHL_2015_Annual_Report.pdf

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  21. DHL Group, "DHL Global Forwarding renews IATA CEIV Pharma certification", 2020-07-09, https://group.dhl.com/en/media-relations/press-releases/2020/dhl-global-forwarding-renews-iata-ceiv-pharma-certification.html

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  23. DHL Group, "DHL extends partnership with Mitteldeutsche Flughafen AG until 2053", 2024-07-31, https://group.dhl.com/en/media-relations/press-releases/2024/dhl-extends-partnership-with-mitteldeutsche-flughafen-ag-until-2053.html

  24. DHL Group, "DHL Express continues to strengthen its global aviation network...", 2021-01-12, https://group.dhl.com/en/media-relations/press-releases/2021/dhl-express-continues-to-strengthen-its-global-aviation-network-with-the-purchase-of-eight-additional-boeing-777-freighters.html

  25. DHL Group, "Take-off to Strategy 2025 goals: DHL Express upgrades fleet...", 2020, https://group.dhl.com/en/media-relations/press-releases/2020/take-off-to-strategy-2025-goals-dhl-express-upgrades-fleet-with-boeing-777-freighters.html

  26. DHL Group, "DHL Express upgrades its fleet with converted B777-200LR freighters", 2023-04-20, https://group.dhl.com/en/media-relations/press-releases/2023/dhl-express-upgrades-its-fleet-with-converted-b777-200lr-freighters.html

  27. DHL Group, "DHL Express and Central Airlines new partnership", 2024-07-15, https://group.dhl.com/content/dam/deutschepostdhl/en/media-relations/press-releases/2024/pr-dhl-express-central-airlines-new-partnership-20240715.pdf

  28. Saloodo!, "Your Digital Freight Platform", https://www.saloodo.com/

  29. DHL Group, "Saloodo! launches digital freight platform globally", 2020-11-26, https://group.dhl.com/en/media-relations/press-releases/2020/saloodo-launches-digital-freight-platform-globally.html

  30. DHL, "Towards zero emission mobility", 2023-05-31, https://www.dhl.com/dz-en/home/press/press-archive/2023/towards-zero-emission-mobility.html

  31. DHL Group, "Sustainability Report 2009", https://group.dhl.com/content/dam/deutschepostdhl/en/media-center/responsibility/8.4_EN_REP_Sustainability Report_2009.10.pdf

  32. FedEx, "FedEx Welcomes the Opportunity to Provide Services to DHL Customers", 2008-11-10, https://newsroom.fedex.com/newsroom/united-states-english/fedex-welcomes-the-opportunity-to-provide-services-to-dhl-customers

  33. USPS, "Statement of Stephen Kearney, USPS Senior Vice President of Customer Relations", 2008-11-10, https://about.usps.com/news/national-releases/2008/pr08_1110.htm

  34. Reuters, "D.Post to cut DHL U.S. service", 2008-11-10, https://www.reuters.com/article/legal/government/dpost-to-cut-dhl-us-service-boost-for-fedex-ups-idUSLA190396/

  35. CNNMoney, "DHL announces 9,500 job cuts", 2008-11-10, https://money.cnn.com/2008/11/10/news/companies/dhl/index.htm

  36. MHL News, "DHL Drops US Domestic Service", 2008-11-10, https://www.mhlnews.com/global-supply-chain/article/22046933/dhl-drops-us-domestic-service

  37. DHL Group, "Leipzig/Halle campus expansion", 2024-05-28, https://group.dhl.com/en/media-relations/press-releases/2024/dhl-supply-chain-expands-capacities-new-logistics-center-multi-user-campus-leipzig-halle.html

  38. DHL Group, "New logistics center strengthens Leipzig/Halle", 2025-11-19, https://group.dhl.com/en/media-relations/press-releases/2025/dhl-supply-chain-invests-in-climate-neutral-expansion-new-logistics-center-strengthens-leipzig-halle-as-europes-freight-hub.html

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