あなたは「散漫の達人」になっている!スマホの引力を断ち切る環境構築術
集中できないのは意志の弱さではなく「環境」のせいだ。スマホの存在が脳の認知リソースを奪い、我々を「散漫の達人」に作り変えている。意志力に頼らず、物理的な遮断で集中力を取り戻す「コックピット化」の手法を解説する。
コックピット化とは何か
作業を始めてもすぐに集中が途切れてしまうのは、意志が弱いからではない。単に、作業をしているその場所が「コックピット」として機能していないからだ。
パイロットやレーサーが座るコックピットには、計器類や操縦桿など機体の操作に必要なものしか存在しない。「外部の情報を遮断し、特定のタスクを行うためだけに最適化された閉鎖的空間」と言い換えてもよいだろう。
外科医の手術台も同様だ。
たとえば、今まさに開胸手術を行おうとしている執刀医の横には、メスや鉗子といった手術道具がきれいに並べられている。そこに、医師の私物のスマホや読みかけの漫画、未払いの請求書などが一緒に置いてあることはあり得るだろうか。
絶対にあり得ない。
理由は単に「気が散るから」だけではない。メスや鉗子を迷わず手に取るためには、視界に入るすべての物体が「手術に必要なもの」でなければならないからだ。
視界に無関係な物体が存在するだけで、脳は無意識のうちに「これは今必要な道具か、そうでないか」という判別処理を強いられ、執刀という極限のタスクから貴重な認知リソースが奪われてしまう。
プロフェッショナルな現場とは、やる気が満ちている場所のことではない。コックピットのように、目的以外のノイズが物理的に存在せず、必要な行動へゼロ秒でアクセスできる特化空間のことだ。
ところが、多くの人は、自身の作業環境に関して、平気で手術台の上にスマホや漫画を置くようなことをやっている。
これは、ダイエットを決意した人間が、目の前に大好物のケーキを置いたまま我慢するのと同じようなものだ。失敗して当然である。
スマホが奪う認知リソース
数あるノイズの中でも、特にスマートフォンが視界に入っている状態は、脳にとって極めて危険だ。
テキサス大学オースティン校などの研究で、スマホが視界にあるだけで、人間の認知能力(ワーキングメモリ)が著しく低下することがわかっている。マナーモードにしようが、電源を切ろうが、裏返しに置こうが関係ない。スマホが「そこにある」と脳が認識するだけで、無意識下で「スマホに触らないようにする」という処理にリソースが奪われ続けるからだ。
その弊害は、単に「気が散る」「集中が途切れる」といった一時的なレベルには留まらない。もっと深刻な、脳の学習機能にかかわる理由がある。
あなたは「散漫の達人」になっていないか
それは、あなたが「散漫の達人」になってしまうことである。
「機械学習(Machine Learning)」という言葉をご存じだろうか。AIに大量のデータを読み込ませて、特定の動作パターンを学習させる技術のことだ。
実は、人間の脳もこれとまったく同じ仕組みで動いている。脳神経外科学の分野では、日々の反復行動によって脳の神経回路が物理的に書き換わる現象を「神経可塑性(Neuroplasticity)」と呼ぶ。
仮に、1日100回、スマホの通知をチェックしているとしよう。これは、脳というAIに対して、毎日100回、「何かに反応して、今の作業を中断する」という訓練データを入力しているのと同じだ。
これを毎日、何年も続けているとどうなるか。当然、優秀な学習装置である脳はこう学習する。
「了解した。着信音が鳴ったり、画面が光ったりしたら、0.1秒で思考を中断して反応する処理だな。任せてくれ。得意分野だ」
つまり、あなたは集中力がないのではない。気が散るトレーニングを誰よりも熱心に行い、そのスキルを極めてしまった「散漫の達人」なのだ。
「集中できない」というのはバグではない。入力したデータ通りに、脳が正常に機能している「仕様」である。
誤学習を物理的に遮断するには
一度完成してしまった「散漫の回路」を、精神論でねじ伏せることは不可能だ。散漫の達人である脳は、スマホが視界に入った瞬間、自動的に意識をそちらへ飛ばすようにプログラムされてしまったのだから。
では、どうすればいいのか?
対策は物理的な遮断しかない。ハーバード大学医学部の専門家も次のように指摘している。
自動化された悪習慣のルーティーンを断ち切るのに最も効果的な方法は、外的トリガー(環境)そのものを変更することだ。
つまり、コックピット(机)から、スマホなどのタスクに関係のないものはすべて排除しなければならない。スマホの場合、隣の部屋やクローゼットの中など、座ったままでは手が届かない場所へ隔離する必要がある。
これは農業で言えば、雑草に水や肥料を与えるのをやめ、本命の作物だけが育つ土壌を整える作業だ。
コックピットからスマホを排除するのは、単に誘惑に負けないためだけではない。長年続けてきた間違った機械学習のプロセスを物理的に強制終了し、脳に再学習(Re-learning)させるためだ。
「作業中はスマホを見ない(見ることができない)」という新しいデータを脳に入力し直し、散漫の回路を弱体化させよう。それが、図らずもなってしまった散漫の達人から抜け出す唯一のルートである。
参考
・The mere presence of your smartphone reduces brain power, study shows
・How to break a bad habit
・How Your Brain Rewires Itself: The Power of Neuroplasticity
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