健康に関する不公平を是正し健康格差を縮小することは、疫学の全ての領域の共通した目的であり健康に対する疫学の試金石となる
ロドルフォ・サラッチというイタリア人医師が書いた「読んでわかる! 疫学入門」を読みました。
最初に、サーズの危険性を初めて世界に発信して亡くなったWHOの医務官ウルバニ、ヒポクラテス、グラント、スノウ、ウィルヒョウ、ゴールドバーガーを紹介しています。
これまでのハベレオ通信で漏れていたのは、ウルバニと、フランス人のルイです。
ルイは、治療効果や有害物の影響は、曝露者と非曝露者の比較でしか評価できないと指摘し、当時流行していた瀉血治療が有害であることを数学的手法でエビデンスを出しました。
この人物はノーマークでした。
その他、喫煙が肺がんを引き起こすという疫学結果を出したヒルとドール、たばこ規制を推進したWHO事務局長のブルントラント、ポリオの生ワクチンを開発したソークなどを紹介しています。
哲学者カントや、ジョン・ロールズの正義論を示して、疫学者にとって正義と真理は道しるべだと言及しています。
疫学は社会の疾病への対抗策として発展しましたが、ただ科学技術の進歩の成果として発展したのではなく、様々な時間軸・社会の中で生まれて来た思想を反映して発展してきています。
つまり、疫学には思想があるのです。
単なる医学的統計学ではない!
疫学は、医学生物学と社会科学の両面を同時に持っています。
心臓発作には、コレステロールといった分子レベルから失業などの社会レベルまでの決定要因があります。

タバコと健康の関係については、米国の公衆衛生長官が1964年に「喫煙と健康」という報告書の中で、入手可能なすべてのエビデンスの徹底的な調査と約200の専門家による検証をへて作成されています。
科学的にもまた疫学的にもエビデンスに基づいた傑作とされています。
こうした文書をつくるアメリカ人は大したもんだと思います。

野菜をたくたん食べる人はがんになるリスクが少ない。
血中ビタミンA濃度が高い人は、がんのリスクが低い。
ビタミンAの体内誘導物質は正常細胞のがん化を抑制する。
ビタミンAもがんを抑制する。
こうしたことから、ビタミンAの前駆体のβカロチンががん予防につながるのではないかと疫学調査がデザインされました。
フィンランド人8000人の喫煙者に、βカロチン投与群と非投与群をもうけ、前向きに疫学研究が行われました。
途中で、βカロチン投与群から肺がん患者が続出して、研究が中止されてしまいました。
疫学には、そういう歴史もあります。
疫学はあらためて、面白いと思います。

サラッチの疫学入門の凄さが判りました。
オックスフォード大学出版が出している超短い入門書シリーズの疫学の本です。
短い文章の中に宝石のような言葉がちりばめられていて読ませます。
サラッチはイタリア人で、英語は苦手だと言ってました。
世界で初めて保健統計を始めたグラントは、同時代に生きたガリレオ・ガリレイの影響があると言っています。
サラッチがイタリア人だから、ガリレオのことをついでに書いたのかもしれません。
ガリレオは自然科学の現象を数量で解析し、法則を見つけた科学者です。
ピサの斜塔から大きい鉄球と小さい鉄球を落として同時に落ちることを実験しました。
グラントは、ロンドンの教区の死亡表の五〇年分を解析し、法則を見出だしました。
自然科学も社会科学も数量的に分析すると法則があるというのは、面白い見方です。
グラントの友人にペティというオックスフォード大学の解剖学教授がいました。
ペティは、後に政治算数という本を残しています。
社会学的な事象を数量解析することで理解しようとするもので、後の統計学と経済学のはしりとなるものでした。
ペティの影響の方が大きいと思いますが、ガリレオの方がインパクトがあって面白くて読ませます。
小学生の頃はガリレオをよく読んだ気がします。
いつから読まなくなったのかしら。
還暦を過ぎてみると、ガリレオが新鮮に感じます。
漫画の「チ。」も面白くて、読ませます!
