【号外】ゲーム理論で読み解く、人間の本質〜益田直也とゲーム理論〜第2章 新人王から守護神へ。「信頼」という見えない数字
プロ野球の世界で、最も難しいことは何だろうか。
速い球を投げること。
鋭い変化球を操ること。
もちろん、それも必要だ。
しかし、長いシーズンを戦う中で、本当に価値を持つものがある。
それは、
「この場面を任せても大丈夫」
と思ってもらえることだ。
つまり、信頼である。
益田直也のプロ野球人生を語る時、2012年の新人王という輝かしい結果は外せない。
しかし、本当に注目したいのは、その数字の裏側にある。
なぜ、ドラフト4位の新人投手が、開幕直後からチームの重要な場面を任されるようになったのか。
そこには、ゲーム理論でいう「繰り返しゲーム」の考え方が隠れている。
1試合ではなく、積み重ねで評価される世界
ゲーム理論には、「繰り返しゲーム」という考え方がある。
一度だけ行われる勝負なら、その場で得をする選択をすることもある。
しかし、人間関係や仕事、スポーツの世界は違う。
明日も勝負がある。
来週も試合がある。
来年も同じ仲間と戦う。
だからこそ、一時的な結果よりも、
「この人なら任せられる」
という信頼が大きな価値を持つ。
クローザーやセットアッパーというポジションは、まさにその象徴だ。
1回抑えたから終わりではない。
次の日には、またプレッシャーのかかる場面がやってくる。
昨日のヒーローが、今日は打たれることもある。
それでも、また次の試合でボールを託される。
その繰り返しの中で、本当の信頼は作られていく。
ルーキー益田直也が積み上げたもの
2012年。
千葉ロッテマリーンズに入団した益田直也は、開幕一軍入りを果たした。
同期にはドラフト1位の藤岡貴裕、そして中後悠平がいた。
その中で、益田は自分の役割を少しずつ勝ち取っていった。
開幕戦でプロ初登板。
翌日の試合ではプロ初ホールド。
そして、開幕から4試合連続登板。
新人投手が、チームの勝敗を左右する場面で起用され続けた。
それは、監督や首脳陣が、
「この新人に任せる価値がある」
と判断したからだ。
結果だけではない。
準備する姿勢。
マウンドでの落ち着き。
失敗を引きずらない精神力。
そうした数字には表れない部分が、評価されていたのだと思う。
72試合登板という異常な数字
ルーキーイヤーの益田は、72試合に登板した。
41ホールド。
1セーブ。
防御率1.67。
新人最多登板記録を更新し、新人最多ホールド記録も塗り替えた。
そして、新人王。
しかし、この数字を単純に「能力が高かったから」と片付けるのは少し違う。
72回も試合終盤を任されたということ。
72回、
「この状況なら益田でいける」
とチームから判断されたということ。
そこに本当の価値がある。
野球の世界では、防御率や勝利数、セーブ数という数字で評価される。
でも、その数字を生み出す前に、必ず見えない数字が存在する。
それが、信頼という数字だ。
そして、守護神へ
2013年。
前年まで守護神を務めていた薮田安彦の離脱もあり、益田はクローザーの役割を任される。
ここで求められるものは、セットアッパーとは全く違う。
8回の1イニングを抑えることと、
9回、チームの勝利を背負って最後の3アウトを取ることは違う。
失敗した時の責任。
スタジアム全体から注がれる視線。
その重圧は計り知れない。
しかし、益田はその役割を受け入れた。
そして、68試合登板。
33セーブ。
最多セーブのタイトルを獲得した。
わずか2年で、
新人投手から、
勝利の最後を託される守護神へ。
これは、才能だけでは説明できない。
信頼を一つずつ積み上げた結果だった。
信頼という見えない数字
ゲーム理論では、相手との関係が長く続くほど、「信頼」が大きな意味を持つ。
目先の成功だけではなく、
この人は約束を守る。
この人なら困難な場面でも逃げない。
この人なら、もう一度任せられる。
そう思われること。
それこそが、長い戦いの中で最大の武器になる。
益田直也は、プロ入り直後から圧倒的な才能で相手をねじ伏せた投手ではない。
一球一球。
一試合一試合。
一つ一つの役割を果たすことで、少しずつ信頼という数字を増やしていった。
そして、その数字は後に、
250セーブという、誰にも消すことのできない大きな記録へつながっていく。
しかし、この先、益田直也には大きな試練が待っていた。
一度手にした信頼を失う苦しさ。
そこから、もう一度信頼を取り戻す難しさ。
次章では、益田直也の本当の強さが試された時期について考えていきたい。
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