【企画参加】30分即興小説_テーマ:ラストキス
こんな素敵企画を見つけたので参加してみました!計ったら一応25分で書けた!
「ねえ、私のマスカラ知らない?」
彼女が部屋の中をうろうろしながら俺に聞いた。
「えー知らないよ。俺使わないもん」
「使ってたらびっくりするわ」
笑いながら、彼女は棚の引き出しとか上に置いてある小物入れの蓋を開けて見たりしてる。
「あれ、ダマにならなくていいんだけどなあ」
マスカラなんてどれも一緒なんじゃないの、と言いたくなるところをおれはぐっと押さえてスマホを弄る。男の俺にはわからない違いがきっと彼女には大事なんだろう。
「なさそうだなあ」
諦め顔の彼女が、俺の目の前に座った。「ま、また買うわ。ドラッグストアで買ったプチプラだし」
「うん、そうしたら」
俺はそれしか言えなかった。
「お昼どうする? 作るの面倒だからカップラーメンでもいい?」
「いいよ」
彼女はまた立ち上がってキッチンに行く。電気ケトルに水をいれてお湯を沸かし、キッチンの横にあるカゴからカップラーメン二つを取り出した。
「味噌と豚骨、どっちがいい?」
「選んでいいよ」
「じゃあ味噌もらおうかな」
先日ケトルが壊れてちょっといい奴に買い直したからお湯はすぐに沸いた。彼女が二つのカップラーメンの蓋を半分ほど開ける。ぴりり、っていう紙が剥がれる音がした。
「カップラーメンとか、久しぶりじゃない?」
お湯を注ぐ彼女はどこか楽しそうだった。
「そうだね、いつも作ってたもんね」
「たまーにこーゆージャンキーなのも食べたくなるよねー」
にしし、と子供みたいに笑いながら彼女はラーメンを俺のいるテーブルに持ってきた。
「三分計る?」って俺が聞いたら「いいんじゃない?テキトーで。固くても柔らかくてもどうせ変わんないよ」って彼女が答えた。
先に食べ始めたのは彼女だった。
「まだ固かった」
「だから言ったじゃん」
「でも、早く食べたかったし」
「……俺は、もうちょっと待つ」
そう言ったら彼女が「伸びすぎたやつ、私好きじゃない」って麺をフーフーしながら言った。
だから、先に食べ終わったのも彼女だった。俺の麺はまだ半分くらい残ってる。
「ごちそうさま」
手を合わせた彼女がカップを片付けようとしたから、「そのままでいいよ」と俺は言った。
「……そう? じゃあ、よろしく」
彼女は持ち上げたカップを下ろし、またテーブルにおいた。
「じゃあ私、そろそろ行こうかな」
「ああ、うん」
彼女は床に置いたバッグを持って立ち上がる。俺も麺が残ったカップをそのままにして立ち上がった。
「え、なに、食べてていいけど」
「送るよ」
気にしなくていいのにー、と呆れるように笑う彼女について、玄関までついて行く。彼女は、昨日新しく買ったというパンプスを履いた。
「気を付けて」
「うん。……あ、そうだ」
彼女はポケットから何かを取り出した。
俺の部屋の鍵だった。
「返す。ありがとね」
「……いや」
それは彼女の手から、俺の手へ渡る。
彼女の手を掴んで、引き寄せてキスをした。
彼女は、手で自分の口を押さえてそれを阻止した。
さっきまで笑ってた顔が、無表情になった。
「……そーゆーとこ」
俺の手から、彼女はするりと抜けて行った。ドアが閉まって彼女の足音が遠くなっていく。
俺はテーブルに戻る。
カップの中で、麺はぶよぶよに伸びていた。
