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4-3_関係性の呪縛と「個」の不在ー都会OSの深層|失われた30年|メンタルヘルス|働き方改革

前回は日本のフォーマットにある仏教的背景について書きました。

続いて、外の世界に目を向けてみましょう。


3. 「神の前での『I』」と「契約」:グローバルOSとの衝突

 「東京OS」という関係性の中で自分を消す生き方は、内側の村社会(ドメスティックな環境)では機能します。しかし、一歩外へ出れば、そこは「絶対的な個」を前提とした全く別のゲームが支配していました。


神との対峙によって鍛えられた「I」

 キリスト教圏をはじめとする一神教の文化において、「自分(I)」とは、他人の顔色や周囲の空気によって変わるものではありません。それは、唯一神という絶対的な存在の前に、裸一貫で立つ「不変の個体」です。

 神と自分の一対一の約束。そこでは「空気を読んで、なんとなく」という言い訳は通用しません。

 天国へ行くか地獄へ行くか、あるいは正しいか間違っているか。その最終的な責任は、常に「自分(I)」という一個の主体に帰属します。この極限の孤独の中で鍛え上げられたのが、グローバルOSにおける「個(Individual)」の定義です。


「契約」とは、曖昧さを殺すための刃

 この「神の前の個」が社会を運営するために生み出したのが「契約」という仕組みです。  契約とは、言葉に命を吹き込み、自分の意志を固定する行為です。そこでは「YES」か「NO」かがすべてであり、その中間にある「善処します」「含み置いてください」といったカメレオンのような言葉は、システム上のエラー(バグ)と見なされます。

 グローバル社会における信頼とは、「相手が良い人であること」ではなく、「相手がどのような状況でも予測可能(Predictable)な個であること」を指します。


日本語OSは「セキュリティホール」である

 一方で、前項で触れた「失我・忘我」の状態にある現代の日本人は、グローバルな契約社会から見れば、極めて脆弱な「セキュリティホール」のように映ります。

  • 予測不能: 空気に流されるため、昨日と言っていることが変わる(ように見える)。

  • 責任不在: 失敗した際、誰が謝罪しても「責任主体」が誰なのか、外部からは見えない。

  • 対話不能: 「自分」がないため、論理的な交渉(Debate)ができず、最後は「察してほしい」という沈黙に逃げ込む。

 私たちが大切にしてきた「和(調和)」や「阿吽の呼吸」は、このグローバルOSの上では「コスト」「停滞」、さらには「不誠実」として変換されてしまいます。

 彼らが「I」を突き通すのは、それが正義だからだけではありません。そうしなければ、この冷徹な契約社会という戦場において、自分の存在(アイデンティティ)を維持できないからです。


コラム:ウチの会社ってなに?

 グローバルな環境で働くと、海外メンバーの「それは私の契約範囲外だ」というドライな線引きに驚かされることがあります。彼らにとって、組織における自分の立ち位置は、神との対峙と同じく「契約」によってのみ規定されるからです。

 さて、ここで翻って、私たち日本企業の社員はどうでしょうか。  おそらく、入社時に全員が「雇用契約書」にサインを交わしているはずです。就業規則を遵守し、職務を提供し、対価を得る。法的には、私たちも紛れもなく「独立した契約主体」としてそこに立っているはずなのです。

 しかし、その契約書の内容を、指針として意識しながら働いている人がどれほどいるでしょうか。  不思議なことに、日本では入社したばかりの新人までもが、早々に「ウチの会社は……」という言葉を使い始めます。本来、「ウチ(We)」という主語を使って語る権利があるのは、組織の意思決定を担う経営層や管理職だけであるはずなのに、です。

 これは、日本人が「契約」という概念を理解していないからではありません。主語を持ちにくい日本語OSと、すべてを包み込む「母なる組織」の抱擁によって、サインしたはずの「I」が、いつの間にか組織という霧の中に溶け出してしまった結果なのです。

 「ウチの会社」という言葉を安易に使うとき、私たちは無意識に、自らを「契約主体」から「家族の末っ子」へと格下げしています。多くの「大衆」が抱いているこの痛い勘違いこそが、自立したプロフェッショナルへの道を阻む、最初の、そして最大の障壁なのかもしれません。


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