花火と追憶(心綴り④)
――花火は消えても、残る想い出――
今年の花火は、夫と二人で見に行った。
花火は、ただ夜空に咲く光を見るものではない。
私にとって花火は、一緒に過ごした人や、その時の温度や想いまで、いつも呼び起こしてくれる。
母がまだ80歳になる前の頃。
「家に泊まりで花火を見に来ない?」と誘ったことがある。
その日、母は本当に嬉しそうだった。
「私、今までに花火は、いっぺんしか見に行ったことないの」
興奮気味にそう言って、子どものように楽しみにしていた母。誘ってよかったと思った。
花火が始まると、当時3歳だった次女を抱っこしていた母。次女が夜空を指さすと、母は花火ではなく、次女の顔を嬉しそうに見つめていた。
「お母さん、花火見てよ。せっかく来たのに」
そう思ったし、そう言った。
でも、あとになって気づいた。
母は、いつもそうだった。
長女と一緒に写っている写真でも、母の視線はカメラではなく、いつも長女に向けられていた。
母にとって、心揺さぶられるのは花火ではなく、目の前にいる可愛い孫だったのかもしれない。
孫と一緒に花火を見た時間が、母にとって何より幸せなひとときだったのだろう。
――ある年には、ベランダにおにぎりや飲み物を並べて、家族4人で花火を眺めたことも忘れられない。
「ドーン!ドーン!」
大きな音がお腹の奥まで響いて、ベランダまで大きく揺れる。少し成長してきたとはいえ、次女は怖くなったのか、「パパ、パパ」と夫にしがみついた。
夫は「どうした?」「ビビリだなあ〜」と笑いながら、頼られたことが嬉しそうに次女を抱きしめていた。
そんな次女も、今年は彼と花火を見に行く。
時は流れている。
今年、花火会場に向かう途中、音に驚いて泣いている小さな子どもを見かけた。
その姿を見て、夫と顔を見合わせた。
「懐かしいね」
小さかった頃の子どもたちの姿が、まるで昨日のことのようによみがえった。
夜空に大きく開く花火。丸い光の中に、小さな星が散っていく。
「きれいだね」
そう言う私に、夫はぼそっとつぶやいた。
「しいたけみたい」
ロマンチックな花火を見ながら、そんなことを言う、食いしん坊な夫に笑ってしまう。
――花火は、一瞬で消えてしまう。
でも、その瞬間に一緒にいた人との記憶は、心の中でずっと消えない。母と過ごした日々も、幼かった子どもたちとの時間も……。
今年の花火も、またひとつ大切な想い出になった。
