ぬい神様
ゴッ!
頭頂部に激しい痛みが走り、その場にうずくまる。
「っ……!」
目に涙がにじむ。予備のトイレットペーパーを出そうとしただけなのに。自分に危害を加えたソレに視線を向ける。
四方八方に飛び出している木材の端切れ。それの前には幼い文字で書かれた「ヤマン」の名札が。俺が小学校の図工で作ったヤマンが、間抜けな顔で俺を見下ろしていた。
なにがヤマンだよ!小学生の自分に理不尽な怒りを覚える。家族のために予備のトイレットペーパーを出そうとしただけだろっ!それのなにが悪い!
頭頂部の痛みを叩きつけるかのごとく拳をヤマンに振り下ろしたのだが。
「あお……っ……!」
今度は左小指側面に痛み。トゲが刺さったのだ。長年置かれたことでヤマンのいたるところはささくれだらけ。飛び出しているトゲの先をつまもうとしたが、無理。ぎゅっとつまむがトゲの周辺がうっすら赤くなるだけで出てこない。頭頂部の痛みに加え、不愉快な左小指側面のちっぽけな痛みに俺の不快感は増す。
「トイレットペーパー替えとけよっ!」
甲高く上ずる俺の声に母親がうんざりとした顔を向けた時、床に置いてある俵型のぬいぐるみを発見した。ぬいぐるみなら蹴っても痛くないしトゲも刺さらない。安全な八つ当たり先を発見し、俺は許す限りの力を込め、ぬいぐるみを蹴とばす。
バイン!
俵型のぬいぐるみが激しく壁に当たる様子は、俺に爽快感をもたらした。せこい痛みはせこい征服欲でしか対応できない。ようやく気分も落ち着き、椅子に腰を下ろす俺。
「来た来た」
母親がコーヒーをすすりながらつぶやく。
「はあ?」
母親の口元にうっすらとした笑みを発見し、俺はイラついた。
「意味わかんないんっすけど?」
その言葉を無視し、母親は顎をカクカクさせ俺に後方を見ろと指図する。
「……っ!」
振り向いた俺が見たのは、壁に激突し腹が裂けたぬいぐるみの中で蠢く無数の俵ぬい。
「ぬい神様の降臨よ」
恍惚とした表情の母親が呟く。
(続く)
