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【#シロクマ文芸部 3月②】お題:ゆっくりと(怪異LABO 初仕事-1)

シロクマ文芸部の1カ月の全お題を使って一つの物語を作っています。レギュラー部員は月初めにお題を全部教えてもらえるので思いつきました。今年で3年目の挑戦となります。

1回目は20字小説、2回目以降は文字数制限のないお話というスタイルで毎月挑戦中です。

第1回目はこちら👇

ゆっくりと、開かれていく老女の口。少し茶色がかった皮膚には深い皺が無数に刻まれていました。皺だらけの皮膚に注目した途端、最初に感じた儚げな様子は消え、不気味さが際立ち始めます。

まるでそこにずっしりと根を生やしているような。

見た目は小さな老女ですが、こちらに与えられる圧は相当なものです。

ごくり。

思わず喉を鳴らしてしまうほど、彼女の動きは異質でした。人とは思えないほど彼女の口が大きく開かれていきます。顔全てが口だといってもおかしくないほど大きく開かれた老女は、怪異そのものでした。

これってマズいんじゃ……

思わず私の肩に力が入ったそのとき。

「まあまあ、そんなに力入れなくても♪」

相棒が間のびした声を私にかけ、ポンポンと肩を叩きました。でも相手は怪異。口から何が出るかわかったものではありません。それに、今回は「怪異LABO」の初仕事。しくじりでもしようものなら、噂が業界内を駆け巡り、怪異がらみの仕事が得られなくなる可能性もあります。

「我がLABOの初仕事だよ?もう少し……」

と文句を言いかけたとき、老女がゆらっと揺れたように感じました。はっとして振り向くと口がさっきよりも大きくなっています。

ええー!!!
顔よりも大きいかもっ!

異質さに耐えられなくなった私は、老女に左の手のひらを向けました。足を前後に開き腰を落としながら上半身は斜めに構えます。ただ、みぞおちの部分は相手にしっかり向けなければなりません。みぞおちはエネルギーを創り出す源ですから。右手は握りこぶしを上にした状態で脇腹にそわせます。

ジジジジジジ……

体中の熱が手のひらに集まるのを感じ、深呼吸。老女にだけ当てるよう意識を整えるためです。

だってこのLABO、賃貸ですもん。傷つけられません。

よし、準備OK!

怪異に面と立ち向かう私、超かっけー!と自分自身に酔ったとき、また相棒が間のびした声で話しかけかけました。

「お菓子、食べよ?」

はああ?
この緊迫した状態に???
なに言っちゃってんの???

「痛たたたっ!」

自分のポーズに入り込んでいたところに、相棒の呑気な声を聞いたせいでしょう。右股関節の力が不自然な形で抜けバランスが崩れました。膝が地面に激突し、うっとうめき声をあげる私。衝撃は股関節を通り越し右こめかみにまで響きました。あまりの痛さにその場でうずくまります。

痛みで動けない私を見た相棒はゲラゲラと笑い転げました。

「笑いごとじゃないっつーの!」
「だって力むなってさっきから声かけして……」
「だってあんな口を見たら誰だって!」

と老女を指さそうとしましたが、さきほどまでいた場所にはなにもありません。

「え?え?怪異は?老女の怪異は?」

慌てる私に相棒がほほ笑みながら指をさします。老女は既にお菓子が用意された席に移動していました。口はまだ人間離れした大きさですが、さきほどより半分くらいになっています。そのおかげで皺の中にあるポッチリとした黒目も見えるようになりました。よく見るとつぶらな瞳も可愛らしいです。相棒は老女に優しく語りかけました。

「お菓子とお茶、一緒にどう♪」
「うん。食べゆ」

歯がないせいなのでしょう。老女の口調はどこか幼女のそれに似ていました。

(つづく)

小牧幸助部長、今週もありがとうございました。