【#創作大賞感想】心に寄り添う文章で小さな幸せの大切さを教えてくれる小説
小さい頃、祖母は「おとっときだよ」とお菓子を出してくれました。「おとっとき」という言葉の意味を当時の私は全く知りません。意味はわからずともその言葉とともに流れる時間は私にはかなり幸せなものでした。
それ以来、私は「これは絶対!!」と期待を膨らませたものに対して「おとっとき」をするようになりました。稿累華さんの「ほどき師はもつれの糸をすくいとる」もそのひとつです。 読んだ瞬間、上橋菜穂子さんを思わせる世界が目の前に広がりました。
湯気の立つ料理に幸せを感じ素朴に暮らす地方の人々
衣から漂う品のいい香りや質の良い衣服に身を包む王都の人々
活気あふれる王都の市場
近寄ってはいけない貧民街
その描写は、中央アジアに実際にある国との妄想を私に抱かせます。作品で描かれる人々からは息吹が感じられ、実際に存在していると信じたくなりました。 しっかりと累華さんの世界ができているため、ファンタジーにもリアルさが伴います。そのため、不思議な力が存在しても違和感なく物語に没入できるのですが。
この不思議な力は万能じゃないんです。
そこがいい。
人間って間違いながら生きていますよね。今作の登場人物も大きな力に頼りながら生きているため、自分に自信が持てず日々を生きています。
これがまたリアル。
ファンタジーでありながら人間らしい心の揺れをしっかりと描くため、登場人物が自然と活き活きしてきます。天から与えられた不思議な力に頼りながら、まつりごとを行う様子も世界のどこかであってもおかしくないのではないでしょうか。
不思議な力を我欲のために使おうとする人々が出てきたときも、ありうると思いました。物語内では我欲で捻じ曲げられたお告げが国を滅ぼすほどの災いを起こします。それはネットで流れる世界で行われているかもしれない紛争を思い起こさせるのです。現実でも一握りの人々の思惑で国全体が破滅に向かってしまうのを、歴史の中で学んでいるので、その連想は容易くできてしまいました。
天からのお告げは偉大な力として人々の心に根付いています。そのため、善悪どちらにも利用されてもわからないです。政治にかかわる人はよほど心が強くなければ悪に染まってしまうんだろうなあ……そして国は混乱に陥るんだろうな……。
不思議な力が万能でないゆえ、その能力を持っていても「良心と悪心」のどちらも見抜けません。過去の成功体験が「違和感を伴うお告げ」を疑うことを放棄させるのです。
過去の成功は判断力を鈍らせる
これ、私たちにも当てはまりますよね。万能なものはこの世にはない、自分たちでしっかり決断をする大切さを強く感じました。
「心が結び合う」や「心がほぐれる」という表現を聞いたことありませんか?
前者は2人以上の集団で後者は個人に使われることが多く、どちらも心の状態がいいときに使われると思います。
「心がもつれる」や「心が固くなる」という表現もありますよね?
こちらは心の状態があまりよくないときに使われると思います。
今作はこの心の状態に触れられる能力をテーマに描いていますが、完璧に見えるわけではありません。糸のように見えるので結んだりほどいたりはしますが、それがどうしてできたかという理由を意識せず結んでしまい、混乱を引き起こします。
そこに「どうしてそうなったか」が大切であることを訴えているのではないかと私は感じました。
ほどき師の主人公は相手の気持ちに寄り添いながら能力を正しく使います。これは主人公が人々と触れ合い豊かな人生を重ねてきた結果、身に付けたものだと思いました。
物語の中では真実に近づくまで「心ある」若者や大人が苦しみ傷つきます。私たちが日常で感じるものにそれは共通していると思いました。
上橋菜穂子さんの「精霊の守り人」シリーズを読み、その素晴らしい表現力から児童文学は大人が読むべき作品と思うようになりました。累華さんの作品を読んで私は
大人「も」読める
ではなく
大人「こそ」読むべき
ものが児童文学だとの考えに至っています。
物語の最後の心温まるシーンは「心に寄り添う」文章だからこそ生まれたものだと思っています。
心を裏切らずささやかな幸せが世界に広がる大切さを教えてくださりありがとうございました。
TALESには以下の推薦レビューを投稿しています。
人の心に思いを馳せながら読みました
心を結ぶ心をほぐす よく聞く表現ですが実際には見えないです。でも私たちはこの表現を適切だと感じます。見えなくても心の結び合いやほぐれ、感情のもつれを体験しているからです。そのため、今作の設定に違和感を抱くことはありません。 この作品は、その心の状態に家族やまつりごと、食生活を絡ませておりまだ見ぬ国へ誘ってくれます。人は香りや記憶によって喜怒哀楽を感じるという大切なことを思いださせていただきました。 結ぶと解くが両立し、どのような真実も受け止め前を向ける世界が広まれば平和へ一歩近づけるのではないかと思いました。 身近な幸せが平和につながる大切さを思いださせていただき、ありがとうございます。
稿 累華さんのほどき師のあとがきも紹介させてください。
《 創作大賞2026参加作品 》
お時間があればお読みください。「読んだよ」の一言で小躍りをします。
🐌恋愛小説部門(本当にタニシです)
👂お仕事小説部門(はそやmにしては真面目です)
👻ホラー小説部門(怖さアップ!)
🧶オールカテゴリ部門(おふざけに全力!)
