第9節・カターレ富山戦。ホタルイカに泣いた娘が、お姉ちゃんになるまで
Jリーグサポーターにとって、アウェイ遠征は特別な響きを持ちます。
勝てば天国、負ければ地獄。その90分間のために、私たちは何百キロという道を移動します。
けれど、子連れサポーターの遠征には、もう一つの顔があります。
それは、変わりゆく子どもの姿を一番近くで見守る時間です。
今回の舞台は、初めての街・富山。
4歳最後の日。翌日に5歳の誕生日を控えた、はるちゃん。
サッカーを観に行くだけじゃない。
この街で彼女が何を感じ、どうやって「お姉ちゃん」への階段を一段登ったのか。
富山の優しい風景と、アウェイで見つけた「最高のスタジアム文化」について、等身大の記録を残しておこうと思います。
高岡の街で触れた、誰かのために作る喜び
最初に向かったのは、鋳物の街として知られる高岡でした。
江戸時代から続くという昔ながらの街並み。その一角にある「大寺幸八郎商店」さんで、鋳物製作の体験をさせていただくことにしました。
5歳を目前にした女の子にとって、鋳物は分からずとも、アクセサリー作りといえば、それだけで心踊るイベントです。でも、はるちゃんが選んだのは、可愛らしい指輪やネックレスではなく、無骨なキーホルダーでした。
「どうしてそれにしたの?」と聞くと、
「ママの鍵につけてあげたいから」
という答えがすぐに返ってきました。
自分のためではなく、留守番をしているママのために。
パパはそれだけで、富山に来て良かったと思ってしまいました。思いやりのある子に育ってくれているな、と。
製作を教えてくださったのは、はるちゃんと同じくらいのお孫さんがいるという、とても穏やかな、おばあちゃん先生。
大きな機械で型をとったり、一緒にトンカチを打ったり。保育園では絶対に出会わないような本物の道具に、彼女の目は真剣そのもの。
迷いに迷って選び抜いたビーズを添えて、世界に一つだけのキーホルダーが完成したとき、彼女の顔には「できた」という誇らしさが滲んでいました。

その後、ドラえもんトラムが走る街を抜け、「高岡おとぎの森公園」へ。
この公園にある、ドラえもんの世界に飛び込み、キャラクターの一人ひとりに話しかける彼女を見て、大人が忘れてしまった、純粋に物語を楽しむ心を教わった気がします。なぜここに空き地があるのかなんてどうでもいい。そこにある世界を信じる力が、彼女を輝かせていました。

内容は教えてくれませんでした
氷見で見つけた、夢のような遊び場
次に向かったのは、お隣の街・氷見。
公園で散々遊んだはずなのに、子供の体力というのは底なしです。まだまだ遊びたいという様子を見て、急遽、予定を変更して立ち寄ったのが「氷見市海浜植物園」でした。
しかし、入口で私たちは足を止めることになります。そこにはこんな看板が。
「現在の氷見市海浜植物園は子どもの遊び場が多めです。※ご理解の上、ご入園お願いいたします。」

子供にとっては夢のような予告、でも一緒に遊ばされる親にとっては、ある種の恐怖の注意書きです(笑)。
その看板に偽りはなく、園内はネット遊具やターザンロープ、木製の電動汽車と、もはや遊び場の中に植物がある状態。はるちゃんは文字通り、日が暮れるまで遊び尽くしました。
すっかりお腹をすかせ、夕食は「氷見きときと寿司」へ。
「きときとって何?」と店員さんに尋ね、それが富山の方言で「新鮮」を意味すると知る。
自分で学び、本物のイクラやサーモンを頬張る。
翌朝のホテルで食べたマス寿司や氷見うどんも含め、富山の食は、偏食気味な子どもの心さえもガッチリと掴む力がありました。

滑川で迎えた、4歳最後の試練
そして迎えた、遠征二日目。
この旅最大のハイライトは、サッカーの試合前、滑川の「ホタルイカミュージアム」で訪れました。

この時期でしか見ることのできない、ホタルイカの幻想的な発光ショーに目を輝かせていた、はるちゃんでしたが、最大の試練が待ち受けていました。生きたホタルイカに直接触れ合えるタッチプールです。
「こ、こわい…」
あんなに強気だったはるちゃんが、泣き出しそうな顔で後ずさりします。
大人から見れば小さなホタルイカでも、彼女にとっては未知の、恐ろしい生き物だったのでしょう。「絶対にやらない!」と頑なに拒む姿に、一度は諦めようとしました。
我が家の方針は「無理強いはしない。でも、本人が納得した上で成功体験を積ませたい」というもの。
そこから、パパと娘の長い、長い対話が始まりました。
「パパが触って見せるね。ほら、痛くないよ。少しだけ指を近づけてみる?」
「嫌! 怖いもん!」
平行線のまま時間が過ぎていきます。けれど、ふとした瞬間に彼女が言いました。
「これ触れたら、お姉ちゃんになれるの?」
翌日に5歳の誕生日を控えている自分。
4歳という自分を終えて、新しい自分になりたいという、彼女なりの覚悟が見えた瞬間でした。
「もちろん。ホタルイカを触れたら、もう立派な5歳のお姉ちゃんだよ」
今思えば、何の根拠もない適当な励ましでしたが(笑)、その言葉が彼女の背中を押しました。
勇気を出して、そっと指先で触れた一瞬。
恐怖が喜びに変わった瞬間、「できた!」と、彼女の顔は自信に満ち溢れていました。
ミュージアムを出た後、綺麗な富山湾を指差して「あっちから来たんだよね!」と弾んだ声で教えてくれた横顔を、私は一生忘れないと思います。

カターレ富山の県総に見た、理想のスタジアム文化
そしていよいよ、戦いの地・富山県総合運動公園陸上競技場へ。
そこで見た光景は、一人のJリーグファンとして、それ以上に親として、深い感動を覚えるものでした。
広々とした公園内を、カターレ富山の青いユニフォーム姿のサポーターが埋め尽くしている。
そのすぐそばには、子どもたちが夢中で遊ぶ巨大な遊具があり、手入れの行き届いた芝生では、子どもたちがボールを追いかけ、親御さんがピクニックをしながら温かく眺めている。
サッカーが、一部の熱狂的なファンのためだけのものではなく、生活の一部として、この街に根付いていることが肌で伝わってきました。
スタジアムグルメの充実ぶり(はるちゃんは安定のかき氷でしたが…)や、どこへ行ってもいらっしゃり、親切に声をかけてくださる運営スタッフの方々のホスピタリティ。
そして、奈良クラブ側のビジターゴール裏でも、応援の邪魔にならないよう、離れたところで、のんびりと座っている僕たちにも優しく声をかけて下さる、奈良クラブのサポーターの皆様。娘にお裾分けまでいただき、皆様のおかげで、相手への思いやりの気持ちが育まれていると実感しています。ありがとうございます。
試合結果は2-5と、さびしい結果。序盤の3失点が大きく響き、一時は迫る姿も見せてくれましたが、奈良クラブにとっては非常に厳しい敗戦となりました。
それでも、ここ富山では「アウェイ」という言葉からイメージするトゲトゲしさは微塵もなく、そこには「サッカーがある日常」を心から愛する人たちの、温かい空間が広がっていました。
子どもが楽しめる街は、親も幸せになれる街
今回の富山遠征を振り返って、心に残ったのは富山という街の包容力でした。
高岡、氷見、滑川、そしてスタジアム。
どこへ行っても、そこには「子どもが安心して楽しめること」を大切にする土壌がありました。
子どもが笑顔でいられることは、親にとって何よりの幸せです。
そんな安心感があったからこそ、はるちゃんも、4歳最後の試練を自ら乗り越えようと思えたのかもしれません。
富山の皆さん、カターレ富山のサポーターの皆さん。
そして共に戦った奈良クラブのサポーターの皆さん。
素晴らしい時間をありがとうございました。
また同じカテゴリーに上がり、一回り大きくなった娘を連れて、この美しい街を再び訪れたいと思います。

