番外編 一日だけの人生
人は「時間」の中を生きているようで、実はどれだけの「気づき」と出会えたかで、人生が変わるのかもしれない。
地球が誕生してからの時間を1年のカレンダーに換算したとき、人類が登場するのは12月31日のほんの数秒前――そんな説がある。それを「アース・カレンダー(地球暦)」というそうだ。
私は、その地球のまばたきの間ほどの時間の中で、日々の喜怒哀楽を過ごしているのだ。
これから語るのは「夢」の話。
しかし、軽々しく「夢」とは言いがたい。
これは私の価値観を大きく変えた…確かな体験だった。
眠りの中で体験したことが、何十年分もの人生を凝縮して私に教えてくれたのだ。
それは、もしかすると“人生の記録”に触れるような出来事だったのかもしれない。
そう――
アカシックレコードのページが、ふと一枚めくられたような。
*消えてしまいたいと思った、あのとき*
なぜ「消えてしまいたい」と思ったのかは、今では思い出せない。けれど、その夢の中での私は確かに、そう願っていた。
暗闇の中で膝を抱え、息を潜め、風船の空気が抜けるように、しぼんでいく自分を感じていた。
そのとき――
*「一日だけだから」*
優しく、けれど力強く、誰かが私の首根っこをそっとつまみ上げた。そして私は、タイムトンネルを滑り落ちていくように声の主に飲み込まれたのだった。
呼吸もできないほどのスピードだった。
…“チン”。
気がつけば、エレベーターのドアが開き、長い廊下が伸びていた。
その先に立っていたのは、一人のガードマンだった。
「彼方へ」とだけ言い、私は指示された部屋へと向かった。
*一日の中で生きる“何十年”*
部屋に入ると、受付のような机があり、問診票のような用紙を手渡された。
名前を書き、チェック項目を前に立ち止まる。
記入したその用紙はファイルに綴じられ、別の部屋へと導かれた。
ドアを開けると――
私はもう、年齢も性別も、国籍すら違う別の誰かになっていた。
社会人1年目の私は、職場の先輩に「どうしたの?」と声をかけられ、手にした書類を差し出そうとした。
その瞬間、部屋の光がすっと落ち、辺りが真っ暗になった。
*「全部、変わっちゃうから」*
さっきの声の主が、もう一度呟いた。
********
再びドアが開いたとき、私は先輩になっていた。目の前には、かつての自分――新入社員の私。
その子が書類を手渡そうとしたとき、私はふと気づくー助けることは手を出すことじゃない…
「何がしたいの?」と声をかけた。
今度は部屋が暗くならなかった。
私は必要なアドバイスだけを伝え、見守った。
ああ、『助ける』って、こういうことなのかもしれない。
自分がやってあげることではなく、相手が自分でできるように、背中を支えること。
そんな私は、稟議書を作成して自信をつけた新入社員の私からファイルを受け取った。
*そして、私は部長になった*
稟議書は完成し、先輩の私は部長席へとそれを届けた。
一瞬のうちに、私はその部長になっていた。
ファイルを受け取り、確認し、決裁の印を押し、ドアを開け、稟議書を通すため、再び歩き出す。
廊下の先には、最初の部屋だった。
係の人にファイルを渡す、チェックを受け、再び渡された用紙の記名欄に本当の自分の名前を書いた。
確認事項に○印をつける「健康状態ー◯」
ファイルを係の人に差し出すと、私は朝を迎えていた。
*あれは夢だったのか、記録だったのか*
あの大きな手と声の主は、きっとガードマンだったのだろう。
何に悩んでいたかは忘れたけれど、あの夢が私を救ってくれた。
「人に頼りすぎず、手を出しすぎない」こと。
「経験は時間じゃなく、意識の深さ」だということ。目覚めた私は、それを静かに理解していた。
これは私の「一日だけの人生」の記録。
今、何かに迷っている人がいたら
――この話が、あなたの心をそっと守るガードマンになりますように。
