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 僕らは旅に出た。果てのない旅。どこまでも永遠に続く旅。
 それはまるで、そう、結婚のように。病める時も健やかなる時も。死が訪れるまで、ずっと。僕らは互いの背中を預けることを誓った。

 持ち物は簡単なものだけ。着替えとナイフと水筒のみ。あとは万引きしたり空き巣をしたりして賄った。どうにかなるのが不思議だった。

 あれは去年の冬のことだった。彼女が風邪をひいたのだ。今でもその弱った姿を覚えている。悴んだ手を吐息で温めて、空き家に忍び込んで暖をとった。
 虫食いと黴で今にも溶け落ちそうな毛布で彼女を包み込む。その時だった。

「見て、光ってる。ほら、あそこ。窓の外。あれは一体‥何?何なの?」

 そう彼女が言った。窓の外を見ても何もない。寝転ぶ彼女の目線に合わせてかがみ込むと、夜空に満天の星がやっと見えた。

「あれはきっと、そう、鯨よ。私たちを迎えにきたんだわ。私たち、どこまでも行こうって言ったのに、宇宙の果てからお迎えが来てしまったのね。」

 そう安心したように微笑んで、彼女はゆっくりと眠りに落ちていった。
 僕は外に出て夜空の鯨を見上げた。死んでしまうと己のガスで破裂してしまう鯨。その縞模様を思い出せば、なぜか痛みが伴った。

 翌朝、僕が目を覚ますと彼女はもう起きていて、すっかり熱は引いているようだった。そして彼女は海に行きたがった。

 ここから海までどれくらいあるだろう。海はなんでも受け入れてくれる。そして孤独だ。だから罪を犯した彼女も、彼女に恋してしまっている僕も、行きたいと思ってしまうのだ。

『見て、光ってる。』という彼女の言葉を反芻している。何度も。何度も。

 宇宙の果てにも鯨はいるらしい。恐ろしいと伝承されている鯨。宇宙に漂う鯨も、恐れられてきっと孤独だ。

 海に行けば、会える。
 ふとそう思った。

 僕らは目指す。鯨に会いにいくために。
 水面に映った鯨を、一人じゃないと励ますために。

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