NON TITLE【毎週ショートショートnote:お題「ときめきトゥシューズ」】
田原さん、お題をありがとうございます。貼付記事以下、参ります。
(460字)
愛していた。焦がれるほどに。
自分に一番近いところにいたはずのものを。
目に見える絆があったのだ。わたしたちは確かに結ばれていた。
あのひとがすくっと美しく姿を伸ばして地に立つ。わたしはそこに寄りそう。わたしたちは番いであり、パドドゥの華だった。
ある日、その世界は唐突に奪われる。
「こうなってしまっては、もうどうしようもない。あきらめるしかないだろう」
やめて!
何をあきらめろと言うの?
わたしは叫ぶことができない。声にならぬ思いを追い越して、あのひとの気配が消えていく。どうしてもそうなるのなら、わたしをここに置き去りにしないで。わたしも連れて行って、お願いだから。
「舞台からは降りてもらうけれど。大切な思い出が染みついたものだから、お手入れして、私室に置いておこうと思っているの」
柔らかな声がわたしの上から降りそそぐ。わたしとあのひとは、声の主の手に運ばれて、バーレッスン場を離れていく。心配いらないよ、とささやいてくれるあの人の、シルクの肌理が光を受けて輝いていた。
お伽噺か夢物語か。語り部の名をpointe shoes、日本名トゥーシューズ、というそうな。
— Fin —
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