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雲の配達人から時を買う【シロクマ文芸部:お題「雲を売る」】

小牧さん、お題をありがとうございます。貼付記事以下、参ります。


(979字)


雲を売る人から、一度だけそれを買ったことがある。彼女は空からやって来た。メリー・ポピンズのように洋傘は差しておらず、ハンググライダーに乗って。

「現代はスピード時代。あなたの夢を壊したなら、ゴメンなさいだけれど。こういうものなの、受け入れてくれたら嬉しいわ」

スピード、それも現代適応というなら、ハンググライダーより有人ドローンの方がふさわしいのではないのか。私はその言葉を飲み込んだ。多弁な来訪者の口数を、これ以上増やしたくはなかったから。

「1アール単位。初心者にはそのくらいをオススメするわ。言葉が先走って1ヘクタールを注文しようとする人がいるけど、絶対にもてあます。止めておいた方が賢明ね」

「何を言っているのか、意味が分からない」

分かるわけがない。いきなりやってきて、押し売りどころか強制か。雲を売るって、どうやって販売するというのだ。それに、買ってどうしろと言うのだ、私に。

「残り1名様、今なら特別に90パーセントオフなんだけど。どうする?購入決定は、ここにサインで完了よ」

商売上手なのか雑なのか分からぬやりとり、それを私は自分の名前を紙に書くことで終わらせた。


「確かにサイン、いただきました。それでは、あなたの幸運をお祈りしまーす🎶」

最後にそう告げて、奇妙な販売員は去って行った。助走も助力もなく、ハンググライダーが舞い上がる。次第に小さくなり視界から消えていく女の姿を、私はぼんやりと眺めていた。

明晰夢か真昼の夢か、自分もどうかしている。

そう呟きながら。


あれから二週間が経った。何かが変わるわけでもなく、坦々とした日々を過ごしている。ひとつだけ以前と変わったことがあるとすれば、空を見上げると、そこにはいつも白い雲がぽっかりと浮かんでいるのが見える、その位なもので。


「雲は大切だよ。凄く暑い日、雲ひとつない青空が見えると、晴れた空がうらめしくなるでしょう? それを忘れないでね。1アールの雲、そのお代は【あなたの人生】、そのあり方そのもので支払ってもらうんだから」

声が聞こえる。

あの時のように、こちらの意も気に留めず言いたいことを告げるその口調に、私はひとり軽い笑いをこぼした。

まあ、見ていてもらおうか。私は忘れないから、あなたを。

青空に浮かぶ白い雲のように、形を変えてもなお、青に溶け込まず白い姿を保ち続ける、現実と夢のあわい、その象徴を。



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©Harunaga Mutsuki


サムネイル=ヘッダー画像の全体図です。

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春永睦月 拙稿をお心のどこかに置いて頂ければ、これ以上の喜びはありません。ありがとうございます。