見出し画像

嘘を洗い流す【シロクマ文芸部:お題「手を洗う」】

小牧さん、お題をありがとうございます。貼付記事以下、参ります。

(   592  字)


手を洗う。手の皮がむけそうになるほど、何度も何度も念には念を入れて。愚かな行為だと分かっている。分かっていてなお、そうせずにはいられなかったのだ。

何事にも「頃合い」ってのがあるだろう?

とってつけたような台詞に、軽い嘔吐感を感じ、気付かれぬようにそれを抑えた。


「いい女だよ、君は。逢っているときは、いつも楽しかった。だから、楽しいままで終わりたいんだよ」

白々しい言葉に返す言葉はなく、黙って頷いた。

本当は、告げてやりたい言葉が山とあるのだ。

好きな人が出来たんでしょう?
私よりもずっと魅力的な人がいるんでしょう。
その人のところに、早く行きたいのよね。
なら、嫌いだって、飽きたって、どうして言ってくれないの?


愁嘆場はゴメンだ。私にもちっぽけなプライドはある。「そう言ってくれると思ったよ。やっぱり君はいい女だ」、そう告げるであろう台詞、その白々しさに堪えられず、きびすを返した。


手を洗う。皮膚が剥がれそうなほど、何度も洗う。秋の夜は水も冷えて、流水に当たりつづけた両手は赤く充血していた。

「あー、くだらない。あの人も、私も」

嘘つきな男との時間を切断するために、仮面をかぶった私を。
その嘘くささを洗い流したかった。シャワーを浴びてなお、何度も手を洗って


カモミールティーでも淹れようか。昨日買ったばかりの、敬愛するギタリストの新譜を聴くお供を淹れよう。

今夜は眠れぬ夜になりそうだから。

  — Fin —


#シロクマ文芸部
#手を洗う
#お題で書いてみた
#掌編小説
#Canva

©2023-2025 Harunaga Mutsuki


今までの生成(AIアート)から今回の拙稿に似合いそうなものをチョイス。Adobe Fireflyで画像生成。

#AIとやってみた
#AdobeFirefly
#66日ライラン

いいなと思ったら応援しよう!

春永睦月 拙稿をお心のどこかに置いて頂ければ、これ以上の喜びはありません。ありがとうございます。