見出し画像

【ショートストーリー】Rakuenn.

寝返りを打つ私にこたえるように、隣で寝息がススーンと深くなった。こちらに顔を向けて、手は赤ちゃんみたいに上にあげて。

かわいい寝顔を起こさないように、私はそっと布団から出ようとするけれど、壁際の私は、彼女を越して反対側へ出ないとならない。
そぉっと四つん這いで彼女を越えようとしたところで、詩乃しのちゃんが私のパジャマ代わりのトレーナーを掴んだ。

「起きるの?」
「あ。おはよ。起こしちゃった?」
友希ゆきさん、起きる?」
「ん?」
「起きちゃだめ。」

腕立て伏せみたいな恰好の、私の腕の間で、詩乃ちゃんは眠たそうな目で甘えてくる。首に腕を回し、私はそのまま抱き寄せられて、ふにゃりと上にのしかかるけれど、小さな彼女がつぶれてしまわないように、体重は横にずらして。

「もう少しいて。」
「はぁい。」

寝起きの詩乃ちゃんはかわいい。いつもかわいいけれど、こうして同じお布団で目覚めた朝は特にかわいくて、私はそのまままた、彼女のお布団の中に招き入れられる。

詩乃ちゃんにあたためられた布団の中は、詩乃ちゃんが濃くて、とたんに私の頭の中は詩乃ちゃんでいっぱいになる。

「友希さん、ずっとこのままいて。」
「ずっと?」
「うん。ずーっと。」
「ずーっとかぁ。幸せだなぁ。」
「うん、幸せ。この時間が一番好き。」

そう言いながら、ぴったりと抱きつく詩乃ちゃんのかわいいこと。
ふんわりとやわらかくて、でもちゃんとあたたかくて、服越しだけれど彼女の心の熱を感じる。

「うん、ずっとこうしてたいなぁ。」
「おやすみする?」
「ん?」
「お仕事。おやすみする?」

他にどんな時にそんな声を出すというのか。詩乃ちゃんが私だけに聞こえるささやき声で、甘える。

「おやすみしたいなぁー。」

心の声ごと口に出して、詩乃ちゃんをギュウギュウにだきしめるけれど、それでも詩乃ちゃんは、

「もっとギュってして。」

とかわいく煽る。このかわいい生き物と、ずっとお布団の楽園でイチャイチャしていたい、昼まで一緒にゴロゴロして、お腹すいたねっていいながらもダラダラしていたい。

「詩乃ちゃん、かわいすぎてだめだ。」
「友希さん、幸せ。」
「幸せーっ。」

首元に詩乃ちゃんの息が当たる。
これがわざとなのか、自然となのかはわからないけれど、彼女はまた上手に私に薪をくべていく。パジャマ代わりのスウェットの裾から手を入れて、彼女の肌に直に触れると、くすぐったそうにクスクスわらう。

「友希さんの、えっち。」
「えっちじゃないよ。詩乃ちゃんがわるい。」
「私わるくない。」
「わるいよ。かわいいのがわるい。」
「友希さんかわいい。」

詩乃ちゃんのフニフニのキスが降ってくる。

今日がおやすみだったら。
毎日がこんな朝なら。
詩乃ちゃんとずっとこうしていられたら。

ギリギリの締切と、しつこい電話のあの声が、とろけた頭を引き戻す。
 
社会人を放棄したくなる。


#なんのはなしですか


いいなと思ったら応援しよう!