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ダウン・トゥー・ゼン・レフト/ボズ・スキャッグス(1977年 CBSソニー ライナーノーツ)Boz Scaggs

【読者のみなさまへ】

この記事は過去に発表されたものの再掲載です。当時執筆した内容をできる限り残しておりますが、一部は手を加えました。現在では不適切とされる表現や用語も、記事のオリジナル性と発表当時の時代背景を踏まえて掲載いたしました。人名などの固有名詞も当時のままにしてあります。時を経て、のちに明瞭になったこと、本人たちがインタビューで語って正確になったこと等々も、上書きはしておりません。どうかご理解ください。

アルバム・タイトルは『アルバム』と二重カギ括弧、シングル曲は「シングル」と統一してあります。


ダウン・トゥー・ゼン・レフト
ボズ・スキャッグス
1977年 CBSソニー 25AP800

ベストセラーが約束されたこのアルバムに、ボズ・スキャッグスの、 ロック・ミュージシャンとしての輝かしい過去と未来をみつけることができる。

世界的な成功を収めた名作『シルク・ディグリーズ』から1年半、ボズのニュー・アルバムが発売になった。 『シルク・ディグリーズ』からは、シングルが4枚もカットされ、アメリカではAMとFM局で大ヒットとなり、ディスコでもヒット・ナンバーとしてすっかりに有名になった。それまでのボズのヒット曲は「ダイナ・フロー」や「アイ・ガット・ユア・ナンバー」など、あるにはあったが、AMのプログラムの最後にひっかかっているような状態で、むしろFM局で「ローン・ミー・ア・ダイム」が流れる機会の方が多かったくらいだ。

私も昔は、ボズのギグを何度も見たことがある、というのが自慢だったけれど、『シルク・ディグリーズ』以後のステージは見る機会がなくて、伝えきくところによると、白いタキシードを着て、ヤマハのSGを弾きながら、ラスベガスのステージさながらの華やかさで歌うとのこと。

そんな話をきいたり、このアルバムをじっくりききこんだりしながら、そろそろ〈メロウな男のやさしさ〉とか、〈大人のソウル〉とか、〈都会の何とか〉など、そんな表現でボズのことを伝えようとするのも、おわりにしいと考えている。結局のところ私たちはボズ自身のことは歌やステージでしか知らないし、そんな知識のよせあつめをのりでくっつけて、メロウだとかシティ・サウンドだと呼んでいたにすぎない。さらに最近のアメリカでは、シティとカントリーのことばの意味がますますあやふやになってきた。

ボズだって、その昔は、サンフランシスコの酒場でまったりと笑っていたし、マッスル・ショールズでジミー・ロジャースの真似ごとしていたのだが、今やシティ・ミュージックの代表みたいになっている。

私はパンク以来、ロック・ミュージックとその人の音楽が必ずしもイコールでないことに、遅ればせながら気がついてしまった。たとえば田舎の生活の豊かさを歌っている人が実は都会のど真ん中で暮らしていたり、人間のやさしさを歌っている人が実はわがままな人だったり、若者よ怒れと歌っている人が牧場付き豪華なお城に住んでいたり。この調子でいくとボズは毎晩、タキシードを着て、白いドレスの女性をエスコートしてパーティー・ライフを楽しんでいるようだが、はたちをちょっと過ぎた人が感じるような人生ではなく、こってりと脂ののった、粋(いき)の領域に入ったのだろう。それをシティ・ライフとか大人のメロウとか、ことばで表現するのはやさしいが、洗練された男の生きざまの中に、ラフでワイルドな野生の部分をみおとしてはいけないと思う。

ボズが歌い続ける〈恋〉は、10代や20代のはじめの、身体ごと燃えつきてしまうような激しい恋ではなく、男と女を超えた〈人間〉の根幹にかかってくるような恋だ。

ボズ・スキャッグスは『マイ・タイム』で、そのサンフランシスコの時代に別れを告げ、『スロー・ダンサー』からホワイト・ソウルの世界を築きあげていった。そして、ひたすら〈LOVE〉の中に歌の世界をきわめてきた。その集大成が『シルク・ディグリーズ』だったわけだ。

水上はるこ
筆者撮影、これまで未公開だった1972年のサンフランシスコ・ウインターランド公演

早くもボズのことを、フランク・シナトラ級の歌手だと言う声さえ出てきている。繊細なニュアンスの歌い回しを、小細工なくサラリと歌ってみせるボズの歌唱力は、確かにシナトラを超えるものである。それが、ただのバラード・シンガーとしてではなく、白人ブルースとして成長してきたところにボズの特殊性がある。

ニューアルバムからのシングル「ハード・タイムス」を初めて聞いた時、私はかつて「ローン・ミー・ア・ダイム」で、荒野をさすらう若者を演じたボズが、実にここまで歩いてきたのだという感慨に胸を熱くした。ボズはダイム(10セント)を手に入れた。それで、大ばくちをやったのだ。スローでコクのあるバラードだが、ねっとりとからみつくソウルは、「ローン・ミー・ア・ダイム」を通ってきたボズならではのものだ。

『シルク・ディグリーズ』は非常に完成度の高いアルバムだった。それよりすぐれたアルバムをつくろうとする時、ボズは極度にコンセントレイトされた精神状態を維持しなければならない。10年間のミュージシャンとしての力量が、それをやってのけた。発売された時点でベスト・セラーが約束されたこのアルバムに、私はボズ・スキャッグスの、ミュージシャンとしての輝かしい過去と未来をみつけることができる。

雑誌「GORO」(小学館)で取材した時のショット。1980年。(若い!)

2026年の再会、1976年に『シルク・ディグリーズ』のレコーディング中に会ってからちょうど50年目になる。

6月8日で82歳になるボズ・スキャッグスはただ今、日本をツアー中。SNSに流れてくるレビューはいずれもそのヴェルヴェットのようで、なおかつパワーに満ちた歌声を賞賛する内容ばかりです。

私はボズとはずっとメール交換をしており、明日(28日)の福岡公演に招待していただきました。1976年に初めて会ってちょうど50年目、お互いに最後となる友情を暖めてきます。コンサート・レポートも含めて、noteをアップします。


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