ほんとうに出会った者に別れはこない
6月21日(日)
生理予定日ではあるが、基礎体温を見る限りまだ生理は来なさそう。頭の片隅で、妊娠の可能性も考える。
昨日買った紫芋パンとチョコチップスコーンで朝ご飯。健康的だ。
サカナクションのライブの一般応募が始まったので、夫と申し込むことに。友人夫婦に一緒に行こうと緩く誘われていたけど、「4人だとそもそも申し込めないし、当たらないから」と二人に連絡せずに申し込む夫が、私は好き。

昼前に家を出て映画館へ。シートにもたれやすいように、今日は「短命ヘア」という髪型を実践してみた。アニメで病気がちなお母さんがやっている髪型から、そう呼ばれているらしい。名前が不謹慎すぎるけど、新しい髪型は夫に好評だった。
早めに映画館に着いたので、少しゆっくりしてからポップコーンを購入。私は塩のMサイズと決まっているのだが、彼は毎回期間限定の物を注文するチャレンジャーだ。今回は矢場とんコラボのみそ味を注文していた。
待ちに待った濱口竜介監督の『急に具合が悪くなる』を観る。3時間以上の長い作品だが、みんなトイレに行かずに真剣に観ていた。かく言う私もその一人で、端っこの席を取ったにも関わらず、一瞬も見逃したくなくて席を立たなかった。
観る前は「きっといい作品だから、感想を言葉にしよう」と思っていた。でも、こうして実際に観終えた後、これは言葉にできないなと思った。私はどこかで、観た作品や読んだ作品を言葉にできるという、少し驕ったところがあったと気付かされた。作品というものには伏線があり、それを軸に言葉にできるだろう、というような。
でも本作では完全に「くらってしまった」という感じがした。これまでの1年で学んできたことがたまたま題材になっていて感情移入したところもあるが、物語というより人生そのものだった。

映画を観終え、夫がパンフレットを買ってくれた。その行動で、彼にとっても響くものがあったのだとわかる。
ポップコーンだけでは足りなかったので、ドトールで軽食を摂ることに。運よく横並びで席が確保できたので、アイスティーとレタスドックを注文した。パリパリのウィンナーとシャキシャキのレタスを同時に味わいながら、夫と映画の印象的だったシーンを話す。本作の軸にもなっている資本主義との向き合い方について、さすがの彼はうまく言語化できていた。

心とお腹が満たされたまま店を後にする。食材を買いにスーパーに向かったのだが、その道中に路上ライブに遭遇した。女性ミュージシャンを男性ファンが囲っている構図なのだが、私が「ちょっと怖くない?」と話した日から、夫はいつも心配そうに眺めている。なんというか、本当にその人の音楽を聞きに来ているというより、女性と接触することが目的なのではないかと感じてしまう雰囲気なのだ。
もちろん、同じ構図のライブで何も感じないことはある。ただこの街で行われているライブには、不安になる距離の近さを感じる。この感覚が偏見なのか、直感なのか、自分でもまだうまく言葉にできていない。
食材を無事に買えたので帰宅。少しあつ森を進めてから、夜ご飯にふろふき大根、ナスの煮びたし、なめこともやしの味噌汁を作った。ふろふき大根を食べる時、いつも思い出す谷川俊太郎の詩がある。偶然にも、今日観た映画に通ずるようにも思えた。
あなたはそこにいた
退屈そうに右手に煙草 左手に白ワインのグラス
部屋には三百人もの人がいたというのに
地球には五十億もの人がいるというのに
そこにあなたがいた ただひとり
その日その瞬間 私の目の前に
あなたの名前を知り あなたの仕事を知り
やがてふろふき大根が好きなことを知り
二次方程式が解けないことを知り
私はあなたに恋し あなたはそれを笑い飛ばし
いっしょにカラオケを歌いにいき
そうして私たちは友達になった
あなたは私に愚痴をこぼしてくれた
私の自慢話を聞いてくれた 日々は過ぎ
あなたは私の娘の誕生日にオルゴールを送ってくれ
私はあなたの夫のキープしたウィスキーを飲み
私の妻はいつもあなたにやきもちをやき
私たちは友達だった
ほんとうに出会った者に別れはこない
あなたはまだそこにいる
目をみはり私をみつめ 繰り返し私に語りかける
あなたとの思い出が私を生かす
早すぎたあなたの死すら私を生かす
初めてあなたを見た日からこんなに時が過ぎた今も
夫が風呂に入っている間にnoteを覗くと、彼が久しぶりに投稿していた。投稿したなんて言っていなかったし、記事に書いてある内容にも私の知らないことがたくさんあった。一緒に住んでいても、全部が見えているわけじゃない。
夫は相変わらず文章がとてもうまかった。時折混ざる口語的な表現に、ドキッとさせられる。
彼が風呂から上がってきたので、記事にあった仕事の話を詳しく聞いた。それから自然と、今日観た映画の話になった。よい映画というのは、スッと生活に入り込んでいくものなんだなと思う。
静かでいい夜だった。

