【映画感想・ネタバレ】『関心領域』〜美しさと豊かさの向こう側〜
◾️2024年アカデミー賞受賞の話題作
こんにちは!
歴史と文化が大好きな
フリーダム教育ママの
harukaです。
2024年、公開前から話題になっていた
映画『関心領域』
ついにアマプラで無料視聴しました。
いやーーー
興味深い映画でした……
公開当時から気になっていて
よっぽど劇場で見ようか
迷っていた作品だったのですが
実際に見てみると
想像とは違う雰囲気だったので
そういう意味でも面白かったです。
戦争映画にありがちな
「感動」や「解釈」を
押し付けてくる感じがなく
目を背けたくなるような
刺激の強い映像もなく
寧ろ、ドライというか
淡々としていると言うか
だからこそ
見ている側の感性や教養が
試されるような
面白いアプローチの映画でした。
これから『関心領域』を
見てみたいと思っている方
既にご覧になっていて
ご自身の感想と比べてみたい方
よかったら楽しんで
読んでいってください!
ちなみに先にお伝えしておくと
こちらの映画は
ホロコーストを扱っていますが
いわゆる「残酷な映像」は
ほとんど出てきません。
(音は色々聞こえてきますが😇)
そこら辺は安心してくださいね!
◾️「白い」肉体たち
不穏な冒頭の映像が終わると
広がるのはポーランドのオシフィエンチム
(ドイツ名:アウシュヴィッツ)の
牧歌的な川の風景。
その川辺には
赤ちゃんを連れた仲睦まじい家族が
川遊びに興じています。
一家は揃って見事な「白人」。
「いかにも白人」を感じさせる
彼らの真っ白な背中、四肢が
まず印象的でした。
当時、ユダヤ人絶滅を目指し
人類史上最悪の人種差別を
最大級の規模で実施していた
アウシュヴィッツ=ビルケナウ収容所。
その悪名高い収容所の所長こそが
この川遊びに興じる
ファミリーのパパさんでした。
ちなみにこの作品では
撮影用の照明は一切組まれておらず
屋外の撮影については
自然光で行われています。
自然光で、あの白さ。
それがまるで
ナチス・ドイツにとっての
「理想」とか「純粋」などを
象徴しているかのようで
ああ、この川遊びの風景は
ヒトラーが理想としていた世界の
あり方の一つなんだろうかと
冒頭から示唆を感じていました。
◾️いびつで丁寧な暮らし
この映画は
アウシュヴィッツ強制収容所の
所長一家の牧歌的な暮らしを
実話をもとに描いた作品です。
「やはり心底悪い奴らだった」とか
「実は良い人たちだった」とか
そういう善悪の脚色は
ほとんどなされていません。
ただ、淡々と
自分たちの生活を営む
家族の姿を描いているだけ。
だから、何の知識もなく見ると
古き良き時代の
普通に素敵な暮らしに見えてきます。
都会の喧騒から離れ
緑に囲まれた
落ち着いた石造りの邸宅
花も野菜も取れる広い庭園
現代のような家電はなく
昔ながらのストーブや
シンプルだけど質の良さそうな
家具や調度品に囲まれた生活
大人も子供も
襟付きのシャツやブラウスを着用し
おしゃべりを楽しんだり
子供同士で遊んだりしています。
経済的に余裕があるのか
使用人が男女数名いて
子供が5人もいる割に
父親も母親も育児の余裕が感じられる。
現代だったら確実に
SNSで人気者になれそうな
暮らしぶりです。
ただ、最初に私が
違和感を覚えたのは
奥さんの歩き方でした。
あの時代のドイツ人にしては
別格レベルに恵まれていて
優雅な生活を送っているのに
歩き方が全然エレガントじゃないんです。
ちょっとおばさんくさいというか
ドシン、ドシンと
重心が左右に振れるような
農耕民族の歩き方って感じ。
後から調べたところ
この奥さんは
決して恵まれた出自の方では
なかったそうで
作中のセリフでも
自分の母親がユダヤ人の家庭で
使用人をしていたという
話がありました。
つまり、この優雅な生活は
ユダヤ人虐殺を掲げる政府のもと
功績を上げ続けた夫の稼ぎで
ほんの数年で得られたもの。
不自然な豊かさは
暮らしとふるまいの不一致を
生み出すのかもしれません。
その不一致が、危うさが、
優雅な生活に見合わない
あの歩き方に現れているようでした。
ちなみにこの奥さん役を演じられた
ザンドラ・ヒュラーさんは
ドイツを代表する女優で
この年は数々の主演女優賞を
受賞したり、ノミネートされています。
◾️虐殺者サイドの日常〜象徴的なシーン〜
一見すると素敵な
所長一家の暮らしですが
やはり随所にいびつな要素が
散りばめられています。
庭園の壁の向こうには
巨大な収容所の建物が見え
黒い煙が上がり、絶えず音が聞こえ
家には部下たちが作戦会議にやってくる。
リビングでは女性たちが
おしゃべりに花を咲かせ
「素敵な服ね!」
なんて会話に混じって
「歯磨き粉にダイヤを隠していたのよ」
「あいつらは賢いからね」
など、収容したユダヤ人の話題も。
この一家の異常さを象徴する
2つのシーンがありました。
▶︎異常なシーン①
1つは、奥さんのお母さんが
遊びにやってきたシーン。
この家に来るのが初めてなのか
お母さんは誇らしそうに
娘たち一家の邸宅を褒め、庭を称賛し
最初はご機嫌でした。
でもだんだん、庭の向こうの
景色や音、匂いに戸惑いを隠せなくなり
最後には書き置きを残して
帰ってしまいました。
慣れてしまった人には
もう何とも思わない日常が
肉親とはいえ、来客にとっては
やはり異常な暮らしだったのです。
書き置きに何と書いてあったのか
観客には全く示されません。
ただ、その書き置きを読んだ奥さんは
表情ひとつ変えずに
手紙をストーブに
投げ込んでしまいました。
奥さんにとっては
取っておく価値のない
不愉快な内容だったようです。
立ち去ったお母さんの分まで
朝食を用意していた使用人に
奥さんは腹を立てて
「お前も灰にしてやる」と脅します。
やはりこの家庭は
近所で何が行われているか
わかっていて、その上で
この優雅な暮らしを送っているのでした。
▶︎異常なシーン②
物語の後半で
この一家のパパ
つまり収容所の所長ルドルフ・ヘスは
栄典として転勤を命じられます。
栄典なので、出世です。
なのにパパは浮かない顔。
今の暮らし、邸宅、庭に
並々ならぬ情熱をかけてきた
奥さんが絶対に猛反対すると
わかっていたからです。
ある日、パパは奥さんに
転勤の話をします。
案の定、奥さんは大激怒。
「ここが理想の場所なの!」
「私が少女の頃から夢見ていた暮らしなの!」
「子供たちにとってもここが1番なのよ!」
隣にアウシュヴィッツ強制収容所がなければ
確かに恵まれた環境だったかもしれません。
でも現実には
壁を挟んだ向こう側で
絶えず暴力があり、飢えがあり
強制労働やガス室
遺体の処理まで行われています。
現代からは考えられない
奥さんのセリフですが
当時の使用人らの証言によると
実際に奥さんは激怒していたそうです。
果ては「あなたが1人で行けばいいのよ」
と、夫に単身赴任を求める始末。
一見あたたかで
家庭的な雰囲気に見えたこの暮らしも
実際には
夫の単身赴任さえも厭わない
自分の「理想の暮らし」に
異常なまでに固執する奥さんのエゴ
残酷なまでに狭い「関心領域」の
いびつな象徴だったのかもしれません。
◾️『関心領域』がアカデミー音響賞を獲った理由
ところで映画『関心領域』は
アカデミー国際長編映画賞とともに
「音響賞」を受賞しています。
映画の音響というと
私もあまりイメージが湧きませんが
この映画の受賞に関しては
かなり納得できます。
なぜならこの映画は
音響こそが主役だからです。
既に書いたように
この映画は基本的に
ポーランドの牧歌的な
家族の様子を描いていますが
家族を描いたほぼ全てのシーンに
アウシュヴィッツ強制収容所の音が
ついてきます。
ヨーロッパの
古き良き田舎にありそうな
花と緑に溢れた庭に
「ていねいな暮らし」。
その邸宅の敷地の壁の向こうには
地獄を煮詰めたような
強制収容所。
実際の強制収容所から
どんな音が発せられていたのか
壁を隔てた距離感では
どんな音量で聞こえていたのか
そうしたことを
徹底的に調べあげ
緻密に計算した上で
この映画の音響は組まれたそうです。
100万人近くが犠牲になった
その現場のすぐ近くで
平然と穏やかな暮らしを送る
強制収容所の所長一家。
そのコントラストの要が
「音」による演出でした。
尚、この作品を
映画館でご覧になった方の
感想を見ていると
エンドロールでは大音量で
トラウマになるレベルの
不快な音が
延々と鳴っていたそうです。
私はアマプラ視聴だったので
エンドロールに広告が入るわ
そもそもイヤホンでは
そこまでの迫力はないわで
映画館でご覧になった方々が
味わったであろう不快感は
追体験できませんでした。
これからご覧になる方はぜひ
エンドロールまでご覧ください。
◾️不気味なまでの「客観性」
そもそもこの作品には
BGMがほとんどありません。
カメラも意図的に
定点カメラを利用していて
なるべく俳優たちの
自然な演技をとらえられるよう
撮影の際には
現場にカメラマンを置かず
別室のモニターから
演出指示を出していたようです。
登場人物の
感情や表情に寄り添うような
ズームアップもなければ
「ここが見せ場ですよ!」
とアピールするような
ズームアウトも
目まぐるしいカットもなし。
動かないカメラの前で
俳優は部屋から出たり入ったり
見切れたりしていて
実際の当時の日常生活を
盗み見ているような
フィクションっぽいくない
カメラワークでした。
「作為を感じさせない」
という言い方もできますが
不気味なまでに
「意味」や「評価」を与えることを
演出側が徹底的に避けている
という印象もありました。
なので、人によっては
「感動するポイントがわからない」
「どう捉えたらいいかわからない」
「つまらない」
という感想を持つかもしれません。
そういう意味で、この作品は
見る側の「感受性」「教養」
「客観性」が試される映画
とも言えるかもしれません。
逆にいえば
この映画を見た後に
解説や感想を読んでいくことで
新たな感受性や教養が
磨かれる部分もあるかもしれません。
◾️まとめに代えて
以上、気づけばまた随分
長い量を書いてしまいましたが😂
いかがでしたでしょうか?
私個人の感想としては
「ホロコースト」という
人類史上最悪と言われる悪行であっても
実は案外、他人ごとではないんじゃないか
と思ってしまいました。
私たちの社会にだって
すぐ身近なところで
地獄の様な苦しみを
味わっている人々がいる。
私たちが生きている
地球上では今
戦争や飢餓に苦しんでいる
国々もある。
でも私たちはそこに関心を払わず
自分たちの箱庭の幸せを
愛でるのに必死で
褒めあったり
嫉妬したりしている。
もちろん
一個人の犠牲や努力では
どうにもならない悲劇はあるし
そこに身を捧げる人生だけが
尊いとは思いませんが
「所長一家って恐ろしい家族だったんだね」
「ナチスドイツってやっぱり悪だね」
と、他人ごとで終わらせてしまうには
惜しいメッセージを含んだ作品だと思いました。
私たちの生きている世界には
天国も地獄も満ち溢れている。
その中で、自分はどう振る舞うのか
自分の子供たちに何をどう伝えるのか
考えさせてくれる作品でした。
ここまで読んでくださり
本当にありがとうございました!
よかったら読了記念に「いいね」押していただけると励みになります🕊️
いいなと思ったら応援しよう!
いつも読んでくださり、ありがとうございます。
皆様の閲覧やフィードバックを励みに、より良い記事を目指して精進中です。
「こういうのが読みたかった!」と思ってくださった方は、チップで応援していただけると嬉しいです。
いただいたご支援は活動費として大切に使わせていただきます。