雨の音が、激しく窓を叩く朝でした。
起きたばかりの娘が、理由もなく泣き出し、私の心にも、少しだけ「困ったなぁ」というトゲが刺さります。
お母さんも人間ですから、ときどき、心の余裕が雨雲に隠れてしまうこともあるのです。
私はそっと隣の部屋へ行き、一冊の本を開きました。
そこにあったのは、「雨風をしのげる家があること」という、
あたりまえすぎて、忘れていた感謝の言葉でした。
私は、泣きべそをかいている娘の隣に座り、一緒に外を眺めました。
「すごい雨だね。でも、おうちがあるから大丈夫。
あったかいお部屋で、こうしていられるね。お外のちょうちょさんは、どこかの葉っぱの下で、羽を休めているのかな……」
私の拙い言葉を聴いた瞬間、娘の涙がぴたっと止まりました。
娘は、窓の向こうの、雨に煙る景色をじっと見つめています。
その横顔の、なんと美しかったこと。
まだ低い鼻と、洗いたてのような瞳。
そして、幼い頬にポツンととどまった、光る涙の一粒。
6歳の小さな胸のうちは、今、自分の「悲しい」から離れて、
お外の生きものたちの命に、そっと寄り添っていたのかもしれません。
娘の意識が、目に見えない「外の世界」へと優しく広がっていくのを、
私はたしかに感じることができました。
私たちは、つい「自分の思い通りにしたい」という愛を、相手に押しつけてしまいます。
けれど本当の愛は、奪うものでも、与えるものでもなく、
「そこに、もう、あるもの」に気づくことなのかもしれません。
繊細であることは、ときに苦しいけれど、
それは、風の音や、雨の匂いや、誰かの心の機微を、
人一倍たくさん受け取れる、神様からの贈り物。
頬に光る朝の雫は、世界を美しくするための、小さなしるし。
その一粒が、いつか誰かの乾いた心に、
優しい希望の種をまくことを、私は信じています。
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