野党はなぜ審議拒否をするのか?

 特別国会の会期末を控え、永田町の緊張感が高まっています。
 事の発端は6月26日、与党である自民党と日本維新の会が、衆院議員定数の削減および「副首都」構想に関連する2法案の審議入りを決定したことです。これに強く猛反発した野党5党(中道改革連合、国民民主党、参政党、チームみらい、共産党)は、同日をもって衆参両院における全面的な審議拒否へと踏み切りました。

当然、この「審議拒否」という手法に対して、世論の風当たりは冷ややかです。7月に公表されたJNNの世論調査によると、今回の野党の行動に対する国民の受け止めは以下のような結果となっています。

  • 「理解できない」:71% (「あまり」と「全く」の合計)

  • 「理解できる」 :27% (「十分」と「ある程度」の合計)

メディアやSNSでは「早めの夏休み」「職場放棄」といった手厳しい言葉で揶揄されることも少なくありません。しかし、野党はなぜ、これほど世論の反発を招くことが予想される手段に打って出たのでしょうか。

この問題を紐解く鍵は、個々の法案への賛否ではなく、日本の国会運営が持つ独自のルール(構造)にあります。結論から申し上げれば、議席数で圧倒的に劣る野党にとって、審議拒否は「構造的に残された、ほぼ唯一の対抗手段」だからです。議論を尽くせる「熟議の国会」をいかにして再構築すべきか、その具体的な運営ルールの改革を真剣に考えます。


野党の最大かつ唯一の武器は「時間」である(可処分時間の奪い合い)

国会における審議拒否は、しばしば世論から「職場放棄」との痛烈な批判を浴びることがあります。しかし、日本の国会独自のルールを紐解けば、これが「法案を廃案に追い込むための、極めて実効性の高い合理的な戦術」であることが見えてきます。野党の遅延戦術を支える国会の構造的力学は、主に以下の4点に集約されます。

 第一に、「会期制」と「会期不継続の原則」の存在です。
 
日本の国会は会期(開会期間)が厳格に区切られており、期間内に成立しなかった法案は原則としてすべて廃案(審議未了)となります。すなわち、野党にとっては「審議を遅らせて時間切れに持ち込むこと」自体が、勝利条件となるゲーム構造が存在しているのです。

 第二に、物理的な時間と日程の制約です。
 
予算委員会が稼働している期間は、事実上、他委員会の並行開催が阻まれます。さらに、委員会ごとに設けられた「定例日」の壁もあり、これを超えた変則的な日程設定は、与党側にとって政治的コスト(野党の強い反発や反動)を伴うことになります。

 第三に、「二院制」という二重のハードルが挙げられます。
 法案が衆議院を通過しても、参議院で再び同規模の審議を要するため、実質的な必要時間は2倍に跳ね上がります。とりわけ法律案は、予算などに比して「衆議院の優越」の適用範囲が狭いため、会期末が迫るほど、後議院である「参議院」の動向が法案の命運を握ることになります

 第四に、「全会一致」を旨とする慣例の足枷です。
 国会のスケジュールを掌る理事会では、全会一致での合意形成が暗黙のルールとなっています。決裂した際の最終手段は委員長の「職権立て(職権による開催)」しかなく、その決断に至るまでの泥沼の調整劇だけで、与党の保有時間は確実に摩耗していく仕組みになっています。

与党が差し出す「譲歩」のグラデーション

 与党としても、数の力で何でも強行採決すれば「多数派の横暴」として世論の批判を浴び、内閣支持率の低下を招きます。そのため、野党の時間の引き延ばし(審議拒否など)に対し、与党は以下のようなグラデーションのある「譲歩」を小出しにしながら、なんとか法案を成立させようと交渉します。

【与党の譲歩のレベル(低い順)】

  1. 採決日の延期(野党の「もっと慎重に審議せよ」という要求に応える)

  2. 確認答弁(野党の主張に沿った答弁を議事録に残す)

  3. 付帯決議(法案成立時に、野党の意向を盛り込んだ注文を付ける)

  4. 見直し条項の追加(将来的な制度の修正を法律に義務付ける)

  5. 法案内容の修正(野党の要求を実際に受け入れて中身書き換える)

  6. 大臣の更迭・退任(問題のある閣僚を辞任させる)

  7. 成立断念・廃案(今国会での成立をあきらめる)

野党の抵抗が持つ「限界」

 一見すると、「時間」を武器に優位に立てるように見える野党ですが、その戦略には構造的な限界も内包されています。

 まず直面せざるを得ないのが、最後は「多数決」によって決するという議会制民主主義のシビアな現実です。野党がどれだけ巧みに審議を引き延ばしたとしても、最終的な決定権は議席の多数を握る与党側にあります。与党が政治的批判を覚悟の上で、委員長職権による開催や強行採決へと踏み切ってしまえば、少数派である野党にはそれを物理的に阻止する術はありません。

 また、野党間の足並みの乱れも大きな弱点となります。「野党」と一言で括っても、各党のイデオロギーや基本路線は決して一枚岩ではありません。今回のケースのように複数の野党が共闘できるのはむしろ稀なケースであり、ひとたびその連携に綻びが生じれば、与党に対する抵抗力は一気に瓦解してしまいます。

 さらに根本的な問題として、国会運営における「全会一致」などのルールは、法律で厳格に定められたものではなく、あくまで長年の慣習に基づく「紳士協定」に過ぎないという点が見逃せません。もし与党側が世論の批判を恐れず、「これ以上の妥協はしない」と割り切って慣例を破ってしまえば、その時点で野党の遅延戦術は効力を失うことになります。このように、野党の武器である「時間」は、与党側の抑制と、野党間の強固な団結という危ういバランスの上に成り立つ戦略と言えます。

「阿吽の呼吸」で成り立つ劇場型国会

 これらを踏まえると、現在の与野党による激しい対立プロセスは、実は「お互いのメンツと利益を守るために制度化されたパフォーマンス」という側面が見えてきます。

 政治の舞台裏で、与野党は常に世論の動向を敏感に伺っています。与党としては「数の力による強硬突破」という批判を避けたい一方で、野党側も「審議拒否ばかりで職場放棄をしている」と思われる事態は避けなければなりません。その結果、重要法案の最終局面で見られる「強行採決」の劇的なドラマは、実は水面下の暗黙の了解、いわゆる「阿吽の呼吸」のもとで演出されていることが少なくありません。

 この「劇場型」の構図は、双方に確かなメリットをもたらします。野党にとっては、「与党の横暴に対し、体を張って全力で抵抗した」というポーズを支持者や世論に力強くアピールする絶好の機会となります。同時に与党にとっても、「野党に軟弱な妥協はしなかった」という毅然とした姿勢を党内の強硬派に示しつつ、最終的な目的である法案成立を確実に果たせるという実利があります。

 こうした構造は、長期にわたり政権交代が現実味を帯びない「一党優位体制」が続いたことで、与野党の役割が固定化してしまった弊害とも言えるでしょう。形式上は激しく火花を散らしているように見えても、その実態には極度の緊張感はなく、むしろお互いの立場と固有の利益を維持するために寄り添い合っている――これこそが、現代の日本国会が抱えるリアルな構造なのです。

今後の国会

 今回の特別国会は、非常に異例の展開となりました。その背景には、皇室典範の改正案があったことが挙げられます。
 皇室典範は、国民の総意を重んじる皇室のあり方を決める重要なテーマであり、議論には何よりも「静謐な環境」が求められます。しかし、実際の国会では野党による審議拒否が行われ、決して静謐な環境とは言えない状況でした。結果として野党の審議拒否が一定の効力を発揮したものの、ひとたび法案が成立してしまえば、今後は「強行採決」に近い形で進めることも可能になってしまうでしょう。
 また、現政権の支持率が大幅に下落していないこともあり、今後の政局を見据えると、次の臨時国会も「定数削減」を巡る与野党の駆け引きが中心の国会になりそうです。

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