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『手紙よりも、香りで伝えて』母の日編



1.

「母の日、どうしようかなあ」

有坂真央、29歳。
都内のデザイン事務所で働く彼女は、今年もカレンダーに小さく赤丸をつけていた。
5月12日。日曜。母の日。

特に派手なイベントをしてきた記憶はない。でも、忘れたこともない。

「今年は、ちょっとだけ背伸びしてみようかな…」

そのつぶやきの奥には、去年の記憶があった。
あのとき母は、まるで気づいてないような顔をして、あとでこっそり真央の姉に「うれしかった」とLINEしていたらしい。

母のそういうところを、真央はずっと知っていた。



2.

真央の母、有坂百合子は、50代後半。
いつも「安いのでいいよ」と言うくせに、きちんとした場では、香りをまとう人だった。

“香水じゃなくて、ボディクリームにしてるの。ふわっと香るくらいが好きだから”

真央が中学生のころ、母がそう話したのを、妙に覚えていた。



3.

楽天の画面をスクロールしていて、ふと目にとまった。

「ジョー マローン ロンドン イングリッシュ ペアー & フリージア ボディ クレーム」


柔らかな梨と花の香り。白いギフトボックス。
どこか、自分の母に似ている。
派手じゃないけれど、気品がある。言葉にしない分だけ、芯がある。

レビューを見ていて、不意に目が止まった。

「母に贈りました。“これを塗ると、ちゃんとした人になった気がするの”と笑っていました」

ああ、わかる。
きっと母も、そう言う。



4.

母の日の朝。真央は、実家の玄関のチャイムを押した。

「ちょっとだけ寄ってくね」

キッチンにいた母が出てきて、「あら、朝から?」と驚いた顔を見せる。
真央は、白い箱を差し出した。

「母の日。いつもありがとう。これ、良かったら使って」

母は箱を開けて、白いラッピングをほどいた。

「……ジョー マローン? 真央、こんな高いの…」

「いつも“安いのでいい”って言うけど、私が“あげたいのがこれだった”って思ったから」

母はしばらく黙っていたが、ふと蓋を開けて、香りを確かめた。

「……うん、好きかも。この感じ。なんか、“きちんとした人”って気がするね」

言いながら、笑った。

その笑顔に、真央の心がほぐれた。



5.

「昔、あなたが反抗期で全然口を利いてくれなかったときね」
コーヒーを出しながら、母はぽつりと言った。

「お風呂上がりに、自分のボディクリームの香りが洗面所に残ってるのを見て、ああ、あの子まだいるなって、ほっとしてたの。バカみたいだけど」

真央は笑いながら、少し泣きそうになった。

香りは、言葉よりもずっと残る。
そう思った。


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エピローグ

数日後、姉からLINEが来た。

《お母さん、毎日そのクリーム塗ってるって。しかも出かける前に香りチェックしてる(笑)》

真央はそのメッセージを見ながら、静かに笑った。

今年の母の日は、手紙じゃなくて、香りで伝えた。
それでも、ちゃんと届いた気がした。



作品に登場した商品(楽天リンク)

ジョー マローン ロンドン イングリッシュ ペアー & フリージア ボディ クレーム 50mL(ギフトボックス入り)
優しく上品な香りで、大切な人に「ありがとう」が伝わる特別なひと品。




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