AI時代、なぜ業務ツールは良くならないのか
「作る側全員にブレーキがかかる」構造の正体
tags: AI時代, 業務ツール, CRM, コンサルティング, SIer, オフショア開発, 効率化のジレンマ
はじめに:作れるのに、届かない
あなたの会社のCRM、ちゃんと使われていますか。
入力はしている。でも「活用」はされていない。
月次レポートを出すために仕方なくデータを入れるけど、それを見て営業戦略を変えた経験はない。
面接記録はWordファイルがフォルダに溜まっていくだけで、「去年の採用で何がうまくいったか」を振り返れる状態にはない。
AI時代と言われて久しい。
ソフトウェアを作るコストは劇的に下がった。
技術的には、今の業務ツールの不満をすべて解消するものが作れる。
なのに、現場のツールは一向に良くならない。
なぜか。
私は28年間、業務系のIT企画とコンサルティングをやってきました。
そしてこの数年、自分でAIを使って業務ツールを作っています。
その過程で気づいたことがあります。
これは技術の問題ではない。作る側全員に「良いものを届けないインセンティブ」がある、という構造の問題だ。
1. 作る側全員がブレーキを踏んでいる
業務ツールの開発・導入に関わるプレイヤーを並べてみます。
コンサルティングファーム、SIer、受託開発会社、オフショア開発チーム、大手SaaSベンダー。
この全員が、実は業務ツールを効率的にする方向に動けない構造を抱えています。
一方で、経営者も現場担当者も「もっと良いツールがほしい」と思っている。
作る側は全員ブレーキを踏み、使う側は全員アクセルを踏みたい。
これがAI時代になっても業務ツールが良くならない根本原因です。
順番に見ていきます。
2. コンサルティングファームのジレンマ
コンサルタントの売上は「人×時間×単価」で成り立っています。
チームの売上は、この「人月」の積み重ねです。
ここにAIを使った業務ツールを導入するとどうなるか。
たとえば、クライアントに業務改善のプロジェクトを提案しているとします。
従来なら、現状分析に2ヶ月、課題整理に1ヶ月、解決策の設計に2ヶ月、導入支援に3ヶ月。
合計8ヶ月のプロジェクトです。
ところが、AIを活用した業務ツールをベースにすると:
・現状データの分析は、AIが数日で構造化できる
・課題の整理も、データを読み込ませればパターンが見える
・ツール自体がソリューションになるので、設計・実装が大幅に短縮される
・導入後の定着も、使いやすいツールなら研修期間が短くて済む
8ヶ月が2ヶ月になる。
プロジェクトの期間が4分の1になれば、売上も4分の1になる。
クライアントにとっては良いことです。同じ成果を短期間・低コストで手に入れられる。
でも、コンサルティングファームの経営としては、売上が激減する。
チームメンバーの稼働を維持できなくなる。
頭では「AIを使えばもっと良い提案ができる」とわかっている。
でもそれをやると、今のビジネスモデルが壊れる。
だから、手が止まる。
「まだAIは精度が不十分だから」「クライアントの理解が追いつかないから」
こういった理由をつけて、従来型のプロジェクトを続ける。
合理的な判断です。生存のための判断です。
でも、結果としてクライアントに最善のソリューションは届かない。
3. SIer・オフショア開発の力学
SIerと受託開発会社の売上構造も、基本は同じです。
「エンジニア×時間×単価」。
見積もりの段階で、すでにブレーキは組み込まれています。
クライアントから「CRMを作ってほしい」と相談が来る。
営業がヒアリングし、SEが要件をまとめ、見積もりを出す。
このとき、彼らは当然「十分な工数」を確保しようとします。
要件定義、基本設計、詳細設計、開発、テスト、移行・研修。
フェーズを分け、それぞれに月単位の期間を置く。
合計で1年以上、チーム体制で数千万円規模の見積もりになることは珍しくありません。
AIを使えばどうなるか。
要件さえ明確なら、プロトタイプは1週間で動く。
そこからカスタマイズして実用レベルにするのに1〜2ヶ月。
必要な工数は、従来の何分の一かで済む。
でも、SIerがそんな見積もりを出すことはありません。
出したら、売上が大幅に減る。
社内のエンジニアを遊ばせることになる。
会社の存続に関わる。
だから、AIを使わずに従来のやり方で作り続ける。
オフショア開発に至っては、さらに直接的です。
彼らの競争力は「日本より安いエンジニア単価」にあります。
この「人件費の差」がビジネスモデルの根幹です。
AIがコードを書けるようになると、この差が意味をなくす。
AIの利用料は、どの国のエンジニアの人件費よりさらに安い。
AIは、彼らの存在意義そのものへの脅威です。
だから、オフショアチームからAI導入の提案が出てくることは、まずありません。
むしろ「AIのコードは品質が不安定だ」「セキュリティリスクがある」と、抵抗する側に回ることが多い。
これも合理的な行動です。自分たちの仕事を守っている。
でも、結果としてクライアントは本来より高いコストで、本来より遅い納品を受け入れている。
4. SaaSベンダーの「機能肥大化」
大手SaaSベンダーの力学は、少し毛色が違います。
彼らは「作るのが遅い」のではなく、「わざと複雑にしている」。
SaaSのビジネスモデルは月額課金です。
ユーザー数×月額単価で売上が決まる。
この単価を上げるには、機能を増やして上位プランに誘導するのが常套手段です。
Salesforceが典型です。
もともとはシンプルな営業管理ツールでした。
それが20年かけて、マーケティング、カスタマーサービス、EC、分析、AI──
ありとあらゆる機能を取り込んだ巨大プラットフォームになった。
結果、何が起きているか。
「使っているのは顧客リストと商談管理だけ。機能のごく一部しか使っていない。」
こういう声は、中堅企業の営業現場で珍しくありません。
本当に必要な機能だけシンプルに提供すれば、はるかに安く済む。
でも、それをやるとベンダーの売上が激減する。
だから機能を足し続ける。カスタマイズ用のコンサル契約を勧める。連携開発を提案する。
ユーザーが本当に求めているのは、自分たちの業務に合ったシンプルなツールです。
商談の進捗が一覧でわかる。次にやるべきアクションが見える。入力が簡単。これだけでいい。
しかし、「これだけ」では高い月額は取れない。
だから複雑にする。複雑だからコンサルが必要になる。コンサルが入ると導入に半年かかる。
半年かけた結果、現場は「使いにくい」と言う。
機能を足せば足すほど、使われなくなる。でも、足さないと売上が立たない。
SaaSベンダーもまた、構造的なブレーキの中にいます。
5. 使う側はずっと待っている
ここまで「作る側」の話をしてきました。
では「使う側」はどうしているか。
ずっと待っています。そして、待ちくたびれて自力でなんとかしている。
Excelで顧客リストを管理している営業部。
スプレッドシートで面接評価を集計している人事部。
Googleカレンダーのスケジュールを月末に目視で勤怠表に転記している総務部。
彼らは別に好きでExcelを使っているわけではありません。
「もっと良いツールがあるはず」と思いながら、
ベンダーの見積もりを見て諦め、
SaaSの機能一覧を見て途方に暮れ、
結局「今のやり方を続ける」という判断になる。
ツールがないのではない。「使えるツール」が届いていないのです。
AI時代になって、この状況はさらに皮肉なものになっています。
技術的には、彼らの不満を解決するツールは数日で作れる。
でも、作る側のインセンティブ構造がそれを阻んでいる。
技術は準備できている。ビジネスモデルが追いついていない。
6. ブレーキを外すには
この構造を壊す方法は、論理的には一つしかありません。
「作る側」と「使う側」の壁をなくすこと。
業務がわかる人が、自分でツールを作る。
あるいは、業務がわかる人に直接相談して、何を作るか一緒に決めてから作る。
間にコンサルが入らない。SIerが入らない。オフショアチームが入らない。
だからブレーキがかからない。
AIはこれを可能にしました。
業務を知っている人がAIと対話すれば、「このデータをこう見たい」「この画面にこのボタンがほしい」をそのまま形にできる。
何を作るべきかが明確だから、プロトタイプは数日で動く。
現場で使ってみて、「ここが違う」と思ったらすぐ直す。
速さの違いは「技術力」の差ではありません。
「良いものを届けるインセンティブがあるかどうか」の差です。
ベンダーは工数で稼ぐから遅くなる。
業務がわかる人は自分が使いたいから速くなる。
おわりに:あなたの業務ツール、誰のために作られていますか
AI時代に業務ツールが良くならない理由は、技術の問題ではありません。
コンサルは人月で稼ぐ。
SIerは工数で稼ぐ。
オフショアはエンジニアの頭数で稼ぐ。
SaaSは機能追加で稼ぐ。
全員が「もっと時間をかけよう」「もっと機能を足そう」「もっと人を増やそう」と動いている。
使う側だけが「もっとシンプルに、もっと速く、もっと安く」を求めている。
この構造は、これまで見えにくいものでした。
選択肢がなかったから。ベンダーに頼むしかなかったから。
でも今、AIによって選択肢が生まれた。
業務がわかる人が、自分の手で、自分のためのツールを作れるようになった。
作る側のブレーキに付き合う時代は、終わりつつあります。
あなたが毎日使っている業務ツール。
それは、誰のために作られたものですか。
あなたの業務を楽にするためですか。
それとも、作った側の売上を維持するためですか。
その問いに向き合うことが、AI時代の業務改善の第一歩だと思っています。
HARMONIC insightは、「業務がわかる人がAIで作る」業務ツールを開発しています。「現場で本当に使えるツール」にご興味のある方は、お気軽にご相談ください。
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