「ブゴニア」人類の巣箱
タイトルの「ブゴニア」は耳慣れない言葉だ。
「ブゴニア」とは「牛を殺し、その死体を密閉するとそこから蜂が自然に発生する」という説のことで、このことがギリシャ・ローマでは信じられていたらしい。
これは自然発生説の一種であり、もちろんこれには科学的な根拠はない。
本作では「蜂」がメタファーとして至る所に出てくる。
これから「蜂」というキーワードをヒントに本作を読み解いてみる。
ネタバレ全開となるので、ここから先は鑑賞後に読んでいただきたい。
本作の登場人物は主に三人。
大手製薬会社のやり手の女性CEOミシェル。
そして陰謀論に染まっているテディとその従兄弟のドンだ。
テディとドンはミシェルをエイリアンだと信じ、人類を滅ぼそうとするのを止めさせるため、彼女を誘拐する。
テディは家の近くで養蜂を営んでいる。
早速に「蜂」のモチーフが登場する。
蜂は社会的昆虫と呼ばれる。
女王バチ、働きバチなどの役割があり、それらが総体として一つの社会を作っているからだ。
養蜂家の視点から見ると、その蜂の社会は巣箱となる。
その蜂の社会が崩壊する現象がある。 CCD(コロニー崩壊性症候群)と呼ばれるものだ。
具体的には、突然働きバチがいなくなり、巣箱に女王バチと幼虫だけが取り残されてしまうのだ。
その原因には諸説あり、農薬のために引き起こされるとも言われる。
テディはミシェルの会社の農薬により、CCDが起こったと信じている。
月食まであと⚪︎日と表示される画面の中央にあったものに気づいただろうか。
陰謀論で語られることもあるフラットアースであり、それをシャボン玉のような球体(バブル)が包んでいる。
大地の周囲には海があり、滝のように海水が落ちている。
これと同じものは、ラストでミシェルが帰還した宇宙船にもあった。
彼らこそが、人類を生み出し、育ててきた存在であった。
テディの妄想は正しかったのだ!
彼らはエイリアンというよりも神に等しき存在かもしれない。
ミシェルも自分たちの姿に似せて、人類を作ったと言っていた。
彼らにとってバブルは、養蜂家にとっての巣箱と同じようなものだ。
その中で、小さな社会が営まれている。
ミシェルたちエイリアン(もしくは神)は自分たちの巣箱の中の社会が崩壊しようとしていることに気づいている。
巣箱の中で絶え間なく争いが起こり、殺し合い、暮らしている環境を破壊している。
まさに人類が暮らす巣箱の中で、社会崩壊(CCD)が起ころうとしているのだ。
その状況を知ろうと、ミシェルは巣箱の中に入っていったのだろうか。
しかし、養蜂家がCCDを止められないように、ミシェルにもそれを止めることはできない。
結果として、彼らはリセットすることを選択する。
養蜂家がCCDが起こった巣箱を綺麗にし、新しい蜂を向かい入れようとするように。
最後に、なぜテディは真実を言い当てることができたのであろうか。
それについては劇中では何も触れられていない。
おそらくミシェルたちにもわからなかったのではないか。
ここにきて「ブゴニア」である。
「ブゴニア」は自然発生説の一種であった。
牛の死体(無)から、蜂(有)が生み出される。
テディの真実を言い当てた妄想は、彼の地下室の奥にあった死体(無)から生み出された。
そしてそれは真実(有)を生み出したのだ。

