人事施策の成果ってなんだっけ?:「問いで繋がるリレー投稿まつり」
こんにちは、原田です。私は人事コンサルタントとして働きながら、社会人大学院で経営学を学び、人材開発・組織開発を専門に研究しています。
今回は「問いで繋がる 春のリレー投稿まつり」として、ある出来事をきっかけに、人事施策の「成果」について考えてみたいと思います。
(&anteさん、企画・運営ありがとう!!)
きっかけはクライアントのある一言
「この『成果』って言葉、あまり使いたくないんですよね…」
あるワークショップに向けて、人事施策の目的や発信するメッセージについて相談していた際のことでした。
「『成果』と書くと、売上や利益を思い浮かべてしまうじゃないですか。でも、それだけじゃなくて、従業員がいきいきと働くことも大事なんです」
具体的な表現は控えますが、クライアントはこのような趣旨の話を続けました。
私はもともと「成果」を売上や利益だけに限定して捉えていたわけではなかったので、「なるほど、『成果』という言葉のイメージは人によって違うのか」と思い、表現の仕方について議論しました。しかし、次第に「そもそも、この人事施策のゴールをクライアントと共有できていたのだろうか?」という疑問が湧いてきました。
確かに、「目指しているのは売上や利益だけではない」という考え方には共感します。一方で、「従業員の幸せ」は、良い人材・組織づくりを通じて会社の発展に貢献するプロセスの一部とも言えます。しかし、それを「途上のもの」として捉えると、あたかも従業員の幸せを手段として利用しているような罪悪感も覚えます。一方で、投資したお金や時間の費用対効果を考えれば、売上や利益につながることを示す必要があるとも感じます。
では、最終的に目指すべきは「会社の発展」なのか、「従業員の幸せ」なのか? いや、そもそも二者択一の問題ではないのでは?
このクライアントの一言をきっかけに、「人事施策の成果とは何か?」という問いが頭の中をぐるぐる巡るようになりました。そこで、この場を借りて、「成果」について先人の知恵をひもときながら考えてみようと思います。
ドラッガーの唱える「成果」
まず、経営・マネジメントの観点から「成果」を見てみます。
“マネジメントの父”と称されたピーター・ドラッカーは、「成果は外にある」と述べ、売上や利益ではなく「顧客への貢献」こそが成果であると主張しました。
組織の中に成果は存在しない。すべての成果は外の世界にある。客が製品やサービスを購入し、企業の努力とコストを収入と利益に変えてくれるからこそ、組織としての成果があがる。
これは「企業活動」の成果であり、人事施策の成果とはやや異なる視点ですが、「顧客に貢献する」という要素が加わりました。また、「売上や利益は、顧客への貢献の結果である」という考え方も示されています。
大学院で学んだ人材開発・組織開発がもたらす「成果」
次に、人事施策により近い「成果」を見てみます。
大学院では、人材開発・組織開発のインパクトを以下の三つに整理して学びました。
①人的資源におけるインパクト(Human Resource)
②職場へのインパクト(Workplace)
③経済的なインパクト(Financial)
また、人材開発・組織開発は、現場の「行動変容」を促し、それを通じて「戦略」を実現することで、間接的に成果(利益)に貢献すると学びました。

「現場」「戦略」「利益」――異なるレイヤーでの「成果」が存在することがわかります。一方で、これらの成果を直線的に結びつけるのは容易ではなく、また「戦略を実行する主体」としての人・組織の役割が重要であることも見えてきました。
組織行動論から見る「成果」
次に、組織行動論の視点から成果を考えてみます。
組織行動論とは、「組織内の個人や集団の行動・態度」がどのように形成され、変化するのかを研究する学問です。この分野における成果には、以下のような種類があります。
行動的成果
参加(離職意志、など)
役割内行動(業績、欠勤、など)
役割外行動(組織市民行動、など)
態度的成果(職務満足、ワーク・エンゲージメント、など)
「行動」という目に見える成果と、「態度」という目に見えない成果があることがわかります。近年、エンゲージメント施策などのサーベイが注目を集めているのも、こうした「見えない成果」への関心が高まっているためでしょう。
組織開発の歴史から見る「成果」
最後に、組織開発の研究を振り返ります。
社会心理学者クルト・レヴィンは、リーダーシップスタイル、集団意思決定、変革マネジメントの研究で知られ、「解凍―変化―再凍結」モデルや「アクション・リサーチ」といった手法を提唱しました。
レヴィンはユダヤ系であり、アメリカに亡命した経験を持つことから、民主的価値を重んじていました。この考え方は現代の組織開発にも受け継がれており、ヒューマニスティックで民主的な組織の実現が目指されています。成果には、哲学的な要素もあることがわかります。

まとめ:「成果」は多様だからこそ、思考と対話が必要
クライアントの一言をきっかけに、「成果」という言葉を掘り下げ、先人の知見を参照しました。その結果、「成果」という言葉自体が「ビッグワード」――抽象的で多様な解釈を生む言葉――であることに気づきました。
誰に向けて、どのレイヤーで「成果」を語るのか? 最終的な目標と現場の行動変容は結びついているか? 目に見えない「成果」をどれだけ明確に想像できているか?根底に「人として」の血を流すことができているか?
これらを改めて問い直し、思考を深めることが重要だと感じました。そして、「成果」の解釈が人によって異なるからこそ、可視化し、対話を重ねることが必要だと肝に銘じたいと思います。
