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静寂と情熱のあいだ。「白き流れ」に身を委ねて「行雲流水(こううんりゅうすい)」のように

日々の暮らしの中で、ふと足を止めたくなる瞬間があります。 それは、空の色が驚くほど綺麗だったり、風の音が心地よかったり。 そして、人の手が生み出した「静けさ」に出会ったとき。

先日、山口県長門市で作陶を続ける田原崇雄(たはらたかお)さんの作品に触れ、まさにそんな感覚に包まれました。 400年以上続く萩焼の伝統の中にありながら、どこか新しい風が吹いている。

田原さんは言う、

「萩焼はその場にあるものを決して邪魔しないんですよ。」と、

その個性は保ちつつ、どんなものにも場にも合い、雰囲気を壊すことがない。何を相手にしてもお互いを引き立てることが出来る。

「静かで、強く、語らない。それでも手に取ると、なぜか心が静まる」
それは、日本を代表する石、『翡翠』の魅力を感じさせます。

今日は、そんな美しい器と、それを作り出す心について綴ってみたいと思います。

■ 森の記憶を映す「白」

萩焼深川古窯跡群(山口県指定史跡)

田原さんの作品の代名詞とも言えるのが、「流白釉(りゅうはくゆう)」という独自の表現です。

「流白釉(りゅうはくゆう)」という独自の表現

初めてその器を見たとき、私は「水」を感じました。 器の表面を流れる白と、その奥に潜む深い緑色。それはまるで、苔むした岩の間をさらさらと流れる清流のようです。

資料を読んで驚いたのは、この色が「偶然の積み重ね」から生まれたということ。 工房の近くにある古い窯跡で、かつての陶工たちが残した陶片を見つけ、そこにある美しい釉薬(ゆうやく)の流れにハッとしたそうです。

かつての陶工たちが残した陶片を見つける。

何百年も前の誰かが作ったもののかけらが、今の時代に生きる田原さんの感性と共鳴して、新しい「白」が生まれた。 そう思うと、手にした器の中に、途方もなく長い時間が閉じ込められているようで、胸が熱くなります。

■ 「行雲流水(こううんりゅうすい)」のように

由緒ある窯元の家に生まれるというのは、私たちが想像する以上に重圧があることなのかもしれません。 「どうやって自分の色を出せばいいのだろう」と悩んだ時期もあったそうです。

釉彩水指(ゆうさいみずさし)、釉彩振出(ゆうさいふりだし)

そんな田原さんの座右の銘は、「行雲流水(こううんりゅうすい)」。 空を行く雲や、流れる水のように。 何かに執着するのではなく、自然の成り行きに寄り添いながら、淡々と、でも確実に前へ進んでいくという意味です。

萩茶碗

その言葉通り、田原さんの作品には無理な力が一切入っていないように見えます。 土があり、炎があり、人の手がある。 そのすべてが調和して、ただ「そこに在る」という佇まい。 忙しい毎日を送る私たちが忘れかけている「余白」が、そこにはありました。

花江茶亭にて萩茶碗

■ 景色を纏(まと)う

もう一つ、心惹かれたのが「纏景(てんけい)の器」と呼ばれるシリーズです。 これは、建築現場の足場や骨組みから着想を得たものだそうです。

纏景(てんけい)の器

普段、私たちが街中で見かける無骨な鉄骨や構造物。 田原さんの目を通すと、それらもまた一つの「景色」として切り取られ、萩焼の柔らかい土と融合して、アートへと昇華されます。

纏景(てんけい)の器

「硬いもの」と「柔らかいもの」。 「人工的なもの」と「自然なもの」。 相反するはずの二つが、一つの器の中で静かに手を取り合っている。そのバランス感覚に、作り手の優しい眼差しを感じずにはいられません。

灰被茶碗(はいかぶりちゃわん)、灰被茶入、灰被四方水指

■ 白き流れのままに

「萩焼はその場にあるものを決して邪魔しない」と田原さんは語ります。 どんな料理も、どんな空間も、優しく受け入れて引き立てる。

鉄釉彩六角花器(てつゆうさいろっかくかき)、流白釉花入(りゅうはくゆうはないいれ)

それはきっと、作り手である田原さん自身が、伝統という大きな川の流れに逆らうことなく、けれど自分という笹舟を浮かべて、その流れを楽しんでいるからなのかもしれません。

鉄釉彩花器(てつゆうさいかき)

山口県には、こんなにも素敵な感性を持った作家さんがいます。 もし、どこかで田原崇雄さんの器に出会うことがあったら、ぜひその「白き流れ」を感じてみてください。

流白釉鉢(りゅうはくゆうばち)

きっと、心の中に静かで清らかな風が吹くはずです。

次回は、萩と翡翠について考察してみます。

HIROHOUSE 一級建築士事務所 代表:原口 良裕


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