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【短編】ファン

ミュージシャンになりたくて上京した。
中学生の時、ラジオから流れてきたビートルズに衝撃を受けて「スゲェ!」とマジで思った。
高校に入って仲間とバンドを作った。
もちろん俺はギター担当。
そしてボーカルも担当。
授業が終わったら速攻で仲間と落ち合い、仲間の親が所有してる廃ビルで楽器をならした。
先輩から借りたギターやドラムやベース。
習った訳じゃないからコードが目茶苦茶だった。
それでも楽しかった。
いつしかミュージシャンになる事が夢になった。
大学は東京にした。
…と言っても勉強なんてしてないからソコソコ低辺レベルの大学だったけど…。
そして高校時代からのバンド仲間もみんな東京に出てきていた。
六畳一間の部屋に男が四人。
狭いしお風呂もない。
トイレだって共同トイレが二つあるだけ。
金がない俺達には仕方がない。
それでも楽器をならしてる時が何よりも楽しかった。
バイトに明け暮れる日々も続いたがスタジオを借りる為だと思ったら苦にもならない。
ただ一応、大学生ではある訳で…殆ど出ない授業に金を払うのがバカらしくなって中退した。
きちんと四年間通って卒業したのは一人だけだった。
そして俺達は曲を作ってはレコード会社に売り込みに行く日々を過ごしていた。
世の中、そう甘くはない。
もう何度目? 何年経った?
心が挫けそうになりながら、それでも俺達はミュージシャンになる夢を捨てなかった。
ようやく…本当にようやく持ち込んだ曲が認められた!
上京して7年は経っていた。
「良い曲だ!これでデビューしてみるかい?」と言われた時は全員で飛び上がらんばかりに喜んだ。
「お願いします!」俺達は揃って頭を下げた。
そうして決まったデビュー!
でも俺達は一向に売れる気配がなかった。
シングル曲が売れないから誰も俺達の事を知らない。
テレビに出るには、それなりに売れなきゃならない。
俺達を知ってもらう為に何処ででも歌った。
路上はもちろんデパートの屋上、単に広い公園みたいな所、ライブ会場と言うよりもスタジオみたいな所。
あらゆる所で歌った。
そうやってコツコツと頑張ってたら、ある日マネージャーから連絡がきた。
「おめでとう!初登場1位だよ!」
そう!
1週間前に発売したシングルが1位を獲得したのだ。
そこから世界が変わった。
俺達は押しも押されぬスターへの階段を登り始めたのだ。
出す曲、出す曲、全てが1位をとるようになった。
やった! やっと、ここまできたんだ!
お世話になった事務所をやめて俺達だけの会社を作った。
もちろんファンクラブも当然のように作った。
コンサートで全国を回る日がくるなんて!
デカい会場でやるコンサートには毎度、鳥肌が立った。
少しずつだがファンクラブ会員も増えていった。
挫けずにここまで頑張ってきて本当に良かった。
俺達は成功したんだ。
そんな毎日を送っていて…ある盲点に気付いた。
カレンダーの撮影やコンサートで販売するパンフレットの撮影、会報の撮影に付きまとう悪質なファンが出てきたのだ。
まさか俺達のファンに限って…噂はある程度、聞いてはいたが俺達のファンに限って、そんな…。
当然、撮影だって仕事だ。
スタッフが注意するも聞き入れないファンが増えてきた。
それどころか…どうやって俺達のスケジュールを知るのか判らないが…俺達の行く先々までついてくるファンまで出だした。
これには頭を抱える羽目になった。
スタッフの注意は聞かない。
だったら俺達が発信すればいい。
会報に「付き纏いは止めるように!」と注意喚起した。
…が無駄足だった。
現場でも俺達は「仕事中だから」と注意したが無視して「笑って!」「一緒に写真撮って!」とか、もう制御がつかない。
下手すると撮影中に、いきなり割り込んでくるファンまでいる。
俺達は「売れる」という意味を今更ながらに理解し始めた。
どうするべきか?
そういった悪質なファンは、ほんの一握りだ。
全てのファンはマナーを守ってくれている。
「仕方ないよ」
俺達は決めた。
いわゆる悪質なファンの出禁だ。
コンサートには参加させない。
会場も立ち入り禁止。
ファンクラブ退会。
念の為ブラックリストも作成した。
ここまでやったら少しは考えてくれるだろう。
たがファンも考える。
自分がブラックリストに載ってると判ると偽名を使ってくる。
ブラックリストには今まで注意しても聞かなかった人達の顔写真も備えてる。
だから偽名を使っても同じなんだが…。
偽名でファンクラブに入会してきても、今の俺達のコンサートでは顔写真が判る物を確認するようにしてる。
ダフ屋が横行し始めたからだ。
だから一緒なんだけど…。
とにかくルールを守ってくれている多数のファンを守る為に強行に及んだ。
少しずつ悪質なファンは減っていった気がする。
だが今度はSNSだ。
弾かれた悪質なファン達が一斉に悪意ある投稿をし始めたのだ。
なかには普通に書き込んでくれているファンに対して批判めいた事を書き込んでいる。
これにはお手上げだった。
さすがにSNSは、どうする事もできない。
なるべく俺達も発信して「気にしないで!」と何度も書き込むが、もうイタチごっこだ。
「売れる」とは、こういう事なのか?
俺達は今でも歌う事を続けている。
悪質なファンとも戦い続けている。
俺達は、俺達を応援してくれる普通のファンを大切にしながら活動している。
これからも悪質なファンとの戦いは続くだろう。
それでも俺達は歌い続ける。
それが俺達が決めた事だから…。


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