エントロピーの拡大 1
【プロローグ】
コーヒーにミルクを注ぐとき、人はふたつの液体がどの瞬間に溶け合うのかを正確には見分けられない。
最初ははっきりとした境界線がある。黒と白。けれど、スプーンで一度かき混ぜればすべてが曖昧になる。やがてコーヒーは一色に染まり、元の姿には戻らない。
それがエントロピーの拡大。
秩序から無秩序へ、分かたれたものがひとつに還っていく流れ。
人間は誰しもが何かのコミュニティに属し、その中の決められた秩序に従って生きている。
小さなものでいえば、地域だったり家族だったり大きなものでいえば国だったり。
その一番大きくて小さな単位が“自分は人間である”という集合意識…。
世界がそれに抗わないのなら、人間だけが例外でいられるはずがない。
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