駅
まどろむ目をこすりカレンダーを見ると2月になっていた。早いものだ。
ガタンゴトンと規則正しいリズムを刻みながら進む各駅停車のように日々は過ぎていく。
もう何駅過ぎただろうか。どこから乗ったのか、終着駅さえもはっきりとはしない。
降りようとしている駅だけは決めている。
でもそれもうっかりすると寝過ごして通り過ぎてしまうような、本当に存在するのかどうかも分からない駅だったりする。
人生とはそんな掴みどころのない永遠に続く旅路なのだろうか。
降り立ったホームに人影はなかった。
どこの駅だろうと駅名を見ると、
「過去 ⇒ 現在 ⇒ 未知 」との文字。
なるほど、「未来」ではなく「未知」なんだな。
ふと反対ホームに目を向けると、さっきまで無人だったホームから誰かがこちらに手を振っている。
最初は小さかったその姿は次第に大きくなって、必死に手を動かして何かをこちらに伝えようとしているのが分かる。
(この感情は何だろう)
いつかどこかで経験したことのある感情。
言葉で言い表せないその感情に胸がざわついた。
こちらが両手を片方ずつ合わせてハートの形を作って見せた瞬間、その人はどこか寂しげな微笑みを浮かべて消えた。
再び列車に乗り込みしばらくすると車内アナウンスが流れてきた。
「ご乗車ありがとうございました。次は終着です」
どうやら今日という日の終わりを迎えたらしい。
いったいどれくらい列車に乗っていたのだろうか。
ここはどこなのだろうか。
真っ暗なホームに降り立つ人々の雑踏の中で駅名表示を探したが、今度はどこにも見当たらなかった。
帰路を急ぐ人をつかまえて尋ねた。
「ここはどこですか ? 」
その人が答えた。
「私にも分からないのです。正解なのかどうかも。たくさんのトンネルをくぐって、時に猛スピードで突っ走って、多くのカーブを曲がって、時に車線変更もして、ようやくたどり着いたのがこの駅です」
その言葉に妙に納得してしまった。
今、自分が立っている場所がどこなのか、ちゃんと分からなくてもいいのかもしれない。
今日、帰るべき場所も分からないけど、一晩ここの駅舎でゆっくり休むのもいいかな。
もう相当な距離を辿ってきたのだから。
駅を降りると凍てつくような寒さの中、ささやかな街灯が灯っていた。
(こんなところにも明かりがあったのか)
少し早い春の匂いを五感で感じながら、また今日もゆっくりと夢の中に落ちていく。
( 完 )
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