📘 心理ショートショート#42『届かない文字で描かれた君』ー片想い文芸部ー
アイデアは、いつも君のあとについてくる。
ノートの隅、鉛筆の跡、読みかけの本のしおり。
そして、図書室のすみっこで見つけた、一冊の奇妙な図鑑。
『セラフィニアン図鑑』
文字はまるで異国の虫のように這っていて、絵は夢の中でしか出会えない世界を描いていた。
でも、不思議と温かかった。
読み進めるたび、胸の奥がざわついた。
それはたぶん、君に似ていたから。
教室の席が前後になった春から、ずっと気づいてた。
君が話すときの目線、笑い方、紙のメモを折る癖。
でも言葉にはならなかった。
それはきっと、ぼくの気持ちが「まだ翻訳されていない言語」だったからだと思う。
図鑑の中の言葉は読めない。
でも、読めないままでしか伝わらないものが、あるのかもしれない。
ある日、君が図書室に来た。
「この本、好きなの?」
図鑑を開いたまま、ぼくはうなずいた。
君はページをひとつめくって、指をさした。
「この生き物、ちょっと私みたいじゃない?」
そこには、文字の読めないメモを何重にもくるんで、羽根にして飛んでいる蝶のような生き物がいた。
それが君であるなら、
ぼくはページの端に小さく描かれた、届かない手紙かもしれない。
送り先も、宛名も、見えないまま、ただ誰かの空に向かって飛び続けてる。
片想いって、きっとそういうものだ。
読めないけど、ずっとそばにある。
届かないけど、いつか開かれるかもしれない。
でもその図鑑のページは、次に会ったとき、なくなっていた。
まるで、何もなかったみたいに。

💬 神楽坂先生のひと言
気持ちが言葉にならないまま誰かを想うとき、人は図鑑を作ってるのかもしれないのよ。
誰にも読めない、その人だけの言語で。
👩🏫 神楽坂先生について
学園で国語を教える、冷静で理知的な女性教師。
また、心理学のエキスパートでもある。
恋愛相談の名手としても知られ、的確な言葉とちょっとした毒舌で、
生徒たちの“心のモヤ”を言語化してくれる存在。
もうひとつの顔は、匿名作家 綾瀬 心葉(あやせ・ここは)。
心理学とショートショート文学を融合させた物語作家として、
読者の心を5分でほどくショート作品を連載中。
このシリーズは、そんな彼女が“もうひとつの顔”で描く、
心の機微をテーマにしたショートショート集。
曖昧な関係、言えなかったひとこと、読まれなかったメッセージ──
そんな誰にでもある“感情のほつれ”を、物語として静かにすくい取る。
物語の最後には、神楽坂先生からの“ひと言”も。
感情をことばにすることで、少しだけ心が軽くなる。
そんな時間を、あなたにも。
「感情に名前をつけると、心は少しだけ軽くなるのよ」
🔖 シリーズのご案内
この物語は、
📘 「神楽坂先生の心理ショートショート」 シリーズの一編です。
たった5分で、心が少しほどける話。
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