《紙ヒコーキシリーズ 第14話》風が運んだ白い矢印
1|ざわつく朝の教室
朝の学校には、いつもよりざわついた空気が漂っていた。
昇降口のあたりから、生徒たちの小声が耳に引っかかる。
教室に入ると、前の席のやつらがノートを開きっぱなしで話し込んでいた。
「昨日さ、病院で倒れた研修生いたんやろ?」
「佳織さんって言ってたで。中学の卒業生の人やんな」
「救急呼ばれたらしいで」
その名前が、胸の奥にひゅっと落ちた。
(……佳織さん?
1回しか会ってへんのに、なんでこんな引っかかるんやろ)
保健室前で見かけた日のことが、ふっと浮かぶ。
紺色のスクラブ。救命人形を抱えた姿。
一瞬だけ交わった視線。
(あのときの顔……なんか、無理して笑っとった気がする)
そして昨日。
紙ヒコーキのメッセージを誰かが受け取ってくれた。
“つづき”と“ありがとう”に返すように、自分の胸もざわついていた。
(倒れたって……なんで。
もし、あの紙を見たんが佳織さんやったら……)
理由の分からない不安が、足元から静かにせり上がってきた。
授業が始まっても、黒板の字がぼんやりとしか見えなかった。
指先だけが汗ばんで、無意味にシャーペンを回してしまう。
チャイムの音すら、少し遠く感じた。
2|机に舞い落ちた白い紙
そのときだった。
“ふわり”
白い紙切れが、主人公の机に落ちた。
(……ん?)
拾い上げると、短くこう書いてある。
『外 来い』
字が変に丸くて、子どもが書いたみたいに読みづらい。
(誰やねんこんなん書いたん…)
肩越しに誰かがいたわけでもない。
視線を上げても、周りは普通に授業を受けている。
なんとなく落ち着かなくて、
主人公はそっと席を立ち、廊下に出た。
3|無言で待っていた草(くえんそう)
階段を降りかけたところで、視界に入った影があった。
——鉢植え。
いや、鉢植え“だけ”じゃない。
そこにいたのは、あの“動く草”、
君笑草(くえんそう)だった。
鉢の中でぷるぷる揺れながら、
まるで“こっち来い”とでも言いたげに葉っぱを傾けている。
「……お前、なんでここにおんねん?」
当然返事はない。
草やし。
けど、葉っぱがさらに“ぴょこっ”と動いた。
主人公は思わずため息をつく。
「……もしかして、この紙…お前が落としたん?」
葉っぱが、ひとつ揺れた。
肯定とも否定とも取れる曖昧な動き。
(なんやねん…通じてるんか通じてないんか…)
ただひとつだけわかるのは、
くえんそうが“呼び出した”のではなく、何か伝えたい意思があるということだった。
4|紙ヒコーキが風に乗る
くえんそうが葉っぱでちょん、と指した先には、
廊下窓の下に“折り目のついたプリント裏紙”が置かれていた。
(これ、折れってこと?)
ためらいながらも主人公は紙を拾い、
中途半端な折り目を整え直す。
「……飛ばせってか?」
返事はない。
ただ、風がそよっと窓から流れ込んだ。
主人公は深呼吸して、紙ヒコーキを放った。
白い機体はふらつきながらも上昇し、
校庭へ向かって“すーっ”と飛んでいく。
(うわ…なんでこんな綺麗に飛ぶん)
風に押されるように進んだその先。
校庭のフェンスの向こうで、
誰かがゆっくり手を振っていた。
——佳織だった。
白い研修着の上に薄手のパーカー。
腕のテープを押さえながら、無理に明るく笑っている。
紙ヒコーキは佳織の足元へ落ちた。
まるで最初から、そこを目指していたかのように。
主人公は息を呑んだ。
5|風が運んだ“矢印”
くえんそうの鉢が、ころん、と少しだけ前に動いた。
(行け、ってことか……)
主人公は一度くえんそうを見た。
返事はない。
でも、葉っぱがほんの少しだけ揺れた。
その小さな動きが、
背中を押すには十分だった。
主人公はゆっくり校庭へ歩き出す。
風がまたひとすじ吹き抜け、
その音がどこか優しかった。
(佳織さん……ちゃんと聞かないとあかん)
歩きながら、主人公は胸の奥でそう呟いた。
🌪️ 《最終回予告》風の向こうで、君は笑った
風が示したのは、
逃げずに向き合うべき“気持ち”の場所。
佳織が抱えていた研修の不安と、
主人公が飲み込んでいた本音。
そして——
動くだけだった君笑草(くえんそう)が、
ついに“声”を持つ瞬間が訪れる。
次回、いよいよ最終回。
《紙ヒコーキシリーズ 第15話(最終回)》
風の向こうで、君は笑った
乞うご期待。
